閑話 学園編の始まり前に
あらすじ:試験に合格したお祝いにアラン(とその父)達はアイザック領の中心地、本邸の麓の街に来ていた。
1.オウガイデパート四階・アウトドアコーナー
「見てみてアラン!この帽子とか良さそうじゃない?」
そう言ってアランよりもはしゃいでいるのは、彼の育ての親である、ウィリアム・アイザックである。
今は
これからアランが通うミネギシ魔導学校は全寮制の学園のため、日常で着る私服や各種の日用品を自分で選んで持っていく必要がある。
そんなわけで今はアイザック領でも屈指の品揃えを誇るオウガイデパートにやってきていた。
それからしばらくの間、色々な店を見て回った後にウィリアムはアランの手を引いて、1階の端にやってきた。
「父さん、この先って何もないよ」
アランの呼びかけにウィリアムは嬉しそうに返した。
「いいや。この先にはとっておきがあるのさ!」
そこには掃除用の機械が一台あるだけで、行き止まりの壁があるだけだった。
ウィリアムは財布からアランが持っている物とは色の違うデパートのポイントカードを取り出した。
それを機械の前の液晶に触れさせると、突如として機械の挙動がおかしくなりはじめ、妙な音を出して停止した。
「え?え?」
ウィリアムはそれからしばらく待った。
すると、継ぎ目のような物がなかった壁が開き、エレベーターが現れた。
「へ?」
戸惑うアランの肩を持ち、ウィリアムは強引にエレベーターの中に入れた。
「ここは?」
「
幕間.ワンポイント案内
オウガイデパートについて:
魔歴35年“始まりの魔術師達”の一人コウガイ・ヨシダが当時徐々に人数が増えていた魔術師達向けの修行道具を販売したことが始まり。
その後、世代を経るごとに様々な魔術用品を揃えると共に、近年では表の顔として、非魔術師の生活雑貨を販売するようにもなった。世界有数の総合商社である。
2.オウガイデパート本店・裏エントランス
そこは先ほどまで見ていたオウガイデパートとは雰囲気が全くと言っていい程に異なっていた。
全体的に内装や動線にこだわっていた先ほどと違い、こちらは全体的にごちゃごちゃした印象を与えた。
まるで後から後から空間を付け足していったように。
「あら、アランも来たんだ」
呆気にとられているアランの横から彼の名前を呼ぶ声がした。
そちらを見ると両手にも両腕にも様々なエコバックや箱を装備していたアランの(血のつながらない)姉である、フラム・アイザックがいた。
フラムは
完全に
アランはエントランスや大きめの通路から外れた所にある、シックな雰囲気の店に連れてこられた。
その店はデパート内にも関わらず、壁と扉で仕切っていた。
「(姉さんってこういう雰囲気の店とか来るんだ)」
アランが最初にこの店に抱いた感想はそれである。
フラムはさっさと店の扉を開けて、アランを中に入れた。
扉に取り付けられた鈴から耳心地の良い音が店内に流れた。
店の中には扉の近くに絵本に出てくる魔女のようなおばあさんが一人いるだけで、他には誰もいなかった。
「ここは?「服屋だよ。
アランの疑問におばあさんが答えた。
しかし、その店にはおかしな点が一つあった。
その店には服と呼べるような物はなく、あるのは大小無数の布が置いてあるだけだった。
「この店は完全オーダーメイドなんだよ」
アランの疑問を悟ったのかフラムは答えた。
おばあさんもこちらを向いて言った。
「あんたも知っての通り、『道具保存の魔術』を使えば、服なんてのは擦り切れも色落ちもせずに何十年、下手すりゃ何百年も
「え、そうなんですか?(道理で父さんの着てる服ってかなり前から変わってないんだ)」
店員のおばあさんはアランを訝しんだような表情をした。
「
布をべたべたと触っていた
「
おばあさんは納得したようだった。
「そういうことなら説明しようかね。そこに置いてある布はどれも服になり損ねた
アランは言われた通りに店の品を触ってみた。
これはなめらかだけど、なんか違う。
これはざらざらして嫌。
・・・これは?
そうしてアランは良さそうな生地を選んだ。
「これが良いです」
「へぇ。木綿かい。それで?色とサイズは?装飾品は付ける?」
「色は黒で、えっとサイズは「アランは
フラムが口を挟んだ。
「・・・じゃあそれで「
「どうしてですか?」
「そりゃ魔術をかけづらく・・・そうか知らないのか。いいかい?さっき言った『道具保存の魔術』ってのは所有者が自分の魔力で衣服に無色の魔法陣を刻むことで効果を示すものなんだ。それ以外にも魔術師ってのはよく使う魔術は大抵、服や装飾品なんかに魔法陣を刻むことで発動までの時間を短縮してる。だがSサイズの服には刻める魔法陣の数やサイズが制限されちまう。そういう理由でこの店ではSサイズの服は作ってないんだよ」
アランは頷いた「なら、Mサイズで」
「わかった。ちなみに商品の完成には1週間かかるよ。あ、あと前払いだからね」
「あ「カードで」アランが何か言う前に
「じゃあ私も!この生地で色は黒!(ふへへ、アランとお揃いだ!)」
「はいよ。サイズはいつも通りで良いかい?」
おばあさんは手続きを済ませると、手元を動かし始めた。
今、気づいた事だが、どうやらおばあさんがここで服を作っているようだ。
店の外に出ると、そこには
その荷物をウィリアムは持つと「次はどこに行こうか?」と
アランはこの辺りに詳しくなかったので、皆に合わせることにした。
幕間.小話
待っているときのヤーガについて:
「よいしょ。よいしょ」
そう言って少女(に見える二児の母)は多くの荷物を持っていた。
それは
「ふぅ。ここで一休み」
そう言ってヤーガはベンチに座った。
荷物の中には子ども達が寮で使うためのものもあるので以外に重い。
魔術師でないヤーガには運ぶだけで一苦労だ。
すると「んん?お嬢ちゃんこんなところでドウシタの?」
怪しげな格好の男がヤーガの近くにやってきた。
「ふふ、少し疲れてしまってね。ここで休んでいるの」
そんな相手にもヤーガは警戒心を感じさせない声音でそう言った。
そのまま男がヤーガに近づこうとした時「おい?このナイフなんだ?」
後ろからそんな声が聞こえてきた。
男はいつの間にか少女(に見えているが二児の母)の死角になるような位置に持っていたナイフが自分の手から消えていることに気がついた。
「ふむ。『睡眠誘導』かおまえ、人さらいの手合いか?」
自らの持っていたナイフの術式が暴かれた人さらいが杖を出した瞬間。
そいつの口が何か唱えるより
そいつの体が何か術式と作るより
『
それは一族の魔導。
“始まりの魔術師達”の一人を始祖とする魔術師の家系の一つ。アイザック家。
その当主に代々継承され、歴代当主の手によって発展を繰り返してきた、“原初の魔術”その一つ。
それをウィリアムは躊躇なく振るった。
結果として、人さらいの体は亜音速で吹き飛び、その肉体は壁に打ち付けられた。
「あ、えぁ」ギリギリで生きているのはその魔術の力か。
彼は連れていかれる病院で実刑を言い渡されることになる。
「ヤーガ。大丈夫?何かされてない?」
その魔術を行使した
「全然!それより子ども達はどこかしら?」
そうして二人は歩き出した。
服屋で買い物をしている子ども達の元へ
3.オウガイデパート本店・三階・杖屋前
先ほどと同じように、その店も四方を壁で区切っていた。
アランはその店を案内した
「ねぇ、僕もう杖持ってるんだけど?」
フラムは返した。
「そっか。アランは杖屋さんは初めてか。ここはね。杖の整備道具専門店なんだよ」
「整備?」
フラムは不思議そうに、驚いたように言った。
「しないつもりだったの?」
「いや。そういうわけじゃないけど」
するともう片方から、父も言った。
「杖の整備は道具があると効率が良いとされている。だが、納得のいく道具を揃えるのは熟達した魔術師でも難しい、奥の深ぁい世界だ。ま、見てみればわかるさ」
そう言って
その店には大小無数の道具があった。
そう言った物に詳しくないアランにはどれが何に使うのかもよくわからない。
しばらくしていると、店員さんが近くに来たので、質問することにした。
「こちらの商品は杖を磨くための布になりますね。杖の材質にあった布を選ぶことで、魔力の通りが良くなりますよ」
「こちらの商品は杖を磨く際に使う油ですね。これを使えば杖の魔力の通りが良くなりますよ」
結局何が良いのかアランにはわからなかったので、初心者向けと言われた布だけ買った。
幕間.小話
ある日の二人:
ある日のアイザック邸の庭には、アランと師匠がいた。
アランの姿を見て師匠は嬉しそうにする。
「うン!
そう言うと師匠は懐から古ぼけたトランプを出して近くの椅子に座った。
アランも師匠と机を挟んだ正面に座った。
師匠は慣れた手つきで箱からトランプを出し、シャッフルし始めた。
「
師匠の質問にアランは頷くことで肯定を示した。
師匠は互いにカードを配りながら話し始めた。
「トランプというのはね。元は小アルカナと呼ばれる魔術道具ノ一つを原典とする物だったりするんダよ。だからトいうわけではナイけど、古い魔術にはトランプやそれニ関する
そうしてゲームは始まった。
互いに手札を捨てたり引いたり、アランが負けたり、師匠が勝ったりを繰り返していると師匠はまた話し始めた。
「魔術師の強さってね。大きく分けて二種類ニ分けて例えられるんダヨ」
「“二種類”。ですか?」
「うん。“必ずロイヤルストレートフラッシュを出す奴”と“どんな手札でもロイヤルストレートフラッシュに見せる奴”ってネ」
「へー」
そうしてまたアランは負けて、師匠が勝った。
4.ウィリアム自治区・駅構内
そこには大きな荷物を持った一組の
そして子ども達を見送る夫婦の姿もあった。
「二人とも、体には気を付けてね」
「辛くなったらいつでも帰ってきて良いからな」
そんな二人にしばしの別れを告げて、彼らは列車に飛び乗った。
二人のこれからを祝福するように、汽笛が二つ鳴った。
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