第九話:羊の勇者

 翌日、土曜の休みを利用して俺達五人は王国東方へと出かけた。


 学生の身分だけならともかく、レオンの王子の立場を使うのは気が引けた。


 旅の表向きの理由は、レオンが王子として国内を視察し見聞を広める為だ。


 国内で旅とかする時は、王子の立場って強いよな。


 「マッカ、この借りは子供三人分で返してもらうからね♪」

 「いや、レーティング考えろよ王子様?」

 「マッカ様、私は五人欲しいですわ♪」

 「フローラ嬢も張り合わないで!」


 馬車の中、俺はレオンとフローラ嬢に挟まれて座っていた。


 レオンは美形なので、TSしたら美女になりそうで怖い。


 「……すんすん、ふう♪ マッカ様の香り、素敵です♪」

 「いや、歯磨きも入浴も洗濯もしてるが? オークの血から来る習性か?」

 「はい、愛する方の臭いで体調などを調べるのです♪」

 「え、マジで?」

 「ええ、お母様もお父様にしております♪」


 そうなのか、なら仕方ないかな?


 いや、習性とはいえ俺の臭いをかぐのは淑女としてどうかと思うぞ?


 「お前ら、馬車の中だぞ?」

 「相変わらずですね♪」


 向かいの席でこっちを眺めてるクレイン達も相変わらずだ。


 「現場は穀倉地帯があって、米も麦も美味しいとの事ですわ♪」

 「ははっ♪ フローラ嬢は食いしん坊さんだね♪」

 「社会科で習ったな、雨を司るから農民に信仰されてるんだろう」

 「農業は国の礎だからな、農場の視察もするんだろ?」

 「聖獣と契約出来たら、農業体験でもさせて貰います?」


 うん、社会科見学の学生のノリである。


 楽しいな、人生二度目の青春も。


 これが女神様の褒美の支給とあらば、こちらも報いねばなるまい。


 ただ魔物や悪党を倒すだけでなく、世界を救うレベルの事をせねば。


 まあ、世界救うレベルの仕事するには聖獣の力や仲間やらが必要だ。


 「どうしたの、マッカ?」

 「考え込んでおられますわね?」

 「いや、聖獣の力を得たら魔王とか探して退治せんとなと」


 仲間達に思った事を告げる。


 「確かに、魔王とか倒すのに使う力だよな」

 「ですねえ、魔王とかどこにいるのかって感じですが?」


 クレインとバッシュが同意する。


 「大丈夫、マッカの考えはわかるよ」

 「レオン様は、マッカ様の為にならない事はなさりませんからね」

 「二人共、俺に関する事だけは協力的だよな?」

 「そこは、愛だよ愛」

 「ええ、愛です。 思う所はありますが、同じ方を愛する同志ですから」


 レオンとフローラ嬢、普段も友好的でいてくれ。


 「民間伝承研究会は、魔王レベルのヤバい奴らを探す調査組織も兼ねてるんだ」


 レオンがドヤ顔をする、前世がMIの国イギリス人だけはあるな。


 「なるほど、学生で研究と言えば話も聞きやすいあれか」


 俺はレオンの言葉に納得した。


 学生のフィールドワークで田舎に行くのはあるからな。


 「学生に身をやつし、世界の危機を探るのですね」

 「そうそう、君達も知ってるでしょ世を忍ぶ仮の姿って♪」


 レオンが笑いながらのたまう。


 時代劇の世界だな、近い物はあるが。


 「キャビンの中は防音で盗聴防止もしてるから安心して♪」

 「マッカ様、お一人でレオン様と同じ馬車に乗らないで下さいね?」

 「ひどいな~♪ 僕はマッカの嫌がる事はしないよ、嫌われたくないもん♪」

 「ああ、その辺は前世から信じてる」


 何だかんだで親友だしな。


 「あ、レオンさんに対してマッカさんの好感度が上がりました♪」

 「こら、ステータスを見てそう言うことを口走るな」


 バッシュが瞳を輝かせ、クレインが窘める。


 いや、好感度とかも表示されてるのか?


 お前らだけが見てるステータス画面は?


 「う~ん、愛を感じるよ~♪」


 いや、レオンは変態止まれ!


 「マッカ様、私の好感度もアップして下さいませ♪」

 「いや、フローラ嬢? さらりと手を握られるとだな」


 うお、これはときめいてしまう!


 「フローラ嬢への好感度も上がっているな、チョロいぞマッカ?」


 クレイン、冷静に呟くな!


 「クレインさん、むっつりですね」


 バッシュがチェシャ猫の様に微笑む。


 お前ら、こんな時だけ世界観に合わせて乙女ゲームムーブをするな!


 そんなぐだぐだな馬車の旅の往路編を終えた俺達。


 昼間の内に現場の村に着くと、入り口に集っていた村人達に歓待された。


 「王子殿下、お連れの皆様ようこそシープ村へお越しくださいました」


 村人達の中から、武装した騎士が兵士五名を引き連れて出て来て一礼する。


 「ご苦労様です、ベーカー卿♪」

 「殿下が私如きの名を、光栄であります!」

 「郷土愛溢れる忠勇の騎士と伺っております♪」


 外面ナンバーワンの王子スマイルをベーカー卿に向けるレオン。


 ベーカー卿、感涙してるし村の人達が万雷の拍手だよ。


 茶色いローブのぺアルックをした、温和そうな司祭夫婦ともご挨拶。


 女神教は聖職者も結婚可能だ。


 レオンが笑顔で村人達に手を振れば、大歓声でお祭り状態。


 レオンの指揮の元、俺隊はお世話になる村の人達の為に奉仕活動を開始。


 俺達は村を見て回り、まず雑貨屋などで買い物をして土産を買い村に金を落とす。


 観光地にお金は落とさないと。


 俺とフローラ嬢で、魔法で家屋の修理や病人や怪我人の治療。


 バッシュとクレインは、教会での特別授業や子供達の遊び相手を務める。


 現地の人達と友好関係を結んでおくのは大事だよな。


 宿となる教会で司祭様達に、聖獣を出して見せて話をする。


 「なるほど、皆様が女神の勇者様達でしたか」

 「バッシュ様のようなお優しい方なら、上手く行きますよ♪」

 「ありがとうございます、シスター♪」

 「勇者様達に、女神様のご加護があらん事を」


 司祭様と一緒に教会の女神像の前で、俺達は礼拝をした。


 レオンが寄進と言う形で宿代を払い、俺達は司祭宅の客間を借りて休んだ。


 翌日、俺達は村を出て聖獣の祠がある山へと向かった。


 「また山かあ、マッカさんおんぶしてくれませんか?」

 「疲れたら手を引くから頑張れ、今は男なんだろ♪」

 「そうだぞ、日本で言う高尾山程度の山なんだからな♪」

 「クレインさん、山に来ると元気になりますよね」


 バッシュには、胸のエンジンに火を入れて貰いたい。


 中腹の山小屋で一休みしたいというバッシュを皆で押して着いた山頂。


 「おや、こちらにも教会があるな?」


 辿り着いた山頂は広く、聖獣の石像が鎮座する祠の隣には教会があった。


 「さあバッシュ、試練の時だよ♪」

 「ええ、それでは皆様お供えとお祈りをいたしましょう♪」

 「山は良いなあ♪」

 「頑張ろうな、バッシュ♪」

 「学園に帰ったら、食堂でスイーツを食べまくりたいです」


 ぐだぐだな俺達が祈ると、石像が輝きピンク色の羊が現れた。


 「出た、可愛い♪ 僕と契約して勇者にしてよ~♪」

 『ちょっと、その前に試練を受けなさいよね!』


 羊の聖獣、パッションシープが美少女声でバッシュに怒る。


 「モフモフ、可愛い~♪」

 『調子狂う奴ね? まあ、褒めてくれるのは嬉しけど!』


 抱き着こうとするバッシュを前足で軽く叩くパッションシープ。


 「何か、ツンデレだなあの羊」


 俺は聖獣の性格の幅広さに感心した。


 「そうだね、バッシュはどんな試練なんだろ♪」

 「取り敢えず、俺達は手出しせずに見守ろうか」

 「クレイン様の言う通り、手出すけなしで見守りましょうマッカ様」

 「ああ、頑張れよバッシュ♪」


 俺達は教会まで下がっって様子を見る事にした。


 「可愛いモフモフちゃん、離さないよ~♪」

 『ぬいぐるみ扱いするな! なら、ロデオが試練よ!』


 パッションシープが原付サイズから、軽自動車並みに巨大化して暴れ回った。


 「おっきくなった? それでも可愛いから離さないよ♪」


 バッシュは自分の気持ちにブレずしがみつく。


 パッションシープは空を飛び雷雲を呼び、バッシュと共に雲へと突っ込む。


 天に雷が轟く中、俺達はバッシュを見守っていた。


 バッシュとシープが天の上で暴れている所、雲が広がり雨が降り出す。


 小一時間程経過すると雨は止んだ。


 雲の晴れ間から光が差し、原付サイズに戻ったシープの背に乗り顔の周りは黒く汚れて頭がピンクのアフロヘア―になったバッシュが笑顔で山頂へと降臨した。


 「ただいま帰りました、ブイ♪」

 『威厳も何も無いわね、仕方ないかこいつのら面倒見てやるわよ』

 「これで僕も変身できます、聖獣武装♪」


 シープから降りたバッシュが叫べば、シープがバッシュの背に覆いかぶさるようにして変身が始まる。


 マスクとボディアーマーが羊の頭モチーフのヒーロースーツを纏った、ピンクの戦士が俺達の前に誕生した。


 「羊の勇者アリエス、爆誕です♪」

 『調子に乗んな!』


 聖獣に突っ込まれるアリエス。


 かくして、五人目の勇者が誕生したのであった。

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