第7話そして少年は次へと進む中編
しばらくたった後
4.アイザック邸・庭園
アランはいくつかの魔力操作で行える基礎的な技を教わった。
今は純粋な魔力操作の修行と並行して、それらの修行も(自主的に)行っている。
そんなアランの横に師匠は現れた。
この何日かで師匠から発音の違和感は消えた。
「や!頑張ってるね少年!」
最近知ったことだが、師匠は『気配隠し』の魔術を段階に分けて発動することができるらしい。
今は師匠を知っている人にのみ認識できる状態だそうだ。
「はい」
アランは返事をする。
「そんな少年に私から
混乱するアランを前にしながら師匠は続ける。
「前に話した“お祝いの品”ダヨ」
そう言って腰から筒のようなものを出してアランに渡した。
「これは?」
「開けてミて」
筒を開けると中には手首から肘までの長さほどの木の棒が入っていた。
「これは?」
重ねてアランは聞いた。
「この世界で最も有名な魔術の補助装置“
アランは驚いた。
「作、ったんですか?これ」
師匠は軽い調子で頷く。
「そうだよ。今の魔術師がどうかは知らないけれど、本来
アランは唾を呑んだ。
「意味」
「そう、これを“与える・受け取る”っていう行為は(魔術的に)正式な師弟関係の成立を意味する」
師匠がそう告げると杖が浮き、師匠の手に戻った。師匠の声の雰囲気が変わる。
「問おう。君は私の弟子になってくれるかい?」
アランは困惑し、そして即答した。
「元からそうだと思ってたんですけど」
しばしの沈黙が両者に流れた。
「(やばい、何かしらの作法とかあったのか?)」
あたふたするアランを見てか、はたまた別の理由か。
師匠は声高らかに笑った。
「ひゃっはは。あぁ確かにそうだ。そうだった」
そう言って笑いながら杖がアランの前に来た。
アランはそれを両手で受け取った。
「じゃ。次の段階に移ろうか。その杖のちょうど右手のあたりに紋様があるだろ?そこに魔力を流しながら『契約』って唱えてみて」
「ケイ約」
「違うよ『契約』」
「・・・『契約』」
すると杖からアランの体にナニカが流れ込んできたような気がした。
「よし!これで杖との契約も完了したね!」
「えっと?」
「・・・『やべ』ごめん説明してなかった。今のは盗難防止とかの意味がある魔術ダヨ。これをやらないとただの棒きれだからね。どう?さっきまでとその杖の印象違うでショ?」
「言われてみれば」
「杖と契約したからね。もうその杖は
「はい!」
師匠の言葉にアランは心の底からの返事をする。
幕間.中話
ある回想にて
ある少女は自らの近侍とカードゲームをしている。
いや、していたと言う方が正しいか。
その少女、フラム・アイザックは胸についた脂肪を机の上に乗せるとそこに顔を突っ伏した。
「つまんなぁい」
目の前に遊び相手がいるにも関わらずこの言い草である。
「弟君ですか?」
自らの近侍の発言に少女は顔を上げる。
「なぁんで遊んでくんないの!おねえちゃんせっかく帰って来たのに!」
「(私も帰りたいなぁ。休みの三分の一もう消化してるんだよなぁ)」近侍は遠い目をした。
「何か言った?」
「いーえ!別に!」
そっぽを向いた近侍の言葉に少女は返した。
「休みが欲しいなら別に帰っていいよ。私この休みはずっとここにいる
その言葉に少女の近侍は壊れた機械のように首を向けた。
「ひ「クビにはしないから安心して。実家に帰りたいんでしょう?無理させてごめんね」
半泣きの近侍は「ありがとうございます!!!」と言うと駆け足で部屋に向かう。
こういった時にも走らないのは彼女の父の教育であろうか。
少女はため息を一つすると机を見た。
「え。ロイヤルストレートフラッシュじゃん」
庭をぶらついていると弟を見つけた。
また誰かと話しているようだが姉には見えない。
障害物があるのではなく、弟が虚空に話しかけているのである。
姉は腹立たしかった。
弟がイマジナリーフレンド相手とはいえ、自分よりも楽しそうに話していることが。
しかし、あの状態の弟に話しかけると嫌な顔をされてしまう。
何をしているのか聞いても弟ははぐらかすばかりだ。
「あー疲れた」
アランはシャワーを浴びるといつものようにベッドの上の掛け布団をめくった。
もう片方の手には最近読んでいる小説がある。
これを読みながら眠りに落ちるのが最近のアランの日常である。
「や」
アランは静かに布団を戻す。
すー、と息を吸い込み大きな声を出す。
「クr「お呼びですか坊ちゃん」
アランの部屋の扉を開けて彼の騎士が(いつもより軽装で)やってきた。
「
簡潔に要件を伝えるとベッドの中にいた下手人は連行された。
「なんだよ!
フラム・アイザックは自分の部屋に送られた。
「それではお嬢様、おやすみなさいませこれから私は坊ちゃんの部屋の前で警護をしなくてはなりませんので」
その日少女は夢を見た。
久しく見ていなかった
「いや~お嬢様は優秀ですな。これならアイザック家の将来は明るいですなぁ。我ら臣下一同安心ですぞ」
(つまんない)
「お嬢様、上に立つものとしての責任というのは」
(そんなのしらない)
「ほぅ。あの方がウィリアム殿の」
「さてどのような方なのやら」
(こんなのヤダ!)
そんな中で家の使用人が話しているのを聞いた。
「ウィリアム様の?」
「だれとの子だ?」
「ウィリアム様は何も」
会ってみたかった。話してみたかった。
初めは軽い興味だった。
そしてその日は訪れた。
「さあ、アラン。おねえちゃんにご挨拶なさい」
それは小さな子どもだった。
ゆっくりゆっくり歩いてくるとしゃべった。
「はじめまちて。あらんです。おねえしゃま」
まだフラム・アイザックが三歳の時である。
フラムは思った。
(すき!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
そこからはわりとあっさりしていた。
「いや~お嬢様は相も変わらず優秀ですn(すき!!!)
「いいですかお嬢様、上にt(すき!!!!)
「まさしくフラム君はじゅ(すき!!!!!!)
会えば会うほど思いは増した。
会わなければ会わないで思いは増した。
もはや少女は弟への愛情を生み出す魔物と化した。
今なお増大し、そのペースすら増し続けていた。
「ん」
少女は目が覚ますとそのまま傍らのアラン人形を三体ほどどかしてベッドから降りた。
シャワーを浴び、髪型を整えるとそのまま食堂に向かう。
「おっはよう!アラン!」
今日も彼女はあの少年の姉である。
5.アイザック邸二階・修繕の終わったアランの部屋
その日から魔力操作の修行の一部を杖になれる時間に使い始めた。
午後、サカキからの課題が終わった後師匠はこんなことを言った。
「そろそろ、魔力操作であの感覚ガつかめるんじゃないかな?」
あの感覚とは修行二日目にアランが掴んだ“すごくイイ感じの魔力操作”のことである。
「はい、やってみます」
「今回は前と同じように目を閉じてやってみテ。ついでに杖も持ってみるといいかも」
「?わかりました?(今日はやけに具体的なアドバイスをくれるな)」
言われたとおりにアランは座り、目を閉じた。
「(こうして魔力操作だけに集中するのも久しぶりだな。えーと。手で手繰り寄せるイメージ。てで手繰り寄せるイメージ。てでた繰りよせるイメージ、手でタグり寄せる、イメージ。手出手繰り寄セルイメージ・テデタグリヨセルイメージ)」
アランの気配は徐々に
魔力は穏やかになり、小川のような印象を人間に与えた。
あるものが見れば石のようで、あるものが見れば仙人のようで、あるものが見れば若者のようだった。
アランは何かを感じた・あるいは観た。
あれはなんだ?
世界のようで・自分のような
なんだ?ナンだ?ナンダ?
意識が沈む毎にナニカを掴んだ・見た・感じた
これでなく、あれでない
そして
「(誰かを守れるような
事実のみをただ語ろう。
アラン・アイザックは
至った
6.アイザック邸2階・魔術師アラン・アイザックの部屋
目を開けると、師匠がいた。
「おかえり知ったみたいだね」
師匠はアランのすぐ近くを見ていた。
それは本のようなナニカだった。
それはアランの近くを浮遊している。
何故今まで気付かなかったのかわからない程に当たり前に存在している気がした。
「これは」
アランの疑問に師匠は答えた。
「魔導書。グリモアとも呼ばれる魔術の極意にして、所有者の魔術師としての人生の集大成だよ。そして大昔では魔術師の一人前の証にもなっているね」
「え?」
「それほどまでに魔導書を持っている者と持っていない者には隔たりがあるんだよ。得る前と後では世界の見え方が異なるだろ?それがそのまま実力差に繋がるとしたら?」
アランは納得してしまった。
師匠は続ける。
「具体的にできることを言おうか。大まかに分けて三つ蓄積・省略・補助だね」
「蓄積・省略・補助」
「そう。まず蓄積っていうのはそのままの意味だね。
「ホントだ。杖の魔術っていうページが見開きであります!」
師匠は楽しそうに続けた「使用するページの枚数はその魔術でできることの種類と魔術の難易度に応じて変わってくるから空のページ数には気をつけなよ。魔導書のページ数を増やす方法は一つしかないんだから」
「そ、それはどんな?」
「(良い反応してくれるねホント)誕生日を迎えることだね。それで両面白紙のページが一枚追加される。次に省略についての説明をしようか。魔導書に刻まれた魔術は念じるだけで発動までの手順が勝手に頭に湧いてくるようになるっていうだけの話。三つ目の補助もほとんど同じだね。魔術師本人や魔術が強化されるっていうのが魔導書の機能の全てだよ」
アランは頷いた後あることを聞くことにした。
「ちなみに師匠の魔導書って「ほい」
全て言い終わる前に師匠は魔導書を出した。
その装丁はアランの物よりもしっかりとしており、ページも豊富だった。
そして師匠は魔導書を開いた。
「大昔の魔術師の間では一人前になった弟子に魔術を一つ継承させるっていう慣習があってね。どれでも好きなの選んでいいよ」
師匠は親が子どもにプレゼントを選ぶような調子でとんでもないことを言った。
「えっと?」
「やばそうなのは魔術で隠してるし、適当にめくって選んでよ」
言葉通りにアランは魔導書をめくり始めた。
「これ。これが良いです」
アランは一つの魔術を指差した。
「『私の手刀はメスより鋭い』?ずいぶん渋いやつを選んだね。これまたどうして?」
アランは照れ臭そうに笑った。
「師匠が私を助ける時に使ってくれた魔術だから、ですかね」
「え、え~~~~(テレテレ)!!そ、そう?それならいいよぅ(テレテレ)。継承の手順はねぇ。このページに触れて末行の呪文を唱えると完了だよ」
アランは早速唱えた。
『執刀。見逃し。監視カメラ。トン。』
アランの魔導書が熱を持つと、それまで白紙だったページに魔術が書き込まれた。
「さて、魔導書を会得した少年にもう教えられることはほとんどないよ」
「え?ど、どうゆうことですかぁ」
アランはうろたえた、狼狽した。
師匠は悲しそうにそして嬉しそうに続ける。
「言ったろう?一人前だって。私にはもうこれ以上の知識は上げられない。後はその杖と魔導書で君だけの魔導を作っていってね」
そう言うと師匠は立ち上がった。
「さて、私の役割もそろそろ終わりかな?ありがとうアラン楽しかったよ。最後に一つ、もっと魔術について知りたいのなら学校に行くと言い」
涙でぐしゃぐしゃになった顔でアランは見上げた。
「学校?」
師匠は悲しそうな顔をした。「な、泣くなよぉ。うんそうだよ。魔術師達が魔術について学ぶ学校『ミネギシ魔導学校』ってところなんだけど」
「魔導、学校」
師匠は半分泣き声に近くなった状態でそれでもなお続けた。
「色んな魔術師と出会うことは君にとっても悪いことではないとは思うけど」
「行く!行きます!行ってみます!そ、それで、師匠。また。会えますよね?」
師匠は去り際にこう言い残した。
「もっちろん!君が世界を広げれば必ずどこかでまた会えるって!」
そうして師匠は見えなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます