第2話その始まりは果たして幸福か

「良く頑張ったな少年!良くぞ耐えた。後は大人わたしに任せな」

1:そう言った東洋人の大人は緑の怪物とアラン達の間に立つと何かの言葉を発した(外国の言葉だろうか?)。

『私の手刀はメスより鋭い』

東洋人はそう言って自分の右手を下から上に振り上げると、次の瞬間怪物の右手が吹き飛んだ。

『ギギャァァァぁぁぁぁ~!!!!』

怒り狂ったのか緑の怪物はその口からも傷口からもあるいは全身の穴から体液をまき散らすと、数秒の後に落ち着きを取り戻し、冷静に(もっとも怪物に理性があるのかは謎だが)目の前の脅威を見つめた。

すると、東洋人は左手で相手を制するような形をとると、先ほどと同じく異国の言葉を発した。

『待て、話せばわかる』

『グギャァァァぁぁぁ!』

『話せばわかる!』

『ギャァァァ!』

『駄ぁ目だこれ。話通じねぇや』

次の瞬間東洋人は右手を垂直に振り下ろすと怪物の体は正中線せいちゅうせん(そんなものがあるかは謎だが)から、左右に分かれた

鮮血の飛び散る道路の上でアランは静かに意識を失った。


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緑の怪物:

正式名称をオーク(ゴブリン種の上位種)

人型で高い知能を持つ。

人と対話した。冒険者(迷宮の探索を生業とする者たちの総称)から奪った武器を使用した。という目撃情報は探せばキリがない程に確認されている。

主食は驚くべきことに迷宮に自生しているコケなどであるが人間や家畜なども好んで食べる雑食性の怪物。

他のゴブリン種と同様に群れで集落コロニーを形成する習性を持つ。

オークのコロニーの近辺は不自然に他の怪物や、自生する植物が減少しているので注意されたし

八百書房刊『おそるべき魔物の生態図鑑:ゴブリン編』より


2:目が覚めるとそこには何人かのローブを纏った人物とアランを抱きかかえていたシドウ・サカキがこちらを見ていた。

シドウの目には涙が溜まっており、今にも泣きだしそうだった。

「坊ちゃまぁ~~~!!!気がついてよかったです~~~~!!!」

「だ・か・ら!意識を失っているだけだって何度も説明しましたよね!」

そう言ってシドウをアランから引きはがそうとしている人物にアランは見覚えがあった。

確か「・・・クルネさん?」

そう言うとその女性はこちらを向いた。

「覚えておいででしたか。はい。アイザック家にお仕えしております。騎士隊支部隊長のクルネ・オールキラーと申します坊ちゃん」

そう言って、クルネはアランに微笑みかけた。

その表情は美しかったが、同時に恐ろしさも感じた。

その理由はすぐに解った。

「それはそうと坊ちゃん。なぜここにいらっしゃるのですか?避難所から遠く離れたこ・こ・に!」

そこからお説教が始まった。

「子どもを助けようとした?お言葉ですがね坊ちゃん。それは我々騎士隊の仕事です。そして坊ちゃんも子どもです!」

「そもそも、なぜ誰にも行き先を伝えなかったんです?言ってくだされば護衛の一人も付けましたよ!ご自分の身に何かあったらどうなるか考えましたか?」

お説教を受けて、身を小さくしているアランを気の毒に思ったのかシドウが助け舟を出した。

「そ、その辺でいいんじゃないですかね?坊ちゃまも反省しているようですし」

「そもそもの発端はあなたですよサカキ!なぜ坊ちゃんから目を離したんですか?!」

しかし、サカキの出した助け舟は大艦巨砲が如きクルネにあっさりと沈められてしまった。

お説教はそれからしばらく続いた。


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クルネ・オールキラー:

オールキラー家の当代当主の長女

22歳(魔歴2037年:入隊当時)

身長:172cm

体重:(何者かによって黒く塗りつぶされている)

血液型:A型

2037年にアイザック家騎士学校を主席で卒業(座学2位・体術1位・医学1位・語学4位・魔術3位)

出身:アイザック領・穀倉地帯の出身(出生時の身体データについては別紙参照)

2039年に先代の3番支部隊長並びに複数名の分隊長の連名での推薦によって異例の速さで3番支部隊長兼に就任した。

『アイザック家騎士隊隊員目録』より


3.クルネ・オールキラーはアラン・アイザック(ともう一人)を家まで送り届けると、露店通りにやってきていた。

普段は人で賑わうその通りも現在はアイザック家の騎士たちの足音と話し声が聞こえるばかりだ。

クルネは大きな肉塊の近くに足を進めると、検証している検証している騎士に声をかけた。

「何かわかったか?」

周囲にいた騎士はこちらを見ずに返事を返す。

「血液検査の結果、この肉の塊はオーク、それも群れの中でもかなり高い地位にいるオスだと考えられます」

「その根拠ですが、このオーク、かなり筋肉の密度が高いです。向こうの迷宮のオーク達の強さの平均を考えますと、この予想はまず間違いないかと。ところで、このオークって誰が倒したんでしたっけ?」

「確か、坊ちゃんを発見したのは第二分隊のジョロキア・DONドペッツドンドペッツという男だったはずだがそいつが来た時にはすでにこの状態だったそうだが、あの男ではないだろうな」

騎士はクルネを見ると質問する。

「?何故です?」

「騎士隊の中にオークをこんな風に切断する奴がいるとは思えん。まぁ第一の連中は別にするがな。何故って非効率的だ。わざわざ筋肉の大きく、皮膚も硬いオークを骨ごと切るぐらいならその分の魔力リソースを別のことに割いた方が負担が少ない。騎士隊で習う初歩の初歩だ」

「つまり『これ』をやったやつはその問題を考えないバカか、そんな問題を考慮に入れる必要のない程の実力者のどちらかということですかね?」

「まぁそうなるな」


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アイザック家について:

魔術の名門一族であり、新興連合国の名士でもある。

国内外にかなりの影響力と私有財産を保有している。

その資産は総額で数兆セキ(セキは一般的な国際通貨の単位)ともいわれているが真相は定かではない。

また私設の軍隊として『アイザック家騎士隊』を保有している。

八百書房刊『世界長者名鑑』より


4. 昨日あんなことがあったせいか街の人気ひとけはいつもより少なめだった。

通りにはにぎやかな話し声よりも騎士たちの装備がこすれあう物々しい音が響いていた。

「いたか?!」「いや!こっちにはいなかった!」

あるいは騎士たちが動いているのは別の理由かもしれない。

原因であるアラン・アイザックは息を殺して路地裏に潜んでいた。

昨日あんなことがあったからか、アランは街に出るなと騎士からもサカキからも言われていたのに、家を抜け出した。

あんなことがあった後の街を見てみたかったからだ。

もちろんそれが許されない行為であることはアラン自身も理解している。

しかし、この衝動がどうしても抑えられなかった。

そうして今に至る。

街は自分を探し回っている騎士たち(声の端々に殺意を感じる)以外はほとんどおらず、露店通りも閑散としていた。

逃げるようにしながら街を歩いているとあの公園に人影を見つけた。

それは中肉中背の白髪で中性的な体付きを黒の長袖の衣服で全身を包んでいた東洋人だった。

思わずアランは声をかけた。「あ、あの!昨日はありがとうございました!」

すると東洋人はこちらに気が付いたのか軽く会釈をした。

アランはもうわけがわからなくなってこんなことを口にしてしまった。

「あの!あなたは『魔法使い』ですか?」

驚いたような目を東洋人はした。その後苦笑いを浮かべた。ひょっとしたら子供のおかしな発言だと思ったのかもしれない。

アランは、もう気が動転していて、さらに言葉を続けてしまった。

「あの!弟子にしてもらえませんか?!あなたみたいになりたいんです!」

東洋人はものすっごく複雑な顔をした後、口を開けた。

「わたシ、『魔法使い』ちがう。『魔術師』。それでもいイなら弟子イいよ」

そう言ってその人間は笑った。


あとがき:前回の話からかなり期間が開いてしまったにも関わらずこの話を読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。

ところで作者メッセージってどちらに書けばよいんですかね?

どなたか教えてくださると助かります(今世紀最大の厚かましい発言)

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