第六話:オーク令嬢の絡め手

 助けた女の子が前世の妻だった。


 何と言うラノベとかでありがちなイベントだろうか。


 シャンデリアが吊るされた豪奢な部屋。


 長めのテーブルが置かれた食卓の間にて思う。


 俺とフローラ嬢が乗った馬車が賊に襲撃された。


 賊を倒して捕獲しフローラ嬢を守ったら、前世の事を告白された。


 襲撃イベントでお開きかなと思えば、ご令嬢のお宅にご招待だよ。


 「いやあ、良くぞ孫娘を守ってくれた♪ 礼を言うぞ、マッカ殿」

 「恐れ入ります、大臣閣下」

 「がっはっは、そう固くならんでも良い♪」

 「マッカ君、本当にありがとう♪ 流石はサンハート家のご子息だ♪」

 「フローラも、良い殿方を見初めましたね♪」

 「はい、お母様♪」


 いや、フローラ嬢のおじい様にご両親とお揃いで歓待されるのは光栄だが怖い。


 上座に座り語るのは、屋敷の主である大臣のグレイニネス・シトリン閣下。


 突き出た牙が目立つオークの老人、ガッシリと逞しい。


 「初めまして、私はフローラの父のヘリオライト。 君のお父上とは学友でね♪」

 「私はデイジー、フローラの母です♪」


 フローラ嬢のお父上、細長で美形な人間族のヘリオライト氏。


 明らかに入り婿だな、親父の友人なら油断はできそうにない。


 お母上は、縦ロールに青い瞳で豊満な美人だが牙が目立つオークのデイジー夫人。


 「マッカ様、そろそろ料理が参りますのでお召し上がりください」

 「そうだな、食事をしながら話そう」


 フローラ嬢が発した俺への言葉に、グレイニネス閣下が反応して食事が開始。


 メイドさんが料理を運び、俺は必死にテーブルマナーに沿っていただく。


 貴族として生きて来たけど、精神は現代日本人なのでこういう空気が辛い。


 「ふむ、貴殿はもう少し我らに胸襟を開けぬかな?」


 大臣が俺の緊張に勘付いた。


 「娘の恩人で友人のご子息だ、安心して欲しい」


 いや、貴族の社会はそう簡単に安心できねえって。


 「マッカ様、私達はお味方ですよ♪」


 フローラ嬢、君はそうでもご家族はそうとは限らないじゃないか?


 「その通りだ、孫娘を二度も救ってくれた恩人に仇為す事などせぬよ」


 大臣が微笑む、ちょっと怖い。


 「王子殿下が聖獣の勇者となる試練に同行した君だ、只者ではないのはわかる」


 ヤバイ、大臣はこっちの秘密に気付いてるのか?


 「はい、それでは失礼いたします」


 俺は指を鳴らして虚空からヒヨちゃんを召喚して見せた。


 「ほう、聖獣フェニックスの幼生体かね?」

 「なるほど、君も聖獣の契約者だったのか」

 「可愛らしいのね、フェニックスって♪」

 「マッカ様、ご安心下さいね」


 圧に負けて、シトリン家の皆様ヒヨちゃんをお見せする。


 「農林大臣は自然と関わる職務故、聖獣の伝承も存じておる」

 「半月前に迷宮の森に一人で乗り込んだ少年と言うのは君か」


 大臣の言葉にですよねえと思う、ヘリオライト氏にはバレてた。


 「お祖父様、お母様にお父様? マッカ様は、私に相応しい方でしょう?」


 フローラ嬢が立ち上がる、これが狙いか。


 「確かに、王子が性別を変えようとしてまで欲しがる人材ではあるな」


 うわあ、レオンの計画もバレてる。


 「私は、フローラが幸せになれるなら構わないわ」


 デイジー夫人が微笑む。


 「彼と王家との関係はどう考慮すべきでしょうかね?」

 「ヘリオライトよ、そこはまだ気にせんで良い」


 俺、ネギしょった鴨かな? フローラ嬢への愛はあるが逃げたい。


 「私は、マッカ様以外を夫とする気はありません」


 フローラ嬢が鼻息を荒くする。


 「……お前にそこまで思わせるとは面白い少年だな。気に入った♪」


 いや、おもしれ~女みたいに言うなよ大臣!


 「ですね、私も婿養子仲間が欲しいと思っておりました」


 ヤバイ、何か政略始めやがった。


 「五男なら、婿に来てもらっても問題ないでしょうからね♪」


 ちょっと、囲い込みの話を当人の前でするなよ!


 これだから貴族って奴は!


 「取り敢えず、俺自身の価値を高めてからでお願いします」

 「マッカ様、私では不満ですか?」

 「違う、愛とは別に男として邪魔に負けぬように身を立てたい」


 フローラ嬢、日南子さんへの愛は消える事はないが雁字搦めは嫌だ。


 戦隊再結成計画にも支障が出る。


 「うむ、高みを目指す姿勢も良いのう♪」

 「では、まずは未来の娘婿に贈り物をさせて貰おうかな初期投資として♪」


 ヘリオライト氏が執事にあれを持って来いと告げると、執事が一旦退室する。


 「フローラよ、聖獣と言えばそなたも試練を受けるのだな?」


 グレイニネス閣下が、フローラ嬢に告げる。


 「はい、お祖父様。 私は、マッカ様を武力でも支えたいのです」


 うん、フローラ嬢も戦隊の仲間だしいてくれるとありがたい。


 「そうね、他家ではともかく女にも武力は必要ですからね」


 オークって男女双方武闘派なの? ここ、鎌倉武士のお家?


 「旦那様、お持ちいたしました」


 執事さんが再び現れる、抱えているのは細長い木箱。


 大臣閣下が箱を開けて中を取り出すと、一振りの赤鞘の剣が現れる。


 「砂漠の国の剣でな、突きよりも斬る事に重きを置いた造りだ」


 それは剣と言うが、エジプトのシミターみたいに刃の幅が広い刀だと思った。


 西洋ファンタジーっぽい世界でも、サーベルとか刀タイプの剣はあるもんだね。


 大臣が剣を抜いて見せてくれる、オークが刃物抜いて見せる状況って怖いよ。


 刀身は赤く腹に呪文のような模様が刻まれていた、後で調べよう。


 鍔は鳥が翼を広げた形で柄は両手で握って持てる幅、本当に造りは刀だな。


 前世が日本人で、突く剣術より振って斬る剣を学んだ身としてはありがたい。


 大臣が納刀して執事さんい渡し、執事さんがこちらに来て贈呈。


 「ありがたく頂戴いたします」

 「我が家の紋章入りの指輪も渡そう、孫娘を頼むぞ♪」


 大臣から刀と指輪を頂戴した、逃がさねえよって気配が語ってる。


 「剣に見合った衣装も見繕いましょう♪」

 「お母様、マッカ様には赤が似合いますわ♪」


 あ、これは長くなる奴だ。


 「さて、聖獣の試練だがオークが崇める熊の聖獣が王都から南東の山にいてのう」


 アイテムを貰ったらクエストか、乙女ゲーム風のRPG だな。


 「当家の領地です、館もあるので気に入ると思いますよ♪」


 フローラ嬢が微笑む、帰れませんとかになりそうでヤバい。


 かくして俺は、食後に衣装合わせをさせられて武器や衣服を貰った。


 翌日、フローラ嬢も加えて民間伝承研究会の部室に五人の男女が集った。


 「フローラ嬢、いや日南子ちゃん! 狡いよ、悪役令嬢のやる事だよ!」

 「レオン様、私とマッカ様は前世からの縁で結ばれておりますの♪」

 「それは僕だって一緒だよ!」


 レオンが子供のように駄々をこねる、フローラ嬢は余裕だ。


 「やっぱり、今世でもこうなったか」

 「あっはっは、懐かしいねこの空気♪」


 クレインは溜め息、バッシュは大笑い。


 フローラ嬢も入部し、ブルーを除いて前世のの仲間が集った。


 外から見ると、フローラ嬢を美男が囲む乙女ゲー状態だな。


 「ともかく、フローラ嬢が変身できるようにする為に試練に同行する事になった」


 俺は仲間達にいきさつを語る。


 「熊の聖獣アースグリズリーか、大地属性のようだな?」


 クレインはテーブルの上で本を開いて俺達に挿絵を見せる。


 「皆様、同行宜しくお願いいたしますね♪」

 「そうだね、僕のマッカがお世話になった借りがあるしね♪」

 「レオン様は、私のマッカ様の大事なですものね♪」」

 「いや、二人共視線をスパークさせるなよ!」


 俺は二人の間を割りながら叫ぶ。


 「マッカの第一夫人の座は渡さないからね!」

 「今世でも、私が正妻なのは揺るぎませんから♪」

 「仲間なんだから、争うなよお前ら!」


 因果は繰り返すのか、俺は今世でも恋愛関係は多難であった。


 不安だらけだが、俺達五人はアースグリズリーの試練を攻略に挑む事となった。

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