第7話そして少年は次へと進む後編

幕間.小話

目からビーム:

アランが師匠と修業をしていたある日のこと、疲れてその場に座り込んだアランはこんなことを口にした。

「師匠~。たまには休んでも良いですかぁ?」

師匠は苦笑いをしながら答えた。

「気持ちはわからないでもないけど、ダメだよ。魔術の世界は積み重ねの世界だからね。どれだけ辛くてもコツコツ頑張らないと」

アランは師匠の姿を仰ぎ見ると聞いた。

「そうなんですか?」

「そうだよ~。魔術師の実力は五割はんぶんが本人の努力に依存しているからね。そのせいか、魔術師って基本自慢したがりなんだよね」

「自慢したがり。・・・それじゃあ残り半分の五割って何ですか?」

「才能二割、家柄二割、気概一割だね。この場合の家柄っていうのは先祖が残した魔術とかを引き継ぐこととかを指すね」

「引き継げるんですか!魔術って!」

アランは師匠の話に興奮して思わず立ち上がった。

「そのうちわかるよ」

そう言って師匠は笑った。

「ちなみに今、少年きみがやってる魔力操作そのしゅぎょうだけどね。極めればこんなこともできるよ」

次の瞬間師匠の右目から一筋の光が出ると、直線上にあった木を貫いた。

「へぇ?」

混乱するアランに満面の笑みで師匠は言った。

「さ!修業を再開しようか!」


7.アイザック邸一階・食堂

その日もアラン達は家族四人で食卓を囲んでいた。

今は話すべきことを話し終えたので皿とフォークがぶつかる音だけが響いている。

「あの、父さん」

そんな中でアランは切り出した。

己の人生を変える言葉を

あるいは自らの魔導の始まりを告げる宣言ひとこと

「僕ね、学校に行きたいんだ」

そこでウィリアム・アイザックの手が止まった。

先ほどからこちらは見ていたが、料理を口に運ぶ手も止めた。

否、そもそも部屋に流れる雰囲気くうきが変化した。

「まぁ、今までずっとシドウ一人に任せっきりにしてたしね。色んな人と関わる機会も必要かな。ところでどんな学校に行きたいとかの目星はついてるの?」

「ミネギシ魔導学校って所」

ウィリアムは目を泳がせて、手で服を一通り整えた。

「なんて?」

「ミネギシ魔導学校っていうところに通いたい」

アランは即答した。

父さんはまた目を泳がせた。

そこに家の執事兼騎士団長のジャック・オールキラーが新しい料理を持ってきた。

「ヘイ執事ジャック!ミネギシマドウガッコウって何?」

執事は答えた。

「何を仰っているのです。旦那あなた様やお嬢様が在籍している(していた)魔術師を専門的に養成する、世界最高峰の教育研究機関のことでしょう?あ、こちらスープです。お熱いのでお気をつけて」

そう言うと執事は人数分のスープを置いてさっさと厨房へ戻った。

気まずい空気の中アランは聞いた。

「父さん魔術師だったの?姉さんも?」

ウィリアムの目が泳いだ。過去最高に泳いだ。もう信じられないぐらい泳いだ。

「・・・s「えぇ、そうよごめんね今まで黙ってて。父さんが“言うな”ってしつこくて。あぁ~!!せいせいした!今までずぅ~~~~~っと隠し事してたのホントしんどかったんだもん」フラムしゃん!?」

フラムの不意の告解ばくろにウィリアム・アイザックはあからさまに動揺した。

そして味方がいなくなったなさけない男ウィリアムは語り始めた。

「そうだよ。アイザック家うちは二千年以上続く魔術師の家系だ。それこそ魔術この業界じゃそこそこの知名度はある。あとついでにいうとアランは私の子じゃない」


そう言うとウィリアムはフォークを持ってサラダの続きを食べ始めた。

アラン達も目の前の料理を食べ始めようとしたがちょっと待て

「「え!!!!!!!僕(アラン)」この家の子じゃないの?!」

そう言って姉弟きょうだい(ではないとたった今判明した)二人はスープの中に入っていたブロッコリーを妻に押し付けようとするおっさんを見た。

「うん」

「母さんも知ってたの?」

フラムの質問に熱々のブロッコリーを押し返す母は答えた。

「うん。私、二人目を産んだ覚えないもの。あ、勘違いしないでアランもかわいい私の子だと思ってるわ。アランもそうでしょ?私のことお母さんって思ってるわよね?」

そう言うとブロッコリーを二人の父親(?)の口にねじ込んだ。

「え、えぇ~っと?」

二人が顔を見合わせているとブロッコリーを飲み込み渋い顔をしている父親(?)は話し始めた。

「父さんな。昔、冒険者をしていたんだ。この街の迷宮でな、その時の仲間がアランの両親だよ。二人は他の仲間おれたちを守るために戦ってそのまま・・・別に珍しい話じゃなかったさ。当時あの迷宮はまだまだ未踏破のエリアも多く、死傷する冒険者も山のようにいた。だからなんだって話なんだがな。あーつまりだ。アランにはすっごくカッコイイ両親がいたんだってことだな」

黙る姉弟ふたりにウィリアムは続けた。

「言っておくが、私もアランのことは大事に思ってるし、ここはいつまでもおまえが返って来れる家だぞ!この話をしたのは、アランが自分の人生を自分で決められる一人前になったから話したんだ。・・・ところでアラン、魔術師になるに際して一つ言いたいことがあるんだが」

最後、ゴニョゴニョと言いよどむ父にアランは聞いた。

「なぁに?」

「お前の杖を私が作っても良いだろうか?いや、深い意味はないんだが。本当に!ないんだが!」

「ごめん。もう持ってる。あと魔導書も」

「独学でそこまで(うちの子もしかして天才)?」

「あ、ちが(でも師匠のことは話さないでっていわれてるし・・・)」


そこで母が手を一つ叩いた。

「はい!そこまで!アランが天才なのはいつものことでしょう?今はそんなことよりご飯を食べましょう。ジャックも次の料理を持って待ってるわ」

厨房に続く扉を見ると、ジャック・オールキラーはこちらを見ていた。


それからは話に華が咲いた。

父さんの昔のこと、アランの生みの親たちのこと、迷宮のこと、魔術師のこと。

ずっと楽しい話が続いて、一段落着いたときにはもうデザートであった。

入学などの詳しい話は明日する約束をして、アラン達は部屋に戻った。

その日はフラムはアランの部屋に来なかった。


幕間.小話

ある父親の夜:

「それじゃあ明日ね」

「うん。おやすみ」

三人を見送るとウィリアム・アイザックは自分の席に座りなおした。

「クロノ。ヒイリ。お前たちの子は立派に育ったぞ」

天を見てかつての仲間ともを思い返すと手元に紅茶が運ばれた。

「おう。ありがとう」

傍らのジャック・オールキラーに礼を言うとウィリアムは一口飲んだ。

ウィリアムの好きな銘柄だ。

「遂に話したようだな」

ここには二人しかいないので、砕けた調子で話している。

「あぁ、そうだな」

ウィリアムはそのことを深く噛みしめた。その傍らでジャックは苦笑する。

「お前が、坊ちゃんを連れてきた時は驚いたよ」

ウィリアムもつられて苦笑いをした。

当時の騒動を思い出すと今でも奇跡に近い成功確率だったと思う。

正直あれの再現は不可能と言わざるを得ない。

「あの時はありがとう」

「例には及ばん」

そうしてウィリアム達の夜は更けていく。


8.アイザック家本邸・正門

入学に必要な書類を作り終えた後、アラン達はウィリアムの言うままに鉄道に乗せられ一日かけてここまで来た。

「ここって・・・」

アランは傍らでげんなりとしている姉に聞いた。

この数日、姉からの過剰なスキンシップはなりを潜めていた。

「アイザック家本邸。バカみたいにデカいだけが取り柄のウチの家の一つよ(来たくなかったなぁ)」

「“デカいだけ”ではないぞ。フラムよ」

そう言ってやけに甲高い声が後ろからした。


声のした方を振り返ると筋骨隆々な大男が立っていた。

「おかえり、我が孫よ。あと息子と義理娘むすめと・・・うん」

そう言うと大男は四人の間を通りすぎた。

それに反応したのはフラムだった。

「アランになにかないわけ?爺さん」

爺さんと呼ばれた大男はこちらを振り返らずに返した。

「いや、だって初対面だもん。お前達はどう思ってるか知らないけど、わしの血も引いてないし他人じゃん。初対面の他人への反応としては適切な距離だと思うけど(魔術師としても特に見るべき所もなさそうだし)?」


幕間.ワンポイント案内

アイザック家について:

二千年以上の歴史を持ち、七つの傘下家系を有する魔術師の名門一族。

実力至上主義を掲げ、中枢の政治闘争とは一歩引いた姿勢を見せているが、その影響力は計り知れない。

八百書房刊『中枢を担う魔術師の名門:アイザック家編』


9.アイザック家本邸・大倉庫

アランは父さんに連れられ、姉と共に大きな蔵にやってきた。

そこは古びているが、しっかりとした造りになっており、それ自体が永い年月を感じさせた。 

「ここは?」

アランの問いに父さんは答えた。

「アイザック家の歴代当主達が残した魔術の保管されてる大倉庫さ。ここで、学校生活に必要な魔術ものを見繕おうかと思って」

そんな服を新調するためにデパートに行く感覚でウィリアム・アイザックは倉庫の扉を開けた。

そこには無数の本や巻物、中には粘土板などもあった。

「これって」

アランの疑問に父親は答える。

秘積ひせきと言ってね。魔導書の内容を形に残したものだよ。ま、継承の機能のみを有する魔導書みたいな物だと思えば良いよ。さて、この中からアランにぴったりの魔術を選ぼうか」


幕間.小話

ある騎士の覚悟:

本邸からウィリアム達が帰ってきてしばらくした頃。

ある騎士がウィリアムの執務室にやってきた。

騎士の名はクルネ・オールキラー。

アイザック家に仕える傘下家系の筆頭、オールキラー家の跡取り娘である。

その眼前には彼女が仕えているアイザック家当代当主であるウィリアム・アイザックがいた。

ウィリアムは落ち着いた様子で騎士に語りかける。

「さて、クルネ君私に用があるそうだけど何かな?」

騎士は覚悟の籠った眼をして言った。

「はい。アラン様ぼっちゃんが魔術師になられるとのことですので、私をアラン様の近侍バトラーにして頂きたく存じます。つきましては現在の職を辞させていただきたく」

ウィリアムは頭を抱えた。

「・・・言ってることの意味は理解しわかってる?」

「はい。責めは覚悟のうえでございます」

そこでウィリアムは戸惑ったような表情を浮かべた。

「いや、別にそれは良いよ。いつかは来るだろうなと思ってたし、そうじゃなくてさ。これからどうするのって話」

クルネ・オールキラーは一切の淀みなく答える。

「はい。アラン様の近侍として、同じく学校に「それは無理だよ」

ウィリアムはクルネの言葉を遮って話した。

「何故です?」

ある意味当然の質問を返す。

するとウィリアムは手元にある紙を出した。

それはミネギシ魔導学校の入学試験に関する紙だった。

「ほらここ、“募集条件は国際魔術協会が定める初士ポーンの資格者かそれ以下の魔術師に限る”ってあるよ。クルネ君さ、太士ビショップだよね?初士ポーンの三つ上の階級だよね?」

ここで初めてクルネに動揺が見られた。

クルネは大きく机を叩いた。

「行きます!あの学園にも太士ビショップはいるはずです!そこで何とか!」

「教授!あの学園でその資格持ってるのって教授レベル!というかここでごねてもどうにもならない!」

クルネは口をパクパクし始めた。

「じゃ、じゃあどうすれば・・・」

「(昔っからアランのことが絡むと周りが見えなくなるよねこの娘)・・・アランの卒業まで辞職は待てば?とりあえず近侍バトラーの件は本人アランも交えて話そうか」


幕間.魔術紹介

『私の手刀はメスより鋭い』:

系統・身体強化

難度・簡易魔術

内容・肩~手首領域の硬度・神経伝達速度を強化(練度によって魔力消費効率上昇)

魔導書の解放必要なし。

消費した魔力の累計で練度向上。向上することで魔力の消費効率上昇。

また練度3以上で首筋に手刀を当てることで相手を気絶させる概念獲得。

練度5以上で継承可能・練度10以上で派生魔術作成可能


10.ウィリアム自治区・駅ホーム

そこには春真っ盛りだとは思えない程の厚着をさせられたアランと彼の見送りに来た家族たちがいた。

「切符良し!荷物良し!服装良し!」

そう言ったのは彼の母である、ヤーガ・アイザックであった。

「暑いよ母さん」

アランはそう言って服を脱ごうとしたが母は止めた。

「ダメよ。荷物が増えるデショ」

「荷物はお持ちしますよ」

ヤーガにそう言ったのは、この度、アランの近侍バトラーになった。クルネ・オールキラーだった。

「ダメよクルネちゃん。甘やかしちゃ。アランのためにならないわ」

「・・・そうですか(しょんぼり)」

そんな二人を完全に無視して一番泣いていたのはこれまでアランの教育係であったシドウ・サカキだ。

「坊ちゃまぁぁぁ!必ず帰ってきてくださいね!待ってますからね!!!」

「うん。必ず」

「アラン。お姉ちゃんも忘れないでね!」

「うん。学校ではよろしくね。先輩!」

「うん(好き!!!!!!!!!!)」

そんなやり取りを繰り返していた三人をある男が包み込んだ。

「アラン。行ってらっしゃい。ケガとか病気にはなるなよ」

「・・・・・うん。父さんもね」

そして時間が来た。

「・・・・・そろそろ行くね。休暇ができたら必ず帰ってくるから!」


そしてアランは汽車に乗った。

これからの少年の道を祝福するように高らかに汽笛が鳴った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る