第七話:熊の勇者
フローラ嬢が聖獣の勇者となる為の試練。
聖獣アースグリズリーのいる場所を目指して、俺達は峠を進む。
陸生の聖獣と言うのは山や森を好むらしい。
俺達が進む峠道も緑豊かだった。
「大丈夫か、フローラ嬢?」
「はい、マッカ様のおかげですっかり逞しくなりました♪」
鉄の鎧を纏い荷物袋を背負って後を歩くは、ダイエットに成功したフローラ嬢。
出立前、俺がフェニックスの力でフローラ嬢の胸以外の脂肪を燃焼させた結果だ。
燃えた脂肪は筋肉に変わり武器が斧、オークと人間の良い所取りになった。
何か、鎧が和風なら巴御前とか小松姫とか姫武者と言う様相だ。
「羨ましいなフローラ嬢は、俺も筋肉を付けたい」
「クレイン様は、細マッチョですわね」
「前世のもりもりな筋肉を取り戻したいよ俺は、魔法使いこそマッチョたれだ」
頭脳派な美少年と言う風体のクレインは、フローラ嬢を羨ましがった。
「フローラさん、マッカさんに愛されてますね♪」
「それはもう、前世の頃からの夫婦ですから♪」
クレインと同じく軽装のバッシュが俺達をからかう。
フローラ嬢は喜んでいた。
「……悔しい! 待っていてねマッカ、僕も早く性別を変えるから!」
「いや、王子って立場があるだろ?」
「王女に変わるから大丈夫、皆で幸せになろう♪」
フローラ嬢に対抗心を燃やすレオン、国家元首の息子がTSとか国が乱れるわ。
ぐだぐだな事を言いながら歩く俺達、天気が良くてピクニック気分だ。
「皆止まれ、武器の用意だ!」
ガサゴソと音を立て、脇の林から飛び出した敵は黒い野犬の群れ。
いや、体から赤黒い魔力を出しているから魔犬か!
バウバウ吠えて襲って来たので戦闘開始。
まずは一匹、横に捌いてシミターで切る。
やばい、敵がパン切るみたいにスパッと切れたよこの刀!
「ライトピアス!」
レオンは光を纏わせた騎士槍で魔犬を突いて倒す。
「参ります、てやっ!」
フローラ嬢は斧を振るい、敵の頭を砕いて一撃必殺。
「皆避けて!」
「止めは任せろ!」
バッシュが鞭を振るい敵を怯ませ、クレインが風の刃で纏めて掃討。
周囲を目視や魔力探知で確認し。ひとまず突発の戦闘は終わった。
「魔犬か、自然に生まれたのかな?」
「その辺は詳しく調べないとわからんな」
レオンの呟きにクレインが答える。
「森で魔素を含んだ物を食って魔物化したのかもな?」
俺は魔物学で習った事を思い出す。
「麓の聞き込みでは、怪しい奴が山に入ったとかは聞かなかったね」
「試練だけでなく、調査と討伐も必要かもですね」
バッシュも見解を述べ、フローラ嬢が呟く。
ゲームで言う様な、ただのクエストと言う感じでは終わりそうになかった。
「ところで、マッカさん達の聖獣の力で飛んで行ったりとかできないんですか?」
小休止の時にバッシュが尋ねて来た。
「駄目だ、他の聖獣の縄張りだと大分制限される」
「そうだね、ネメアにも怒られた」
「聖獣同士の決まり事だそうだ、例外はあるそうだが」
俺とレオンとクレインが順番に語る。
人も聖獣も神も決まり事と言うのには縛られる。
クレインの言う他の契約者が力を振るえる一番の例外は、助ける為。
聖獣自身が窮地に陥った時、それを救う為に聖獣同士で協力する。
そんな事態になんて、滅多にあってたまるかレベルの話だ。
再度歩き出した俺達は多いな洞窟に辿り着く。
「ここが目的地みたいだな?」
何となく、ヒヨちゃんの卵から感じたような、聖なる気配を感じる。
「やっと着いたよ、どんな熊さんかな♪」
レオンは何処か頭に乗っていた、舐めは駄目だ。
「レオン、山と熊を侮るなよ?」
前世が山男のクレインが、溜息を吐きながら苦言を呈する。
「そうですよ、地球でもレオンさん熊怪人にぶっ飛ばされたじゃないですか?」
クレインの後ろでバッシュが叫ぶ。
「大丈夫、あの体験を経た今なら乗り越えられるね♪」
レオンが笑顔で拳を握る、不安しかねえ。
「聖獣様、シトリン家の娘フローラが試練を受けに参りました!」
フローラ嬢が洞窟に向かい叫ぶ。
しばし待て、赤子が産まれる。
女性の声が俺達全員の頭に響いた。
「聞いたか皆、聖獣の出産祝いの為の狩りをしよう」
「聖獣様、お祝いの為の狩りをお許しくださ~い!」
フローラ嬢が洞窟へと叫べば、木の実も肉も欲しいと思念で返事が来た。
「なるほど、友好のプレゼント作戦だね♪」
レオンが納得する、間違いじゃない。
「よし、俺とバッシュで木の実取りだ」
「クレインさん、木登り苦手ですからね♪」
「ああ、前世では楽勝だったのにな」
クレインとバッシュは、木の実取りへ。
「僕は魚釣りに行くよ、ネメアが泉を見つけてたみたい」
レオンは魚釣りへ、釣りはブルーも得意だったな。
「じゃあ俺とフローラ嬢は肉だな」
「ええ、二人きりになれますね♪」
俺とフローラ嬢は肉を求めに森へと向かう。
「さて、熊の聖獣の腹を満たす肉というと
「ですね、魔力も栄養も高いお肉です」
俺とフローラ嬢は、黒い猪デビルボアを探して進む。
「マッカ様、前世の頃から変わらぬ優しさが素敵です」
「恥ずかしいよ、友好的になれる相手だからさ」
「レオン様、プレシャスさんは隙を突きに行きますよね」
「それも強みだよ、前世で助けられた」
前世トークをしつつ鳥達にも得物に所を訪ねて探索。
木々の向こうから鳴き声と共に、デビルボアが突進して来た。
「危ない、聖重武装っ!」
俺は変身し、フローラ嬢を抱きかかえて空へと飛び上がり回避する。
素早く着地すれば、フローラ嬢が斧で大地を叩いて揺らす。
デビルボアが振動で転んだ所で俺が止めに行く。
「喰らえ、熱血一刀流フェニックスサーキュラー!」
シミターを回して炎の輪を飛ばすと、デビルボアは輪切りの焼肉になった。
「お、美味しそうですね!」
「駄目だよ、聖獣様の分だからね?」
俺も自分でやっておいて、目の前の焼肉が食いたくなった。
空腹に耐えつつ、変身を解く俺。
フローラ嬢が背負った荷物から出した布で肉を包む。
「ひとまずはこれで良いかな、戻ろう」
「ええ、狩り過ぎもいけませんしね♪」
二人でな並びながら歩く。
「お、そっちも戻ったか」
「良い臭い、美味しそう♪」
クレイン達も戻ってきていた。
大量の木の実を抱えたバッシュがフローラ嬢と同じ事を言う。
フェニックスの炎で焼いた肉だからな、美味いのかも?
「僕も見事な成果だよ♪」
レオンも巨大なナマズを抱えて来た。
俺達が洞窟前に品を置くと、子熊を連れた黄色い毛皮の羆が出てきた。
俺達は聖獣の親子を前に一礼すると感謝の思念が頭に届いた。
「アースグリズリー様、僭越ながら癒しの力を使わせていただきたいのですが?」
俺が問いかけると母熊が頷いたので、ヒヨちゃんを召喚して母熊を扇いでもらう。
赤い光の粒子が肉などを食う母熊に降り注ぐと、母熊から感謝の思念が届いた。
アースグリズリーの母熊が満腹になり元気になったら試練の開始。
フローラ嬢と向き合いぶつかり合う。
「試練って、スモウレスリングなのかい?」
レオンが驚く。
「俺も驚きだよ、金太郎か!」
西洋ファンタジー世界だよな此処?
「もしかして、俺達の記憶を読み取ったのかも?」
クレインが解説する。
「フローラさん、頑張れ~♪」
バッシュは普通に応援していた。
ハーフオークとはいえ、熊と組み合ったフローラ嬢。
「大丈夫です、相撲なら前世でやりました!」
フローラ嬢がハーフオーク筋肉を全開にして聖獣を押し出す。
するとフローラ嬢の全身が光に包まれ、黄色い熊モチーフの鎧を身に纏う。
「良し、契約成立だ♪」
フローラ嬢の変身の成功に喜ぶ。
フローラ嬢とアースグリズリー取り組みを止めて抱き合う。
四人目の聖獣の勇者がここに誕生した瞬間であった。
「これで私も変身できました、ポラリスって名乗りますね♪」
フローラ嬢ことポラリスがヒーローネームを名乗る。
「ポラリス、大熊座かあ♪ 良いセンスだね、僕はレグルスにしよう♪」
ポラリスにつられたのかレオンもヒーローネームを決める。
「ふむ、そう言えば決めてなかったな考えねば」
クレインが悩み出す。
「じゃあ次は僕の聖獣探しですね♪」
バッシュが瞳を輝かせ、自分に変身に思いを馳せたのであった。
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