第三話:獅子の勇者
茶色い山肌、風が吹きすさぶ中で崖登りをする俺達。
「ああ、君と僕は太い絆で結ばれてるんだねマッカ♪」
「絆じゃなくてロープだよ! しっかり登れ!」
俺とレオンは互いをロープで繋ぎ崖を登る。
「まさか、王家の谷が飛行魔法禁止だったなんて~っ!」
「嘆くなバッシュ、俺達も登るんだ!」
バッシュとクレインもこちらと同じようにクライミングする。
「キングネメア、絶対に屈服させてあげるよ」
「終わったら皆で風呂に浸かるか?」
「行こう皆! 体の底から力が漲って来たよ♪」
レオンが急に闘志を燃やして登り出す。
「レオンさん、変態です~~っ!」
「前世の頃から知ってるだろ、変態の暴走は危険だ!」
クレイン達も必死に崖を登る。
「ここが頂上か?」
「ああ、良い景色だよマッカ♪」
レオンの変態的な運動力で登り切った俺達、
「つ、疲れました~!」
「この体に前世の知識や経験が追いついていない」
バッシュとクレインも登り切る。
クレインは前世のマッチョな山男から、今は文系美少年だもんな。
バッシュは、前世は薙刀女子から子犬系美少年と変わり過ぎだ。
「とにかく、神殿に入ろうぜ」
「待って、先頭は僕が行くよ」
レオンが先頭に立ち、山の上のギリシャ風神殿に入って行く。
固く閉ざされた石の扉が左右に開き、俺達を招き入れる。
「しかし、崖の上に神殿とは千尋の谷じゃないのだから」
後衛のクレインが呆れる。
「どの世界も、似たようなお話ってあるんですね」
バッシュが呟く。
通路を越えて広間に出れば、口を開けた巨大な獅子の頭がお出迎え。
「これは、獅子の口の中がダンジョンの入り口だね」
レオンが真面目に呟く。
「獅子身中の虫か俺達は?」
試されているんだろうなと思う。
獅子の口の中が輝き、俺達は吸い込まれた。
出た先は空中、急速に地上の草原が俺達に迫る。
「落ちる~~~~っ!」
「落下ダメージでしんでしまうっ!」
バッシュとクレインが叫ぶ。
「させねえよ馬鹿野郎! 皆つかまれ!」
俺は背中から火の鳥の翼を生やして飛び、仲間達を手足に摑まらせる。
「た、助かった~っ」
「すまないマッカ、恩に着る」
「ありがとう、マッカ♪」
着地後に仲間達から礼を言われる。
「仲間を見捨てるわけがねえだろ、昔から」
前世でも今世でも一緒に戦う仲間だ、見捨てられねえよ。
「俺かバッシュも飛べる聖獣と契約した方が良いな、飛行能力は重要だ」
クレインが冷静に呟き立ち上がる。
「僕、ダンジョンは初めて来たんだけど大丈夫かなあ?」
バッシュの格好は、ゲームで言うシーフっぽい軽装。
腰にベルトポーチ、上はピンクのジャケット下はズボン。
足はブーツで、両手はグローブで武器は腰のナイフ二本と鞭。
クレインは学園の制服の上に緑のローブと、先端に渦巻の飾り付きの金属の杖。
前世では斧が武器の戦士だったが、ここでは完全に魔法使いだ。
「どうしたんだいマッカ? クレインやバッシュだけじゃなく僕も見てくれ♪」
「いや、レオンは白のサーコートに魔法の鎧か高い奴」
レオンは、いわゆる鎧を着た騎士でサーコートと言う陣羽織付きだ。
俺は学園の訓練用のレザーアーマーと学園の両手剣、格差社会。
いや、俺も辺境伯の五男とそれなりの家の子だけどな。
家伝の武器は、三男の兄貴の分までしかねえって悲しいぜ。
「マッカ、僕が性別を変えたらお婿にして養ってあげるから!」
「レオンさん、言葉が色々と問題ですよ」
「お前はマッカの事が好きすぎだろ!」
「それはもう、前世からの推しメンだからね♪」
バッシュやクレイン達にツッコまれても動じないレオン。
「やかましい、敵が出て来たぞ構えろ!」
前方から一つ目の牛、カトブレパスの群れが現れた。
俺とレオンは剣を抜いて構える。
バッシュはナイフではなく鞭を装備。
「大地よ波打て、アースウェーブ!」
クレインが杖を大地に突き立って叫ぶと目の前の大地が揺れた。
地を走る衝撃波がカトブレパスの群れを転倒させる。
「僕も行きます、サンダーホイップ!」
バッシュの鞭に電光が宿り、立ち上がて来た一頭に振るわれる。
鞭の打撃と電撃で苦しむカトブレパス。
「石化は使わせないよ、フラッシュボルト!」
レオンが続き、野球ボールほどの白い魔法の光弾を掌から打ち出す。
「良し、目が潰れたなら止めだバーンブレード!」
止めは俺の魔法剣、炎の刃をカトブレパスの潰れた目を狙い突き立てる。
「他の敵も動き出したよ!」
バッシュが叫と、立ち上がったカトブレパス雄叫びを上げる。
「まずい、石化の光が来るぞ!」
クレインが再度魔法を使おうとする。
「大丈夫、僕に任せてくれ。 リフレクトミラー!」
レオンが俺達の前に出て叫べば、銀の光の盾がドーム状に俺達を包む。
カトブレパス達の目から放たれた赤黒い石化の光は、銀の光の盾で跳ね返された。
「さて、これでカトブレパスは全滅だね」
「草原に転がるいくつもの小岩、シュールだな」
レオンの言葉に呟きで返す俺。
「皮と肉までは手間だから角だけにしておこう♪」
バッシュは俺が止めを刺したカトブレパスから角をナイフで切り取る。
「しかし、こういう異空間に揃って行くのは懐かしいな」
クレインが前世を思い出したのか語り出す。
どことなく悪の怪人もモンスターも何か変わらないなと思った。
異空間ダンジョンも、前世で似たような装置を敵が使ってたし。
草原を進むと開けた場所に寝そべる巨大ラオインがいた。
ライオンが目を覚まして立ち上がると俺達に問いかける。
『金髪の小僧は王家の者だな? 赤髪の少年、貴殿からは勇者の素質が見える♪』
え、この聖獣様は何で王子であるレオンより俺に好感持ってるの?
「うん、君は僕と似た者同士だねキングネメア♪ マッカは僕のだ!」
『黙れ小僧、貴様に勇者殿を任せられるか!』
「俺はお前らのじゃねえ!」
レオンがブチ切れて突っ込み、キングネメアと勝手に戦闘に入る。
「ちょっと、何でレオンさんと聖獣様がマッカさんを取り合ってるんですか!」
「マッカ、お前は本当に厄介な奴に愛されるな!」
クレインとバッシュは、いつの間にか後方でバリヤーを張って自分達を守ってた。
「あいつら、確かにレオン達には絡みたくないよな」
レオンとキングネメア、レオンは光の劍でネメアは光る爪牙にビームブレス。
王子であるレオンが聖獣の力を得る試練。
のはずが俺を巡っての喧嘩って、公文書どうすんだよ?
「よし、聖獣武装!」
俺はヒヨちゃんを纏い変身し、争いを止めるべく翼を広げ突進。
「熱血一刀流、フェニックスバーン!」
刀じゃないが、レオンとネメアの間に大上段から火柱の剣を振り下ろす!
『グワ~~ッ!』
「マッカの熱が熱い~~~っ♪」
「両成敗だ馬鹿野郎!」
燃え盛る剣を大地に叩きつけ大爆発を起こし、馬鹿共を吹き飛ばす。
何で悪を断つ為の必殺技を仲間のボケへのツッコみに使う羽目になるんだ!
「マッカ、ごめん」
『すまなかった、勇者殿』
レオンとネメアを正座させる。
「お前ら王族と聖獣の自覚持てよ! 歴史書にこのことどう書けと?」
レオンとネメアの戦いは書けるが戦いの前後だよな、俺の存在は書かれたくない。
「そこは仲間達を止めて一人で挑んだ僕をネメアが認めたで」
『うむ、勇者殿に迷惑はかけぬ。 小僧と我の志は同じであると認めよう』
「じゃあ、僕が性別を変えるのはネメアが後で父上達に予言するで頼むよ♪」
『仕方あるまい、勇者殿と王家の血を守る大義の為であるからな』
あれ? ちょっとこいつら仲良くなり過ぎじゃね?
「マッカさん、墓穴掘ってますね」
「言うなバッシュ、前世からの業だ」
バッシュとクレインが嫌な事を言う。
こうして真実は当事者間で捻じ曲げられて、レオンは獅子の勇者となった。
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