第十六話:アイゼン帝国へ

 「うん、良いよ♪ 僕の内助の功だね♪」


 民間伝承研究会の部室。


 剣術大会の話を仲間達にするとレオンがしれっと笑顔で抜かした。


 「いや、お前のせいだからな! 剣術部を潰す気か?」

 「正確には浄化かな? 不埒な輩を潰したんだよ♪」

 「レオン様が懲らしめたのは、評判の悪い方達みたいでしたからね?」


 意外な真実が出てきた。


 レオンが叩きのめしたのは、フローラ嬢曰く女子生徒やら弱者に害成す不埒者。


 「僕だって地球を守った正義の味方の端くれだからね♪」

 「そうだったな、まあこっちがとばっちりを受けたのは事実だが悪かった」

 「こっちもごめん、マッカが剣術部に行くように計算してた♪」

 「やっぱりか、この野郎!」

 「マッカを活躍させる為の内助の功だよ♪ 君が僕のヒーローである事は永遠に変わらないけれど、全世界に向けてプロデュースとマネージメントして行くから♪」


 謝って損した気になった、良い話にオチを付けるなよ!


 「私、レオン様の事もわかりたくはなかったのですがわかっておりますから」

 「フローラ嬢は流石は我がライバルだね♪ 今世ではマッカのお嫁さんの座は僕に譲ってくれても良いんだよ♪」

 「それはそれ♪ マッカ様が一夫多妻制を選んだとしても、第一夫人は私です♪」


 おい、俺を無視死して話を進めるなよ前世の嫁と親友?


 「マッカが正義感に駆られて暴れると学園が爆発して崩壊しかねんからな」

 「オーバーキルは駄目ですからね、学園はコントのセットや悪の組織の基地みたいに爆破していいもんじゃないんですよ?」


 クレインとバッシュは酷いな言い方が、悪の基地の爆破は当然だろ?


 「マッカさん、前世で敵の基地を爆破した時に島の形が変わって観光協会からクレームが来たのを忘れてませんよね?」


 バッシュが俺の古傷を抉った。


 「連帯責任で始末書書かされた恨みは忘れてないぞ?」


 クレインも俺を睨んで来た、すまねえ!


 「そう言うわけだから、マッカは剣術大会頑張ってね♪」

 「私達も応援に行きますね♪」


 いや、応援してくれるんかい!


 「で、世界大会の会場は何処だ?」


 クレインが尋ねて来る、そう言えば聞いてなかったな。


 「マッカさん、今年の会場はドランクって街みたいですよ?」


 バッシュが教えてくれた。


 「げ、アイゼン帝国の首都じゃねえか!」


 幼い頃、三度ほど出かけた事がある所

が会場と聞いて驚いた。


 「と言う事は、サンハート領を通るわけだな」

 「マッカさん、苦い顔してますね」


 クレインが余計な事を言う、バッシュは俺の顔色を伺うな。


 「まあ、家の思惑無視して勇者になったので気まずいが仕方ねえさ」


 通り過ぎるだけだ、実家も馬鹿じゃないから嫌がらせとかはないだろう。


 こうして筋を通した俺は、翌日から剣術部の練習に加わる事になった。


 「マッカ・サンハートです、宜しくお願いします」

 「顧問のロールです♪ 皆さん、拍手♪」


 放課後の屋内競技場で剣術部の面々委挨拶をする。


 顧問は女性で、頭にロールパンのっけたみたいな茶髪に眼鏡の美人だ。


 「部長になったエミールです、改めて宜しくお願いします」


 エミール部長と改めて挨拶する。


 「……え? フェレットです、よろしくお願いします!」


 何かヒロイン顔のピンク髪の女子生徒が驚く。


 まさか、耽美本の読者か?


 「サルミアッキよ、よろしく」


 長い白髪でクールな印象のエルフの女子が名乗る。


 「ポンデです、宜しくお願いします」


 珍しくも懐かしい黒髪で褐色ドワーフの少年。


 そして俺の五人、限界部活じゃねえか?


 先生も含め全員が、白いユニフォームの上に茶色の革鎧姿の競技場。


 先生の前に横一列に整列し練習の開始。


 「それでは皆さん、筋力トレーニングから開始です♪」


 ロール先生、髪形はロールパンみたいだが真面目な剣士なんだな。


 腕立て伏せや腹筋に背筋、スクワットなどの筋トレをしたらストレッチ。 


 競技場内のランニングをしてからは素振り、突きや斬撃に受けの型稽古。


 素振りや型稽古は、木剣に加えて鉄で刃引きした模擬劍の両方で行う。


 「フェレットさん、突きの時の踏み込みが弱いですよ? このように!」

 「はい、ありがとうございます!」


 フェレット嬢の突きを見てロール先生が手本を見せながら修正を入れる。


 「サルミアッキさん、競り合いでは力比べをせず受け流しましょうね」

 「はい、雪解け水のように流します」

 「うおっと!」


 サルミアッキ嬢とポンデ君の稽古では鍔迫り合いからの受け流しを指導。


 先生は俺達の姿勢や打ち込みなどの動きを見て修正を入れて行く。


 この先生がいて、何で不埒者が出たんだろ?


 正直、半年しか王都にいないがまだまだわからん事だらけだ。


 一通り素振や型に打ち込みと練習を終えたら、小休止。


 皆から疲れた感じが見えたので、俺は回復魔法の提案した。


 「ああ、僭越だが回復魔法を掛けさせて貰って良いかな皆?」


 新入りで打ち解けたいし、良い奴らに思えたので彼らの力になりたくなった。


 「うん、お願いするよ♪」

 「私もお願いします」

 「ありがとう」

 「やった~♪」

 「先生からも宜しくお願いします、流石は勇者ですね♪」

 「どうも恐縮です。 んじゃあ、ヒールフレア!」


 火の粉を振りまく攻撃魔法にしか見えない回復魔法を彼らに掛ける。


 「うおおお! 元気が出て来た♪」

 「私もです!」

 「行ける、もっと剣を触れる!」

 「元気爆発だぜ!」

 「先生も熱血指導しますよ!」

 「やべえ、やり過ぎたか?」


 先生も含めた剣術部の皆が元気になりすぎた。


 部内での木剣での組手は、俺の魔法の所為で白熱した物となった。


 練習話終わり寮に戻ると俺は手紙を書く用意を始める。


 故郷を通る以上は筋は通さねばなるまい。


 「郵便代、手紙一通に金貨一枚は高いが仕方ねえよな」


 俺が剣術部に入った事と、選手として世界大会に出るので領地を通過する旨の手紙を実家に向けて書いた。


 翌日の昼休み、学園を出て王立郵便局に向かい貴族用の早馬郵便で手紙を出した。


 午後の授業を終えて剣術部の練習に行く。


敵の事も気になるが、下手に敵のいる藪を突いて事件を起こさせるのは、社会に混乱を起こして民の暮らしを壊すことになる。


他の国とも協力体制を築いた上で敵との戦に備える必要があるので、お前達だけで勝手に動くなと教皇猊下や国王陛下に釘を刺された。


 確かに、剣術部の面々のようなキラキラした青春を壊すのは偲びないな。


 俺も学園での青春を楽しみたい、部活で大会なんて久しぶりだ。


 翌日、レオンとフローラ嬢が手を回したのか剣術部の後援会が出来ていた。


 「僕達も応援に行くので、皆さんは大会を頑張って下さいね♪」


 レオンの奴が競技場に来て俺達に語り出す。


 この流れ、大会終わっても俺の掛け持ちは続く奴だ!


 授業免除で練習に励んだ俺達は、遠征費用などの問題なく旅立てた。


 「へ~? 赤い屋根の家がいっぱいだねマッカ♪」

 「ああ、懐かしいな」

 「マッカ様の故郷、赤が多い街並みですわね」


 レオンとフローラ嬢が呟く。


 故郷の街並みを馬車の車窓から眺める俺達。


 俺はレオンとフローラ嬢が乗る馬車に同席。


 剣術部の面々とは別の馬車になったが勇者団の話をするなら都合が良かった。


 街に入れば花火が上がり、応援の垂れ幕を持った領民達に歓声で迎えらえた。


 「げ? マジかよ、どうした俺の故郷?」

 「それは、自分達の領主の若君が世界大会に出るなら応援するでしょ♪」

 「マッカ様、領民に愛されてますのね♪」

 「いや、それほどでもねえよ」


 外からは五の若様、万歳! とか応援の声が聞こえて来るし。


 通り過ぎるとは手紙に書いたけれど、歓迎や応援をされるとは思わなかった。


 「皆ありがとう、頑張って来るぜ!」


 車窓から顔を出し、手を振り叫べば振った大歓声でレスポンスが来た。


 アイゼン帝国との関所の前には真紅の甲冑に身を包んだ騎士団が整列していた。


 俺が馬車から降りると、背の低い騎士が近づいて来て素顔を見せた。


 「お久しぶりですな、五の若君♪」

 「ああ、お久しぶりですベーカー団長♪」

 「この度は世界大会出場おめでとうございます、ここからは我ら第五騎士団が護衛と先導をさせていただきます♪」

 

 ドワーフの老人男性が微笑む、サンハート領第五騎士団の団長ベーカー卿。


 頼もしき我が師匠と、実の兄弟よりも兄弟らしい付き合いの第五騎士団。


 愛すべき味方の先導を受け、俺達の馬車は関所を抜けてアイゼン帝国領に入った。

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