第十二話:初の成敗

 「すみませんでした!」


 宿場町を挙げてのお祭り騒ぎが終わり夜。


 俺は宿となった役場の客間で仲間達に平謝りしていた。


 「うん、こうなるオチは前世の時からわかってた♪」


 レオンは微笑む。


 「マッカ様は今も昔も変わらない、素敵な熱血漢ですわ♪」


 フローラ嬢は俺への好感度が上がってた。


 「まあ、オチは読めてたな」

 「前世の頃からマッカさんが良い考えがあるって言う時は、どこかの司令官みたいに大抵失敗フラグでしたよね♪」


 クレインとバッシュは、前世からすみませんでした。


 「でも、こうして英雄としての下地を作って行くのは大事だよ♪」

 「民衆の支持を得るのは必要ですわ♪」

 「人の命を救った事は、間違いじゃいないのが腹が立つがな」

 「で、事件はどんな内容なんです?」


 バッシュが紙束を持ったレオンに聞く。


 「そうだね、僕達が来るまで間この街で五件の連続殺人事件が起きていた」

 「犠牲者達は、マッカ様によって全員救われましたわね♪」

 「いや、フローラ嬢そこは良いから」


 俺がフローラ嬢を止める。


 「被害に遭った人達は、全員亜人やその混血だったと言う事だな」

 「排斥主義者の仕業だね、許せないよ!」


 クレインがレオンの後を続け、バッシュが憤る。


 悲しいかな、何処の世界にも人や種族での差別は生まれる。


 異なる物への拒絶は自然な反応だが、殺人を許して良いわけではない。


 人類の中の恥ずべき悪、排斥主義者はいせきしゅぎしゃ


 亜人達の人権どころか、中には生存権すらを認めないと言う輩もいる行き過ぎた思想の使徒達。


 「我等は皆等しく女神の愛し子達であると言うのに、許せません!」


 フローラ嬢は鼻息を荒くする。


 俺達テロに巻き込まれたしね。


 「被害者の聞き取りからして、敵は何らかの方法で魔物を操れるようだね?」

 「レオン、この街の領主は誰だ?」

 「領主? 確か、この先の山の中にある城に住むノーマン男爵だね」

 「マッカ、まさか領主が黒幕だと思っているのか?」

 「前世で共闘したメタル刑事の人みたいに、直感捜査ですかね?」


 バッシュが呟く。


 メタル刑事さんには、悪い奴ら程良い顔をするとか教わったな。


 前世でのヒーローとしての経験から、今回の事件の黒幕は領主だと俺は感じた。


 「一応、裏は取っておこうね♪」

 「ああ、ついでに国王陛下への書類とかはレオンに任せた♪」

 「うん、任されたよ♪ 僕って、家庭と夫を支える良き妻だよね♪」


 いや、そこはまだ違う。


 「マッカ様、私の斧でいつでも断罪できますわ♪」

 「フローラ嬢は落ち着こうな、まだ前半パートだから」


 俺は前世で見ていたテレビ番組の用語を使い、彼女を宥める。


 この世界、テレビ的な物は魔法の水晶玉なんだよな。


 「それじゃあ、皆で次のパートへと向かって行きましょう♪」

 「バッシュ、メタな事は言うもんじゃない」


 バッシュの言葉にクレインがツッコむ。


 方針を決めた俺達は、実行犯が再度犯行を起こすのではと考えた。


 「実行犯を確保するのは大事だね、自害されてもマッカなら蘇生できるし」


 レオンが微笑む。


 その通り、俺とフェニックスの前には死んで逃げる事はできない。


 「では、手加減して捕えましょう♪」


 フローラ嬢が黑い笑みを浮かべる。


 「よし、聖獣勇者団出動だ♪」


 俺達は夜の街にパトロールへと出かけた。


 「何処を捜索するんですか?」

 「安心しろ、俺は梟で空から」

 「僕が猫達で路地裏と動物たちの力を借りて探してる」

 「うう、僕は牧場とかでしか使えませんその力!」

 「大丈夫です、私もクレインさんも同じですから」

 「こう言う事は、役割分担だ気にするな」


 俺達聖獣の勇者は、聖獣が司る動物の全面的な協力が得られる。


 俺は鳥類や蝙蝠、レオンは猫類、フローラ嬢は熊の仲間。


 クレインは鹿やリスや猿など森の生き物。


 バッシュは馬や羊や山羊や牛の類から王として扱われる。


 代償としては、餌などの褒美を与えたり世話をする事。


 自分達の手で、それらの動物を狩って食えない事が主な物だ。


 「見つけた、裏通りだよ!」

 「良し、皆乗ってくれ!」


 レオンが猫の目を借りて敵の居場所を発見、俺がフェニックスを大きく召喚して仲間達を乗せて急行。


 「「そこまでだ!」」

 「た、助けが来た~~~♪」


 俺達が降り立ったのは路地裏の広場。


 建物の壁際に追い込まれていたのは、皮物屋のトムと呼ばれた小人族の男性。


 「出たな、おせっかいな王子共!」

 「例え王子であろうとも、ここで殺せば問題ない!」

 「ノーマン様から授かった我らが力、受けて見よ!」


 悪党らしい台詞を吐くのは、黒いローブに白い仮面の三人の怪人。


 て言うか、領主の名前を出しやがったよ!


 仮面の色が赤に変わり、三人は瞬時に人狼へと変じて襲って来た。


 「「聖獣武装!」」


 こちらも全員が変身、アリエスがトムさんを羊の頭を模した盾で守る。


 エラポスが刺股状の杖を緑に光らせ、地面から蔦を生やして敵を足止め。


 「よし、レグルス、ポラリス、三人で手加減して決めるぞ!」

 「了解だよ♪」

 「お任せを♪」


 俺は残る仲間と三人同時キックを敵に叩き込んで撃破。


 「さてと、化け物から人に戻れクリアファイア!」


 エラポスに三人を魔法で拘束させた上で、俺が浄化の炎の力で人間に戻す。


 「す、すげえ! 俺、騎士団を呼んで来ます♪」


 トムさんは元気を取り戻し、騎士団の人達を呼びに行ってくれた。


 騎士団が来て俺達の姿に驚く。


 「ああ、これは僕達聖獣の勇者が纏う魔法の甲冑だよ♪」


 レグルスがマスクを開いて素顔を晒す、身バレはもう仕方がないな。


 取り調べは騎士団に任せて俺達は役場へと戻り、その夜は休んだ。


 翌日。


 騎士団からの報告で、領主のノーマンが黒幕だと賊が白状した。。


 「よし、これで殴り込みに行けるな」

 「貴族の断罪って、手続きがございますからね」

 「直感捜査で行かなくて良かったな」

 「それじゃあ変身して、カチコミに行きましょう♪」

 「皆、その前に出陣式をやるよ♪」


 レオンが俺達に告げる。


 「獅子の勇者レオン・ゴールドバーグの名の下、邪悪な思想に溺れ民に害なす悪徳領主デナシ―・ノーマンを断罪する!」


 広場の前でレオンが民衆に宣言する、王子だから似合うな。


 レオンの後ろに控えて眺める。


 「我らには不死鳥、鹿、熊、羊の四人の聖獣の勇者もいる!」

 「我等聖獣の勇者、団と纏まり連帯し邪悪を討たん!」

 「女神の下に聖獣の威を持ち民を守らん!」

 「神の力は民の為に!」

 「我等、聖獣勇者団せいじゅうゆうしゃだん♪」

 「行くぞ我が勇者達、聖獣の力を今こそ纏わん! 聖獣武装!」


 聖獣旅団は、レオンが表向きのリーダーとして振舞う。


 俺達は宿場の人達の前で変身した。


 うん俺のやらかしが原因だからな。


 こうなれば、人々に正体を隠すのはやめようと言うのは仕方ない。


 集った民衆達は万雷の拍手で俺達を讃えてくれた。


 市民からの応援はありがたいぜ。


 ヒーローショーのノリで、領主を断罪しに行く出陣式を終えた俺達。


 聖獣に乗り、騎士団を引き連れノーマン男爵の城の近くまでやって来た。


 「危ない! 騎士団は下がれ!」

 「敵襲~~~っ!」

 「魔物の群れですよ~~っ!」

 「待ち構えてたか、侮れんな」

 「かかってこいや~~っ♪」


 丘の上から投石して来る敵の群れ、敵も黒だって隠す気がねえな。


 飛んで来る石弾を俺達が蹴りや武器で粉砕する。


 地獄絵図の牛頭馬頭みたいな怪人達が、唸りを上げて攻めて来た。


 俺達は記録撮影係でもある騎士団を守りながら、敵を迎え撃つ。


 「力任せの突進など愚策ですわ、アースストンプ!」


 ポラリスが四股を踏むと大地が揺れ敵の動きが止まる。


 「一応手加減はしてやる、ルーツバインド!」


 エラポスが杖を大地に刺せば、木の根が生えてきて敵の群れを縛り出す。


 「おねむの時間だよ~♪ ドリームスリープ♪」


 アリエスの胴鎧の羊の頭が口を開けて歌い、敵だけを眠らせる。


 「抵抗するなら物理的に大人しくさせるよ、バックドロップ!」


 レグルスはプロレス技で投げ飛ばす。


 「最後は俺だ、クリアファイア!」


 宣言通り俺が最後に空から城下の火の雨を降らせ、敵兵を浄化する。


 人間には戻ったが、どう見ても外見が山賊とかの類の奴らだった。


 後始末は騎士団に任せ、俺達は敵の本陣を目指す。

 

 石造りの城の中は戦力を出し切ったのか、見張りも守りもいなかった。


 「罠はないな、城主は何処かな?」

 「宝探しとかするなよアリエス?」


 シーフ役のアリエスが罠などを探す中エラポスがツッコむ。


 「皆様、邪悪な魔力を感じますわ!」

 「僕も感じる、城主の間だ!」

 「行くぜ、俺が突っ込む!」


 宣言通り、俺が入り口の跳びあrを破壊して突っ込む。


 「ふ~ん、君達が聖獣の勇者?」


 城主が謁見に使う広間の中。


 ピエロと蝙蝠と騎士を混ぜた装甲に身を包んだ怪人がこちらを見やる。


 怪人の足元には首を絞めて殺されたノーマン男爵が転がっていた。


 「うるせえよ怪人、フラメスキック!」


 直感から敵と判断した俺は、必殺技を叩き込む。


 「ぐわ~~っ!」


 怪人は俺の蹴りを止めるものの、蹴りの後から出る爆発でぶっ飛ばされた。


 「……へ♪ キックだけじゃねえんだよ!」

 「く、お前ムカつくけど勝ち目がなさそうだから逃げる!」

 「逃がすか! ファイヤーバインド!」


 逃げようとする怪人、逃がさねえとこちらは拘束の魔法を使う。


 「逃げるよ、ヴォイドダイブ!」


 怪人は俺が飛ばした炎の縄を霧散化させ、虚空へと消えた。


 「ち、仕方ねえなこっちに聞くかリザレクトファイア!」


 俺は魔法の火の玉をノーマン男爵の胸に叩き込み蘇生させる。


 「はっ、私は一体?」

 「ノーマン男爵、ご同行願います」

 「く、丁重な扱いを要求する!」


 俺は蘇らせたノーマン男爵を捕えて仲間達の元へと戻る。


 「ご苦労様、フラメス♪」


 レグルスが出迎えてくれた。


 「悪い、謎の怪人を逃がした。 詳しい事は男爵に白状してもらおう」

 「承りました、勇者殿」


 俺はノーマン男爵を、後からやって来た騎士団長に引き渡した。


 聖獣勇者団のデビュー戦は勝利に終わった。


 謎は多いが時間をかけて片付けて行くしかないと思えた。

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