第3話新参者と古参者

「わたシ、『魔法使い』ちがう。『魔術師』。それでもいイなら弟子イいよ」

そう言ってその人間は笑った。

1,アランの中に歓喜と混乱とその他にも説明しがたい大小さまざまな感情が飛来した。

「あ、あの本当に弟子にしていただけるんですか?まだ何もあなたにお見せしていないですけど!弟子入りって、こう、何というか、その、あるじゃないですか」

そんな状態のアランの口から最初に出たのはそんな台詞だった。

アランは自分が口にしてしまった言葉の意味を目の前の人間よりも遅れて理解した。

そんなアランを見て人間はまた笑った。

「別ニいイよ。魔術に興味持ってもらえてるならトっても嬉しイし。そういうコは積極的に教えていコうッてのが私の方針だしネ」

「ありがとうございます!師匠!」なぜ感謝の言葉が出たのかアラン自身にも理解できないが、とにかく口をついて出てしまった。

人間はゆっくりとこちらに歩み寄ってくると、これまたゆっくりと手を出して握手を求めるような形になった。

「こレからよ・ろ・し・ク」

「はい!」アランもその手を両手で握った。

人間はそのときわずかに目を見開いた。

「?どうかしましたか師匠?」

師匠はゆっくりと口を開いた。

「驚イた。きミ素質あルよ」

「へ?」一瞬何を言われたのか理解できなかった。

何かを補足するように師匠は続けた。興奮しているのか目を見開き、アランにはよくわからない外国の言葉を話し始めた。手を握る力も心なしか強くなっているような気がした。

『これは先天的なものかな?・・・・・うん!全身の筋肉の付き具合からしても、たぶん魔術の訓練は受けていないとみるべきだろう。だとしたら面白いな。人類は遂にその段階までの変異をしたということか。いや、この場合進化というべきか?』

師匠は自分がアランにはわからない外国の言葉を使っていることに気づくのと、強い力で手を握られたアランが苦悶の声を上げるのはほとんど同時だった。

「ご、ゴめんネ。ついちからヲ入れすぎテシまっタね」

そう言って師匠は手を離した。

「い、いえ大丈夫です。それよりも僕に素質があるっていうのは?」

師匠はまたベンチに腰掛けると、アランにも隣に座るようにジェスチャーで示した。

アランが座ると、師匠はゆっくりと話し始めた。

「きみ。微弱ではあるけど、既に魔力を持ってるね。すごいことだ。本来なら魔力それを手に入れるだけでも血のにじむようなどりょくを何年もするのだよ。おそらくだけど、きのうのあの怪物・・・オークというのだけど、あいつがきみたちをみて吠えたのはそれも理由のひとつだと思う。・・・勘違いしないでほしいのだけれど、君に魔力がなくても、あいつは君たちにおそいかかっただろうし、あの場に君がいなければあの少女はま違いなく死んでいたとおもう」

ゆっくりと、丁寧に、師匠は説明してくれた。

「・・・そうですか」アランの口から出せたのはそれだけだった。

あまりにもとんでもないことで頭の処理が追い付かなかった。

師匠も何やら考え込んでいた。

そして口を開いた。

「さテ、それじゃア、修行ヲ始めていこうか。イツからにすル?」

今からが良い。アランはそう呟いた。

もしもこの機会を逃せば次に師匠に会えるのはいつになるかわからなかった。

無意識に伝えていたのか、はたまた察してくれたのかはわからないが師匠はうなづいた。その後にベンチから立ち上がると大きく左手を反時計回りにゆっくりと振った。

「よシ!それジャあさっそくしゅぎょうヲはじめようカ」

どんな修行なのだろうかとアランは身構えた。

「まず、さいしょのしゅぎょウは題して!(口頭ドラムロール) “魔力まりょくの自覚をしよう!”ダヨ!」

「・・・ぐたいてきニは」

思ったよりもアランの反応が薄かったせいか師匠のテンションが少し下がった。

「まず、私の魔力できみをつかむね。それで魔力っていうそんざいを感覚的にで良いかラつかんでネ!なにかしつもんある?」

とんでもなくざっくりとした説明にアランは思わず大きな声が出てしまった。

「あ、あの!その ‘魔力’って何ですか?」

一瞬師匠はきょとんとした

そう言ってその人間は笑った。

「あア。その説明がマだだったネ。魔力っていうのは私たち魔術師ガ体内で生成するエネルギーのことだよ。魔術というツールを使うための燃料とも言えるね」

「それでその“魔力でつかむ”ってどうやるんですか!?」

師匠はこちらを見ながら、しかしベンチに座ったアランには一歩も近づくことなく右手だけをこちらに向けた。

その形はコップを取っ手を使わずに直接持つときの手に似ていた。

「?こうやって」

次の瞬間締め付けるような強い力が二の腕から腰のあたりにかけて出現した。

「!!!」一瞬アランの体は息をすることもその仕方も忘れてしまった。

師匠が話し始めるのとアランの体が呼吸を思い出すのはほとんど同時だった。

「念力。魔術師ガ魔力を用いて行う基礎的な技の一ツだよ。安心しテ、君のからダには悪影響ガ出ナいように頑張るかラ。きみはそのちからノ流れにだけ集中しテね」

そう言うと師匠は微笑んだ。

アランも苦しみの中静かに目を閉じた。

強い力。自分を外側から圧迫するような。それでいてどこか包み込むような。そんな不思議な力だった。

「(あれ?)」

アランは何かに気が付いた。

否。ナニカの流れに気が付いた。

それは小川の流れのようにわずかで、人の流れのように大雑把だった。

そんな流れがアランを包み込んでいた。

「(いや!いやいや。それだけじゃない! “私の中にも同じものがある!” )」

アランは自分の中にあった“ソレ”をそのまま自分の外にある流れにぶつけると、外の流れが霧散するのを感じた。

目を開けても、ナニカの流れを感じるということが自分の勘違いではないことを示していた。

師匠は動揺したような顔をこちらに向けると、しばらくして我に返ってゆっくりと言葉を紡いだ。

「おめでとう。第一段階“ 魔力まりょくの自覚をしよう!”クリアーダヨ。本当におめでとう」

そういうと師匠は軽く手を叩いた。


幕間.ワンポイント案内

魔法使いについて:

魔法使いについてお教えします

魔法使いというのは魔歴00年にこの世界に降臨なされた女神様から魔力を賜った存在やその血を引く者と辞書に書いてありました

つまり才能がすべての世界ってことですね。

検索サイト『ヨッフ掲示板の書き込みベストアンサー』より


2.ウィリアム自治区・市街地

そこには超高速で動く二つの人型の物体があった。

一つはクルネ・オールキラー。

ウィリアム自治区内部の騎士隊の隊長であり、アイザック家騎士隊全体の中でも上から二番目の地位である。支部隊長の地位にいる女性だった。

もう一つはシドウ・サカキ。

アラン・アイザックの世話係であり、家庭教師も務めている男だ。

二人の体は自身の魔術によってすでに車の法定速度を超えていた。

そんな人外の片割れである。シドウはクルネに声をかけた。

「少し休んだらどうだ?私たち以外にも探している騎士は大勢いる!もう探し始めて三時間以上たつ!その間君はずっと走り続けている!この速度で!ずっとだ!いい加減にしないと魔力が尽きるぞ!(いや、それ以前にもう意識が持たないだろ)」

するとクルネはこちらを向かず、速度も変えずに口を開いた。

「元はと言えば、おまえが坊ちゃんから目を離したのが原因だろ?昨日のことから何も学んでいないのか?お前は?!昔からそうだよお前は。いいか?!もしも坊ちゃんの身に何かあったら!私は!!!・・・お前を殺す。ご当主様ウィリアムさまがお前を許そうが!心優しい坊ちゃんがお前を許そうが!地獄の底まで追いかけて必ず貴様テメェを殺す!二度と生まれ変わることすら許さねぇ」

そう言ってシドウに殺意を向けながら、しかし速度は変えずに走った。

「ゥす(怖ぇぇぇえええ。怖ぇよぅ。昔っからこれだよこの人。一個上だぜ俺!いや、もうそういうの気にする年でもないけどさぁ。坊ちゃまの前だと大人しくなるけど、この人やっぱ怖いよぉう。坊ちゃま~!早く出てきてぇ~。皆このバーサーカーに殺されるぅ!)」


幕間.小話

バレンタインデー大作戦:2月14日・バレンタインデー。

それは乙女にとって決戦の日(だったらいいなぁ)!!

アイザック領では乙女が日頃親しい者にプレゼントを渡す日である!

この日、一人のバーサーカーもまた日頃世話になっているアラン・アイザックに感謝の意を伝えるべく歩みを進めていた。

「あ!クルネくぅん。この資料なんだけど。いや、やっぱ何でもないっす。マジすいません」

話しかけようとした男。ウィリアム・アイザックはすぐ近くを通った騎士に尋ねた。

「何かぁ。クルネさん怖くない?なんていうかこう。笑顔だったよ?今日も素敵な笑顔だったんだよ?なのにさぁ。一瞬喉元に刃付きたてられたみたいな感じしたのよ。何かあった?」

その騎士は答えた。

「バレンタインですからねぇ」

「バレンタインで怖くなるの?!うちの騎士大丈夫?!それを召し抱えてる私の身柄大丈夫?!」

「まぁ。諦めるしかないっすよ。それで、支部隊長に何かありましたか?」

「あぁ、この書類不備があるんだけど。ほら、こことここ」

「あぁ、それでしたら担当の部署に渡しておきます」

「お願いね」

バーサーカーは鼻歌を歌いながら、手に持っている小包を大事そうに見た。

「(ふふ、つい奮発してしまった。変な女だと思われないだろうか。というか坊ちゃんは私のことを覚えているのだろうか?何せ一緒に遊んだのはもう十七年以上も前なんだ。いや!歩みを止めるな私!もし忘れられていたとしてもまた始めればいいんだ!)」

「うわぁ!クルネ支部隊長の肩にぶつかったジョロキアの奴が瀕死だ!医療班メディック医療班メディックを呼んでくれ!」

「馬鹿野郎!バレンタインデーの時の支部隊長に触るな!あれはもう人の形した災害だ!」

「(あ!坊ちゃんだぁ!)」

そう思って先ほど歩く災害呼ばわりされたバーサーカーは屋内だというのに駆け出した。

すると、通路の角から見知った顔が現れた。

「お、クルネじゃん!珍しいね屋敷で会うなんてってってぐはふ!おい!ぶつかったぞ!なんか言えよ!」

クルネは鬼神が如き形相でシドウの方を向いた。

「あぁ?!」

「調子こきました!マジすいませんでした!」

クルネがアランの方を向くとすでにそこには誰もいなかった。

その数十分後。

なぜか頭蓋骨が陥没したシドウ・サカキが発見され、ウィリアム・アイザックに治療を受けた。

幸いにも後遺症は残らなかった。

騎士隊はこれを事故と判断した。

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