第五話:オーク令嬢の告白

 クレインが鹿の勇者になった翌日。


 俺はのんびり校舎裏の木の上で小鳥達と戯れていた。


 「ふう、緑は目に良いし癒されるな」


 鳥達が俺の為に作ってくれた木の葉のベッドが心地良い。


 変態王子達と離れて過ごす時間は貴重だ。


 小腹が空けば、カラスが林檎を持って来てくれる。


 「……か、返して下さい~っ!」


 息を切らせながら聞こえてくるのは愛らしい困惑の声。


 「まさか、あの子から取ったのか?」


 カラスが頷く。


 「すまない、あれは我が未来の伴侶たる娘だ。今後は彼女を守り助けるように」


 俺は鳥達に小声で命じると、林檎を持って木から飛び降りる。


 勝手なことを言ってるが、そう言えば鳥達も彼女に危害は加えないだろう。


 「やあ、久しいなフローラ嬢。 林檎なら俺が取り返したぞ♪」

 「……え、マッカ様? なんで校舎裏に!」

 「そこの木の上が昼寝に丁度良くてな、君もどうかな?」

 「学園創立の記念樹でお昼寝なんてしてはいけません!」


 しまった、怒らせたか!


 「お昼寝に良い所は教えて差し上げますから、もう♪」

 「面白いお嬢さんだな、君は♪」

 「……はうっ! 推しからおもしれ~女発言っ♪ ではなくて!」

 「おっと、申し訳ない」


 あれ、何だろう? 何か、前世でもこんなやり取りをした記憶があるな。


 気の利いた台詞でも言おうと思ったがしくじった。


 何かフローラ嬢が地球人みたいな事を言った気がしたが、幻聴だな。


 林檎は返せたが妙な空気になってしまった。


 そもそも女子を昼寝に誘うって馬鹿か俺は!


 やっちまった感に頭を抱える俺、だがフローラ嬢は笑ってる。


 前世の業かな? いやあ、後で問題にならなければいいが。 


 「そう言えば、フローラ嬢は最近少し何と言うか?」


 言葉に詰まる、痩せたとか聞くのは不味いだろ。


 「はい、健康の為に体を鍛え始めてます♪」

 「そ、そうか。 うん、運動は大事だな今度剣術の稽古でもどうかな?」

 「まあ、ありがとうございます♪」


 フローラ嬢が答えてくれた、気遣いに感謝だな。


 ハーフオークとは言うが、この世界のオークは豚や猪じゃない。


 インドの夜叉みたいな角が無くて牙が突き出てる鬼。


 まあ、牙が口から突き出てるのが猪っぽいと言えるが。


 フローラ嬢は、耳がちょっと尖ってるが九割人間だな。


 癒される声でつぶらな瞳の愛らしいお嬢さんだぜ、可愛い。


 いや、レオンから聞いたが彼女は農林大臣のお孫さんだ。


 これからは失礼な態度を取らないようにせねば。


 爵位は俺の実家と同じ侯爵だけど、権力や影響力は向うが上だ。


 食い物司るお役所はおっかねえよ、機嫌損ねたら不味いし嫌われたくない。


 金と農作物の両方で税金取って、農作物はフローラ嬢のお祖父様の管理下へ。


 大臣一家には集められた農作物の試食権があるらしいから、国中の美食が味わえるお家ってのは羨ましいよな。


 「そうでした、、この間のお礼をしたいと祖父が申しておりまして♪」

 「……いや、俺は人として当然の事をしたまでだよ?」

 「そんな謙遜をなさらないで下さいませ、祖父も是非にと♪」


 ヤベえ、虎の威が出て来やがった。


 「わかった、制服しか正装が無くて申し訳ないが」

 「問題なしです、保証いたします♪」


 俺は今、抗えない権力の糸に絡め取られてしまった気がする。


 レオンは前世の仲間だからまだ話が通じる。


 だが、フローラ嬢は前世と関係ないからな。


 迂闊に俺が聖獣の勇者だとか言えない。


 まあ、食事をご馳走になる程度で終わるさメイビー、きっと、多分。


 辺境伯の家の子だが、五男坊だし箸にも棒にも引っかからないはず。


 ご飯ご馳走になって、良いお友達いてくれとか言われて終わりだよ。


 そう自分に言い聞かせながらフローラ嬢と別れ、午後の授業も終えた。


 寮の自室で身だしなみを整えていると、窓から鳥達が現れて羽で俺の制服のしわを撫でて伸ばしたり世話をしてくれた。


 『勇者様、綺麗になった♪』

 『お見合い、上手く行く♪』

 『お相手様も、おめかししてた♪』


 鳩や烏に雀が囃し立てる、まあ招待側も見栄えは大事だよな。


 レオンは、国王陛下の命令で東方へ魔物退治。


 クレインは鹿の王と自主練でバッシュは補習だ。


 さあ、乙女ゲームイベントに挑もう。


 前世でちょっとしか遊んだことはないけど、何とかなるはず。


 校舎を出て校門前まで来ると、フローラ嬢とお迎えの馬車が。


 「マッカ様、お待ちしておりました。 さあ、参りましょう♪」

 「ああ、宜しく頼む」


 フローラ嬢はご機嫌だな、俺はドナドナされる気分だが。


 二人で隣同士で座る馬車の中、緊張してきた。


 「あの、お顔がこわばっておられますが?」

 「すまない、女性と馬車で相席と言うのが人生初の事ゆえに」

 「まあ、私も殿方とこうして馬車でご一緒するのは初めてなんですの♪」

 「不祥の身ではありますが、あなたをお守りさせていただきます」


 夕方、学園を出た馬車は中央通りを進み貴族街へ。


 だが、突如爆発音が鳴ると同時に馬車が止まる。


 「聖獣武装!」

 「きゃっ!」


 俺は変身し、フローラ嬢を抱きしめバリヤーを張りつつ馬車を爆破させる。。


 馬車が壊れたのは賊の所為だ!


 「やったか? 大臣家の奴らはどうなった!」

 「生きてるものは殺せ! 死者は大臣当人でなくとも良い!」


 黒いバンダナに灰色の衣服で身なりを揃えた賊が叫ぶ。


 一般市民は逃げ出していた。


 「待ていっ! 貴様らの所業は断じて許せん!」

 「ま、マッカ様なのですか?」

 「ええ、詳しい事は後程」

 「な、何者だ貴様は!」


 煙が晴れたら真紅の鎧を着た戦士と、赤いバリヤーに包まれたフローラ嬢。


 「フェニックスの勇者フラメスこと、マッカ・サンハートだ!」


 恰好付けてヒーローネームと同時に本名も名乗ってしまった俺。


 「おのれ! 貴様もハーフオークの娘も殺してやる!」

 「王国貴族に異種族の血はいらぬ!」

 「人間族万歳!」


 賊共が恥ずかしい台詞を吐きながら襲い掛かる。


 「貴様らこそ恥を知れ! フェザーラッシュ!」


 殺さぬように手足だけを狙い、炎の羽手裏剣を射出する。


 「ぐわ~っ!」

 「ぎゃっ!」

 「しまったっ!」


 こちらの攻撃で吹き飛んだ襲撃者達。


 手足を傷つけられた彼らは逃げられないし、反撃もできない。


 「楽に死なせはせん、キュアバレット!」


 相手の口が空いている内に、豆粒ほどの光弾を撃ち込みバステを殺す。


 毒とかで自害なんかされたら、証言が取れないからな。


 襲撃者三人を敵が持っていた縄で縛り上げる。


 悪しき気配を探るが、この三人以外にはいなかったので変身を解く。


 「まったく、貴様ら異種族排斥主義者か?」

 「その手合いだと思われます、祖父も父も友和派ですから」

 「おっと、できれば俺の事は内密に願いたいのだが?」

 「隠し事は駄目ですよ、勇気さん♪」

 「ぶはっ! ちょっと待ってくれ、まさか君はイエローなのか?」


 フローラ嬢が何故俺の前世の名を知っているのか?


 他に知っているとすれば合流していない、イエローかブルーのみ。


 まさか、予感が当たってたのか?


 「前世でも今世でもあなたの正規ヒロイン、日南子ひなこでございます♪」


 再会とカミングアウト来た! けど、こんな時にかよ。


 「フロ~~~ラ~~ッ! 無事か~~っ!」


 激しい金属音を鳴らして武装した兵達が通りの向こうからやって来る。


 兵達を先頭で率いるのは、黒い貴族衣装を着た強面のオーク顔の老人男性。


 「お祖父様♪ フローラは、無事でございま~す♪」


 フローラ嬢が喜んで手を振る、この状況は逃げたいけれど逃げられない。


 「無事かフローラ! 君がマッカ君か? 報せを受けて辿り着いてみれば、賊が捕縛されておるしどうなっておる?」


 大臣が混乱気味に尋ねて来る、どうしよう。


 「お祖父様、マッカ様もお連れしてひとまず屋敷へと参りましょう?」

 「は、そうであった! 怖かったであろう、フローラよ?」


 日南子さんことフローラ嬢が俺に逃げるなよと目配せする。


 どうやら俺は、今世でも彼女の尻に敷かれそうだ。

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