第十七話:再会と合流
俺達の乗った馬車隊は、アイゼン帝国の関所を抜けられた。
「それでは五の若君、ご武運を。 我々は後から来る領主様達の護衛に」
「え、父上達も来るのかよ?」
「ええ、御領主様方も若君の事はきちんと愛されておりますぞ」
「そうか、まあ頑張るよ」
ベーカー団長と関所前で交わした言葉を思い出す。
王国とは違い車窓から見える景色は、工場が多め。
都市から離れた郊外に工場作るのはわかる。
だが、王国への閑居問題に配慮が欲しいぜ家の領地が近いんだから。
魔導工学重視の工業国家とはいえ、煙突からカラフルな煙が出るのは不安。
「魔力の煙、ちょと怖いですね?」
フローラ嬢が不安がる。
晴れてはいるけど、何か煙が混ざって虹色の雲みたいなのができてる。
「帝国も環境問題の改善に努力してはいるみたいだけどね?」
レオンが顎に手を当てて呟く。
「世界を守るロボット作ってもらいたいが、その為に環境破壊はまずいな」
俺は瞳に炎を灯し、車窓から見たピンクや緑の煙の魔力を探る。
煙突からの排煙は、一応人間にはクリーンな方だと感じられた。
牙が外からの魔力を吸う装置のオークや角から魔力を吸うオーガには悪そう。
フローラ嬢達から聞いたが、ミズホ国はオーガが多い国らしい。
聖獣の力で世界の環境もどうにかしたい。
草原や山が多いシュトルム地方を抜け、首都ドランクへと馬車隊は進む。
馬車の整備や食事などの問題で地方都市シュテッケンに止まる。
シュトルム地方よりは規模は小さいが工房や工場が多い街だった。
後援会のお陰で、街で一番豪華な宿に泊まれた。
「……城だよな、この宿?」
「お城ですわね、間違いなく」
「ああ、この街の領主様がオーナーの古城ホテルだね」
「詳しいなレオン、まさかお前が予約したのか?」
「その通り、マッカと僕と仲間が泊まるなら良い宿にしないと♪」
「ありがとう、レオン♪」
「マッカ様、私も後援会設立に関わってますのよ?」
「まことにありがとうございます!」
レオンだけでなく、フローラ嬢にもキチンと礼を言う。
肉料理多めな食事、快適な風呂と睡眠で英気を養った。
王都を出て七日後、無事に俺達は首都であるドランクに着いた。
「ここが会場か、闘技場と言えば円形だよな」
ローマより武骨な灰色の円形闘技場、野球とかできそうな建物だ。
「ここが決戦の地ですね!」
「か、勝てるかなあ?」
「……勝ってみせるのよ、フェレット」
「がんばるぞ♪」
会場を前に、剣術部の面々はそれぞれ緊張や不安が出てる。
「よし、中に入って見ようぜ下見は大事だ♪」
俺は元気よく、一人で先に闘技場の中に入って見る。
「あら♪ お久しぶりですね、マッカさん♪」
「……むむっ! き、貴殿はもしやっ!」
「おおお~う! 久しぶりなのじゃ、マッカ~♪」
「いや、ちょっと待て! 一人ずつ!」
他の入り口から入って来たのは三人の美少女。
一人は銀髪の少女クラウ、知り合いだ。
もう一人は、褐色で茶髪のお団子頭のトランジスタグラマーのドワーフ娘。
記憶が正しければ、皇帝の第十五皇女のアデーレ様かな?
そして最後は、髪の色は青。ヘアスタイルは前髪ぱっつんのポニーテールな鬼娘。
額から二本角が生えてるからオーガだ。
着ているのは着物で武士娘? 何か泣いてるし!
「勇気、いやマッカ殿~~~っ! お会いしとうございました~~~っ!」
「いや、初対面で何だってんだよ!」
「危険ですから、止めさせていただきますね」
「マッカに何をする気じゃ!」
「ぬわ~~っ! 再会を邪魔するな~っ!」
「再会、どういう事でしょうか?」
「そなたミズホ人じゃろ? 王国と何か縁があったのかの?」
俺に突進して来る鬼娘、間に割り込んでブロックするクラウとアデーレ様。
「二人はありがとう。 オーガのお嬢さん、もしかしてブルー?」
まさかと思って尋ねてみる、俺を勇気と呼んだ以上前世の仲間だ。
「左様でござる~~~っ! 拙者、いえ私はアオイ・トクダイラ。 あなたの妻でございます我が背の君♪」
鬼娘、アオイ嬢がのたまう。
いや、君だけ前世と名前おんなじかい!
「何を仰っているのでしょうこのお方は?」
「そうじゃ! そなたはマッカとは今が初対面であろうに!」
クラウとアデーレ様が何故か不機嫌になる。
「いや、待った! その人は女神の託宣の人で俺の仲間!」
「女神様の託宣ですか?」
「詳しく聞かせて貰おうかのう、マッカよ」
「レオンとフローラ嬢も呼んでいいか?」
「マッカ殿、今世でもお慕い申し上げます♪」
いや、アオイ嬢? 消えかけた火が燃え上がるんですが!
「マッカ、大丈夫? って、もしかしてその鬼娘は葵ちゃん?」
「……マッカ様、これは一体どういう状況ですか?」
ちょっと待て、厄介ごとが増えた!
「取り敢えず、俺たちだけで話せるところへ行こう?」
「い~や、ここで話すのじゃ!」
「人払いですね。 わかりました、ホーリーガーデン!」
クラウが呪文を叫ぶと、俺達の頭上を光のドームが覆う。
「結界を張りました、こちらには誰も近づけません」
「クラウは、ありがとう」
「お礼は受け取りますが、ご説明を♪」
いや、クラウさん俺に重たい感情向けてない?
「ああ、アオイ嬢は俺やレオン殿下達の前世からの仲間だ」
俺は前世の事から説明する。
「ふむ、信じよう」
「信じましょう」
「早いな、二人共!」
クラウとアデーレ様の理解が早過ぎた。
「私はたった今、女神様から託宣を戴いたので」
「妾は天才じゃから♪」
クラウはそれができるなら、さっきの態度は何だよ?
アデーレ様は、まあそう言う人だな。
「これは、残りの聖獣の勇者が揃ったという事だね♪」
「そのようですわね、アオイ様はお久しぶりです♪」
「日南子、いえフローラ様。 今世では、負けません!」
「葵ちゃん、僕もいるからね?」
「プレシャス、いえレオン殿は男性では?」
「この世界は簡単に、魔法で性別は完全に変えられるんだよ♪」
「な! 恋敵が増えました!」
いや、何を言ってるんだお前らは?
「どうやら、妾のマッカは前世からモテるようじゃのう♪」
「わかります、私のマッカさんは素敵ですからね♪」
アデーレ様とクラウは勘弁してくれ。
「とりあえず、三人とも勇者団に加わってくれ」
「うむ、任せるが良い♪」
「私は元から仲間ですよ♪」
「拙者もでござる~♪」
「マッカ、僕もいるよ♪」
「正妻は私ですからね?」
五人の美少女と美少年が俺を囲む、逃げれない。
「わかった、俺について来い!」
こうなりゃ全部引き受けてやらあ!
まさか、出かけた先で再会と合流を果たすとは思わなかったぜ。
クレインとバッシュにも知らせないとな。
「でもまだ妾、試練を受けてないのじゃ」
「私、いえ拙者もでござる」
「私は、牛の勇者タウラスと名乗れます」
追加戦士三名の内、変身できないのは二名か。
そこもどうにかしねえとな。
「大会が終わったら試練に付き合うぜ、任せろ♪」
「流石は勇者様ですね♪」
「うむ、幼友達として誇らしいのじゃ♪」
「勇気、いえマッカ殿は今世でも素敵でござる♪」
「その素敵さを私だけに向けていただきたいですわ」
「マッカは僕たち皆で囲もうよ、焚火みたいに♪」
新旧集った仲間達が言い合う。
何はともあれまずは大会だ、やるしかねえ。
クラウが結界を解き、俺達は一時解散する。
勇者団の活動の前に表の顔の学生業もこなすぜ。
そして各地から続々と来賓がドランクの街に集い始めた。
王国からは俺の両親に農林大臣にレオン。
ホームである帝国は、皇帝陛下ダンケ三世。
教皇国からは教皇猊下。
ブロンズ国からはエルフの女王陛下。
唯一東側から参加のミズホ国は、来賓は無し。
うん、この流れはテロに警戒しないと不味い奴だ。
こう言うお祭りごとって、テロの標的になりやすいよな。
選手として闘技場の中から周囲の観客席を見回して思う。
勇者らしく守って見せるぜ!
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