第四話:鹿の勇者

 「キングネメアの件は散々だったぜ」

 「壮大な猿芝居をしたな」

 「疲れたよ~」

 「皆、ご苦労様♪」


 ぐだぐだで終わったキングネメアの試練。


 いや、何で俺がライオンの聖獣に惚れられるんだよ!


 業か? 前世からの業なのか? 


 レオンとネメアが契約をした後、俺達は戻るまで何をしてたかと言うと。


 レオンが考えた筋書きで、国に提出しないといけない記録映像撮影する為の大芝居。


また崖登りから始めてダンジョンに行き、キングネメアと戦闘をしてと茶番劇を演じたのだ。


 苦労して撮影した映像を使い、嘘と事実を混ぜた報告で乗り切った俺達。


 どうにかこうにか、魔法学園での学生生活へと戻れたんだ。


疲れたよ心身共に。


 「次はクレインの変身の為の聖獣探しか」


 戦隊するなら、やはり全員で変身ができないとな。


 学園内に与えられた部室で男四人がうなだれつつ机を囲み、お茶会をする中で呟く。


 「しかし、学内にまともな部室もあったんだな?」


 部屋を見回してみれば、壁には資料が並んだ本棚や物入が置かれていてとファンタジー学園物の部室だ。


 試練よりこう言う所で、皆と楽しく部活や勉強に恋にと過ごしたいよ。


 「キングネメアの試練で実績はできたから当面の部費は大丈夫だね」


 バッシュが微笑む。


 部活の体だから部費とかあるんだよな。


 「次の聖獣探しは、西のエメラルド山だ」


 クレインが机の上に赤い本を開く。


 緑色の鹿の挿絵が記載されている。


 「角に葉が生えていて植物っぽいな、いかにも神の使いっぽい」

 「サイクロンディアー、風属性だね」

 「レオン、何で俺の隣に来る?」

 「自然な流れだからかな」


 いつの間にかレオンが俺の隣に座る。


 「お前達、部室でいちゃつくなよ?」

 「そうですよ、耽美本描かれちゃいますよ?」

 「もう出てるし、監修してるから平気♪」


 クレイン達のツッコみにレオンがとんでもない事を言う。


 いや、止めろよ? 俺の肖像権や尊厳にダメージが来てるんだよ?


 どうりで女子の視線が変だと思ったが、読んでた奴らだな。


 「土日で行くか? 準備もあるし、授業も出ないと」


 留年や退学などと言う不名誉は嫌だ、学生生活も楽しみたい。


 「ああ、マッカの言う通り挑むのは土日で頼む」

 「マッカさん、真面目ですよねアニメだとヤンチャ系の顔なのに」

 「釣り目ってるのはこっちの親譲りだよ、俺は前世から真面目だ」


 バッシュは前世と変わり過ぎだ、性別も変わってるし。


 「僕もネメアの力を練習したいから、そうしてくれると助かるよ」


 レオンも同意して予定が決まり、この日の部活は解散となった。


 「しかし、イエローとブルーはどこにいるのやら?」


 相手にはこっちがわかるらしいが、俺にはわからない。


 どうにかして、ステータス見る魔法を身に着けないとな。


 部室を出て廊下を歩き、夕食まで時間があるので学園の図書室に魔法の本が並ぶ棚へと足を進める。


 おや、他にも本を探してる人がいるのかな? 


 見かけたのは、黄色い髪を姫様カットにしたふくよかな女子生徒。


耳の尖りからして、ハーフオークかな?


 梯子の上まで登っていて、本棚の高い場所で探し物か?


 足が揺れていて何か動作が危ないな、助けに行かねば。


 「……えっと、きゃっ!」

 「危ねえっ!」

 「え、え~~~~つ!」

 「いや、騒がないでくれ? 救助の為の緊急手段だ!」


 案の定、梯子から落ちた女子を魔法で浮遊して空中で見事にキャッチ。


 フェニックスがくれたパワーのお陰でどうにかリフトで来た。


 お姫様抱っこの状態に泣てしまったからか、驚かせたのが悪いのかが叫ばれた。


 口を閉じるように告げる。


 飛んだ時に見回せたが、俺と彼女以外の人がいなかったのが幸いだ。


 着地して女の子を立たせるように下ろす。


 「し、失礼しましたマッカ様!」

 「おっと、小声で頼むぜ? 様はいらない、無事で良かった」


 声が外に漏れるのはまずい、人が来たら俺が悪さをしたと誤解されかねない。


 「あの、私の事は重くなかったでしたか?」

 「人の命は誰もが重い、気にするな♪」

 「あ、ご配慮ありがとうございます」


 いかん、逆に気を遣わせてしまった。


 「私、フローラと申します。 いつか今日のお礼をさせて下さいませ」

 「いつかな、それではこちらこそ失礼」


 良い声をしてたな、お行儀の良さそうな子だった。


 探し物どころではなくなったので、素早く図書室から出る。


 彼女がイエローであれば良いが、まあそんな偶然はないだろう。


 髪の色が黄色だからって、前世の妻の生まれ変わりだと言う事はないはずだ。


 フローラ嬢はフローラ嬢だ、落ち着け俺。


 でも、何かこう癒されるオーラを出す子だったな。


 今世の姉や妹はお転婆だったせいで、女子と絡むのは面倒だった。


 こっちでは俺は目付きが悪いからか、女子との会話は挨拶くらいだ。


 いつか礼をと言うから、また会える事を少しは期待して見よう。


 うん、人助けとか良い力の使い方が出来たし女子とも話せて良かった。


 出会いもありつつ、聖獣探しの日がやって来た。


 「……凄く、空気が美味しいです」

 「お弁当持って来たよ、マッカ♪」

 「木で一杯の山だねえ、この間は岩山だったけど」

 「お前ら、山をなめるなよ?」


 自然が豊か過ぎとも言える、大地も周囲も緑に満ちた山に入る俺達。


 「鳥達よ、火の鳥の勇者と獅子の勇者が鹿の勇者候補を連れて来たぞ!」


 俺はこの山に住む鳥達に叫ぶと、鳥達が騒ぎ出す。


 「マッカ、鳥さん達は何て言ってるの?」

 「出迎えの用意だ、鹿の王に伝えよ、梟を呼べってさ」

 「マッカさん、鳥と話せるんだ」

 「学園の花壇や畑を鳥が荒らさないのは、お前のお陰か」

 「そう言う事、挨拶は済ませたぞ」


 鳥経由でアポを取ると、空から白い梟が俺の左腕に舞い降りた。


 「マッカ、勇者らしくて素敵だよ♪」

 「茶化すな、彼が案内役だ」

 「すまないな、マッカ」

 「マッカさん、便利だな」


 梟に先導されて進む、獣類はレオンと契約したネメアのお陰で遭遇はしなかった


 やがて開けた場所に辿り着くと鹿の王、サイクロンディア―が待ち構えていた。


 俺達は全員、鹿の王の前で横並びになり片膝をついて一礼する。


 事前に打ち合わせして、礼儀正しく接しようと決めた成果だ。


 『勇者達よ、よくぞ参られた。 緑の髪の少年が、我が契約者候補であるな?』

 「お出迎え感謝いたします、こちらのクレイン・グリーンウィンドに王の御助力を賜りたく参上いたしました」

 『相分かった、ではその少年と我の一対一の対決で試すとしよう』


 交渉は成立、かくしてクレインとサイクロンディア―の対決が決まった。


 俺達は離れた場所で見守る。


 サイクロンディア―が自分とクレインを中心に張ったドーム状の結界。


 クレインが杖を地面に突き立て衝撃波を起こせば、鹿の王は宙を飛び回避。


 鹿の王が角を振るうと、木の葉が舞う旋風の群れがクレインを襲う。


 クレインも魔法で小さな竜巻の群れを繰り出してぶつけ合い相殺した。


 「属性が同じだと千日手にならないかな?」 

 「大丈夫だ、クレインはその上で勝つ」


 レオの言葉に俺はクレインが勝つと答える、クレインは魔法一辺倒の男じゃない。


 鹿の王が空を舞い、風を纏った蹴りで攻めれば地上にいるクレインは杖を槍の如く投げて飛ばし対空攻撃で迎え撃った。


 クレインの杖が鹿の王を貫き霧散化させ、落下した杖を手に取り勝負はついた。


 地上に風が渦を巻き鹿の王、サイクロンディア―が復活しクレインに近づき神戸を垂らして差し出すとクレインがその頭に触れ両者は光に包まれた。


 光が消えると、全身を緑の鎧に包んだ戦士が誕生した。


 フルフェイスの兜の頭頂部には、龍の如き鹿角とこれはこれで格好良かった。


 「鹿の勇者誕生だね、おめでとうクレイン♪」

 「クレインさん良いなあ、僕も早く変身したい」

 「やったぜ、後はバッシュとブルーとイエローだな」


 俺達三人は、クレインの変身を喜んだ。

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