第10話本試験の開始あるいは試験編の終幕

教員達は彼らモルダとアランを丁重に医務室へと運んだ。

それは試験終了の五分前のことだった。


0.5 ミネギシ魔導学校???階・理事長室

彼は自らの机の上に置いてある黒電話(に見える古代魔道具)の受話器を台に戻した。

「ふむ。今年の予試験通過者は810人中600人ですか。なかなかやりますねぇ!さてと、そろそろ私の出番ですかねぇ」

そう言うと、その男は側にかけておいたローブを身に纏い、理事長室を後にした。


1.ミネギシ魔導学校・医務室

「ん?知らない天井だ」

目を覚ましたアランは周りを見回した。

そこは白を基調とした内装の部屋だった。

アランの服もいつの間にか変わっており、この部屋の壁の色同様の白い服となっていた。

注意深く部屋の中を見回していると、アランが寝ていたベッドの隣にもう一つベッドがあり、そこには頭に包帯を巻いているモルダ君が寝ていた。

しばらくすると部屋の扉が音を立てて横にスライドし、白衣を着た(性別がよくわからないラインの)人物がやってきた。

アランはそこでようやく、自分たちがいるのが医療施設又はそれに準ずる場所だということを理解した。

「貴方は?」

トレーを持ちこの部屋に入ってきた人物にアランは訊ねた。

あちきは、マァルコポォーロォォォ!・・・というのは冗談で、この施設の長をしているメガネ・ヤロウという者だすよ」


「はぁ(個性的な人なのかな?)」

メガネ・ヤロウと名乗った若い見た目の人物は扉の近くにあった椅子に座り、トレーを目の前にある机の上に乗せると続けた。

「ちなみに今のは、急患などをなごませるための冗談ジョークざんす。なかなか面白いでござんしょ?」

「あの、マルコポーロってなんですか?(文脈的に)人の名前ってことですかね?」

疑問に思ったことをアランは訊ねた。

メガネはカチャカチャと作業を続けながらアランの質問に答えた。

「さぁ?あちきもよぅ知らないでげす。ただ単に思いついた名前を適当に述べているだけでござんす」

「そうでしたか」

わけのわからないことを言われて、アランは混乱してきた。

「・・・そうだ!試験!私達入学試験を「知ってるでごんすよ」

さっきからちょくちょく語尾の変わるメガネはアランが言い終わる前に疑問に答えた。

貴方達あんさんがたは予試験を合格してるでげす。でもボロボロだったんでこの医務室に運ばれてきたんでげす。最後に検査をするんで、その結果次第では本試験に参加しても良いでげすよ」

そう言ってメガネはトレーから特殊な形状の注射器(?)のような物を出して、アランに近づいてきた。

「嫌だ!注射器それだけは嫌だ!」

そう言ってアランは叫びだした。

「大丈夫でげす。結果としてそういう形をしているだけで、注射器とは縁遠い魔道具でげす」

メガネはベットの上のアランの頭を(信じられない力で)押さえると、アランの二の腕の部分に(袖がある状態で)当てた。


いっ!」

一瞬の痛みがアランの全身に走ると、メガネは魔道具を見た。

「うん!この数値なら大丈夫でげすね。退院でげす。服と着替える場所スペースは部屋を出て左の突き当りでげすよ」

アランは部屋から追い出されると、指示されたとおりの場所で着替えた。

服は新品のように綺麗になっていた。

部屋を出ると、ちょうどモルダ君がこちらに来るところだった。


目の前に来たモルダ君は深くアランに頭を下げた。

「ありがとうございましたっす。おかげで死なずに済みました。この御恩は必ず」

アランは軽く微笑んで言った。

「別にいいよ」

そう言って二人は別れた。


そして本試験が始まる。


幕間.ワンポイント案内

メガネ・ヤロウについて:

ミネギシ魔導学校・命術めいじゅつ学、学部長

御年67歳。

40年程前に命術分野にて偉大な成績を残し、その成果によって学園に研究室を与えられる。

その魔術の影響か外見年齢は研究室を与えられた当時のままである。

現在は学園病院の院長も兼任している。

『ミネギシ魔導学校内部資料より』


2.ミネギシ魔導学校第三次試験本試験会場

アランは医務室のような場所を出た後、仮面を着けた女医さん(?)のような格好をした人物(?)に案内され、照明の付いていない部屋にやってきた。

アランがその部屋の中心(?)に置かれた椅子に座ると、すぐに入るときに使った扉が閉められ、部屋が完全な暗黒になった。


「どうも」

しばらくすると声が聞こえてきた。

何処からだろう?

目の前のような気もするし、耳元のような気もする。

「こんにちは!」

そんな声にアランは返事をした。

「こんにちは。それでは最終試験を開始いたします」

声の言葉にアランは背筋を正した。

「まず初めに、当校を志望した理由はなんでしょうか?」

「(面接?)はい!御校の校風が私の将来の目的と一致していたからです」

「(ふぅん。ありきたりだね)ほう?それは?」

「誰かを守れるようなやさしい魔術師になりたいです」

アランはためらいなくそう答えた。

「(ふぅん。今時珍しいね。こんなに芯のある魔術師は)それがあの行動につながったのかな?」

「あの行動?」

声に対してアランは聞き返す。

「そう。他の受験生を助けて、ゴールしたよね?」

「はい」何の確認だろう?とアランは思った。


「あれ、不正行為にあてはまるとは考えなかったのかな?」

「え?」


一瞬、アランは頭が真っ白になった。

コエは

「負傷した他の受験生を助けたところまでは良かったセーフだけど、その後、負傷者かれに肩を貸して、一緒に本試験会場に来たよね?あれって立派な該当するんじゃないかな?だってが試験の内容だったんだぜ?」

その通りかもしれない。そうアランは思った。

「そこに関して、君の解釈どういうつもりだったのかを聞きたいなぁ」

でも、「後悔はしてません」

アランは言った。

「ん?」

だって、アランの魔導ゆめは“誰かを守れるようなやさしい魔術師になりたい”なのだ。

そのためにこの学校に来たのだ。

もしもその過程で誰かを助けて、

それが理由で試験に不合格になってしまっても、

アランは後悔しない自信があった。

「彼を助けたことについて後悔は、していません」

「うん。それはわかったんだけど」

「それが、答えです」

だから答えた。はっきりと


「(あれ?質問の仕方間違えた?)えっとぉ。そういうんじゃなくてね。君の行動は不正行為をする意図つもりのかのか、そこのところを聞かせてね?」

声は戸惑ったようにそう言った。

「え?・・・なかったです」

「うん。そう言う答えが聞きたかった」

あれ?

「ひょっとして、不正じゃなかったんですか?」

「ごめんこっちの言い方が悪かったかも、君たちの行動って今なんだよね。だから

「あ、そうなんですか」

アランは肩の力が消えていくのを感じた。

そこからはいくつかありきたりな質疑応答を経て、試験は終了した。


2.5 面接官室

そこではつい先ほどまで霊体を飛ばしていたフィンリー・ヘイゲンがいた。

「あの言い方はどうかと思いますよ」

その近くには既に自分の分の本試験を終了させたドール・フランキスカがいた。

「だぁってさぁあ。あの子には第一関門を使用不能にされた恨みがあるしぃ。すこぉし嫌がらせしたくなるじゃん?」

ヘイゲンは手をひらひらさせながらそう答えた。

「なりません」

「んで。今の二人で本試験データ取りは終わった感じ?」

「はい。これから各ルートを攻略した受験生の最終選考に移ります。ご移動を」

ヘイゲンは手をひらひらと動かし、了解の意を示した。


これにて全ての試験が終了した。


幕間.ワンポイント案内

第三次試験本試験について:

内容・各受験生と、その受験生が攻略した予試験の担当者(アランとモルダの場合はヘイゲン教授)の一対一の面接試験。

質問の内容は各担当者に一任されており上限7つ以下であれば(常識の範囲内で)どんな質問でも可能。

面接が終了した後、予試験・本試験、それぞれの言動を全担当官で総合的に審査し、受験生の合否を決める。

『ミネギシ魔導学校第三次試験総合資料』より


3.ミネギシ魔導学校第三次試験監督官総合詰め所

そこは異様な雰囲気に包まれていた。

元々が個人主義の魔術師。

その中でも自分の世界こうぼうにこもりがちになっている教授たちが今だけはこの場所に集っていたからである。

「さて、定刻になりましたので最終選考を始めていきます。皆様私情は抜きにして、厳正な審査をお願いします」

そして審査が始まった。


「それでは次の受験生。受験番号9565番アラン・アイザックの審査を始めます」

「ほう。アイザック」

その部屋にいた教授の誰かがそう言った。

「私情は抜きでお願いしますよ」

空気が変わったのを感じ取ったドール・フランキスカは本日何度目かの台詞を言った。

そして画面には予試験でのアランの行動が映し出された。

「ほう、あの年齢で既に魔導書の現界の術を会得しているのか」

「三年生でも七割しか会得していないのだぞ」

「アイザック家の宗家の出でしょ?それぐらいはできるんじゃないですか?」

てんさいがまだできてないのにか?」

「それよりその横、あの受験生は確か」

「ディミヌエンドの次男だな。二人で協力しているようだが」

「協力か?一方的な救済じゃね?」

「チ教授言葉が過ぎるぞ」


室内に嫌な空気が流れた所で、映像はアランの面接試験に移った。

「ほう、あれほど芯のある魔術師は今日日きょうびそうはいないな」

「ま、我が校に来るならこれぐらいは欲しいところですよね」

「で、合否はどうします?」

「合格で良いのではないかね?」

「同じく」「異論はありません」


4.アイザック邸・食堂

そこにはアランの身内が大勢集まって、一つの封筒を囲んでいた。

皆がアランが開けようとしている封筒を凝視している。

アランは中の手紙を見てそして飛び跳ねた。

「ぃっよぉし!」

誰かはそう喜び、

「おめでとう!アラン!」

別の誰かはアランを祝福し、

さらに別の誰かは声を失っていた。

そうして屋敷は喜びで満ちた。

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