第十話:聖獣勇者団の立ち上げ
バッシュが羊の勇者アリエスとなった。
シープ村を後にして学園へと戻った俺達は部室に集う。
仲間達と部室の円卓を囲んで俺から語りに入る。
円卓と言えば聞こえはいいが、安い木製の丸テーブルの上に紅茶のセットとお茶請けのクッキーを入れた皿を乗せてのざっくりな会議だ。
「取り敢えず、俺は不死鳥の勇者フラメスと名乗る」
フェニックスで火の鳥から、何かワインを鍋で燃やす奴を思い出して着けた
「フラメス、炎のフランメからかな? 僕はレグルス、獅子の瞳だね♪」
俺と向き合って座るレオン。
ヒロインに向けろよと言いたくなるような爽やかな笑顔で名乗る。
「前世のネッケツジャーも気に入っておりましたが、わたくしはポラリスで♪」
俺の隣にフローラ嬢が可愛い♪
「俺は名乗るなら、鹿の勇者エラポスだな鹿のギリシャ語での呼び名だ」
クレインもニヤリとドヤ顔で名乗る。
前世ではマッチョな山男な外見に似合わず、神話の知識とかある男だった。
「僕も羊の勇者だからアリエスです♪」
バッシュが名乗る、ブルーも増えたらどうなるか楽しみだ。
七人の勇者はお約束だな。
「自分達で組織を立ち上げて行くのって楽しいですね♪」
フローラ嬢が告げる。
「そうだね、昔はミスター
レオンが
前世で世話になった戦隊の司令官、自分も変身して前線に出るタイプ。
俺にとっては、剣術や戦闘に関する事だけでなく何もかも恩師と言える人だ。
「権田原のおじ様、またお会いしたいですわね」
フローラ嬢も思い出す、俺達の結婚の仲人もしてくれたよな。
フローラ嬢こと日南子さんには、カレーの師匠でもあるんだよな長官。
「確かに、あの超人司令官なおやっさんがいてくれたらとは思うが。 あの人はあの人で急がしいだろうから、こっちには来られないだろうな」
クレインは長官をおやっさんと呼んだ、長官は確かにそんな感じの人だった。
「ですよね、こっちの世界は僕達で頑張りましょう♪」
前世では俺と同様に長官に鍛えられたバッシュも珍しく熱を込めて呟く。
普段は軽いノリだけど何だかんだで、バッシュの中の熱血ソウルは消えてないな。
「まあ、ミスター程ではないけれど僕も指揮官役を頑張るよ♪」
この国での地位が俺達の中でトップなレオンが微笑む、不安だが信じよう。
「女神の恩寵と昔の縁で再び出会えた愛すべき仲間達よ、皆で暮らす世界を守る為にまた力を合わせよう!」
俺達は拳を突き合わせた、不安は仲間達と打ち砕けばいい。
「次の目標は、ブルーこと葵ちゃんの捜索と救出で決まりだね」
レオンが勇者団として次に行うミッションを告げる、仲間を取り戻さねえと。
「仲間が揃えば基地とロボですね♪ メカニックも雇わないと♪」
バッシュがドヤ顔でのたまう。
「資金も稼がないとな、立ち上げたばかりの正義の秘密結社だからな俺達は」
クレインが溜息を吐く。
確かに今は、力を持った学生のサークル活動でしかない。
「そう考えますと、国家組織だった前世がいかに楽だったか思い知らされますわ」
「国王陛下にもバラした上で、もう一つの権威に頼ろうか?」
フローラ嬢も溜息を吐き出したのに合わせて、俺が提案する。
「もう一つの権威って、まさかシルバー教皇国か?」
「流石クレイン、世界宗教たる女神教の総本山だ」
「マッカさん、何かややこしくしようとしてません?」
「そうだね、宗教は関わるのは面倒だよ?」
「私は、マッカ様に付いて来ます」
「面倒くさいが、大義名分や世界的に活動するのには使える」
俺がした提案に仲間達が疑念を抱く、宗教は怖いのはわかる。
けど、神の力で生まれ変わった俺らが宗教否定できんだろ?
ゴールドバーグ王国の西、大陸中央にある宗教国家シルバー教皇国。
女神の力で転生した俺達には、関りを避けられない所だ。
「俺達全員が聖獣の勇者なのはいずれ知られる、となると戦力が増えたこの国を諸外国が脅威とみなす。 それは駄目だ、俺達が平和を脅かすのは不味い」
俺達はこの国だけの正義の味方ではない、世界の守護者となるべきだ。
俺達が属する大陸の各国は、女神教と言う世界宗教で繋がっている。
周辺各国の王達も全員が女神教の信徒。
宗教が戦争の調停や民の救済など国連の代わりになってる。
聖獣勇者団を国際的な組織にするには、女神教を頼るしかない。
ブルーの捜索で他の国に行くにも、聖獣の勇者候補の探索とかで行けるんだ。
正直嫌なもんだが権威やお墨付きってのは、使い勝手の良い道具なんだ。
「うん、僕達はある意味女神の使徒だしね。 マッカの案に乗る方が無難だと思う」
レオンが頭を働かせ、俺のフワッとした提案をまとめだした。
「何となく意図が見えて来ましたわ♪」
フローラ嬢も理解してくれた。
「ようするに、俺達が国連軍の特殊部隊になるって感じか」
クレインが納得した。
「僕は、謎の正義の味方でも良い気がしますよ?」
「バッシュの意見には提案した俺自身も同意なんだ、自由は大事だ」
「でも、ロボや基地を手に入れる資金を堂々と稼ぐには組織力ですね」
バッシュも納得してくれた。
「それじゃあ、僕が父上に話を通すとしよう」
「ああ、レオンの王子としての立場を頼らせてもらうぜ」
「うん、マッカの頼みは国家事業だから♪」
レオンが乙女チックな仕草で嬉しそうに微笑む。
「はう! レオン様の好感度が上がりましたわ、不味いですわ!」
「いや、フローラ嬢は落ち着いてくれよな?」
「いいえ、正妻として見過ごせません!」
いや、まだ正式な婚約もしてないんだが?
学校が終わると、俺達全員はレオンと共に王宮へと呼び出された。
「よくぞ集った聖獣の勇者達よ、話を聞かせてくれ」
玉座に座り俺達を見下ろすのは国王陛下、レオンに似た精悍な美中年。
王妃殿下はおめでたでお休み中だ。
主要な大臣達も並んでる、胃が痛い。
俺達は陛下の前に横一列に並んで片膝で跪いている。
喋るのは王子であるレオンに任せた。
「は! 恐れながら申し上げます、我ら聖獣の勇者達と教皇猊下と謁見をお許しいただきたくお願いに参上いたしました」
レオンが陛下に向けて語り出す、本当に外面は良い。
「レオンよ、そなたが本当に勇者達を集めるとは思いもせなんだぞ?」
陛下の声からは困惑の様子が伺えた、平和な時代だからな表向きは。
陛下から変身して見せろと言われたので、俺達は全員が同時に変身する。
「レオンを含め、どの勇者達も我が国の手に余る魔力を感じる。 これは確かに教皇猊下にご相談せねばなるまいな、よかろう変化を解いてくれ」
国王陛下が決断なされた、大臣の方々は黙ってるのが怖い。
俺達は変身を解除する。
「そなた達、手にした力で世を乱そうなどと邪心はないのだな?」
ないですと言いたいけれど、下手な事は言えない。
「ございません、我らが教皇猊下から使徒と認めれれば国際貢献となりましょう」
「であろうな、余としてはそなた達を国の英雄として民にも諸外国に対しても喧伝してやりたい所ではあるのだがな?」
レオンの応えに対して、陛下が溜め息混じりに頷く。
「レオンよ、表向きはそなたの見分旅行として旅を許可する。 下がって勇者達と共に旅の支度をするが良い」
「は、ありがとうございます陛下♪」
「女神よ、我が息子に何と過酷なる試練を与えたもうたのか?」
下がる俺達の背後から陛下の嘆きが聞こえる。
何と言うか、申し訳ないけれど世界の平和の為に頑張ります。
「陛下の御前に出るなんて、緊張いたしましたわ」
「滅多にない事だが、俺は何故にフローラ嬢と大臣閣下と馬車に?」
「フォッフォッフォ♪ 何、お祖父様と呼んでくれて構わんよ♪」
王宮から出るなり俺はフローラ嬢に肩を掴まれて同じ馬車へ連れ込まれた。
「マッカ様は私の夫ですから、同じ馬車は当然ですよ?」
「順当に価値を高めておるのう、婿殿よ♪」
前世でも似たような目に遭ったな俺、どうしよう。
俺は以前訪れたシトリン家の屋敷に、再びご招待される事となったのであった。
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