第十五話 氷隕石

「はぁ……はぁ……、正直危なかった。一撃で一万近くのMP消費したのなんて初めてだよ」

 頬を流れる汗を拭って呼吸を整える。辺りを見回すが、シルバーウルフの気配も無くなっている。

「ふぅ……終わった……。一応この古代遺物は壊してと、早くカノンを起こさなくちゃ」

 戦闘の余波でも壊れなかった紅玉の古代遺物を念のため踏み壊し、カノンが捕らわれている牢へ向かう。

 扉の外側にも紅玉の古代遺物が付いていて、それも黒薔薇の剣を使って壊す。そのまま牢の扉まで斬り刻み、中に入る。

「カノン! カノン起きて!! 」

 カノンの手足を縛っている縄をほどきながら必死に呼びかける。

「んぅ……ん? ……アル? 」

「あぁ良かった……! そうだよ! アルだよカノン!! 」

 思わず目じりに雫が浮かぶ。今にも感情の器が決壊しそうなのに、カノンが笑いかけてくる。

「アル……助けに来てくれたんだ。ありがとう」

「そんなの当たり前でしょ! すっごく心配したんだからね! 」

 涙をこらえてカノンを力いっぱいに抱きしめる。その体は今まで地面に横たわっていたとは思えないほど暖かかった。

「うん。アルなら助けてくれるって信じてたよ」

「もう、助けられなかったらどうするつもりだったの? 」

「そんなことあるの? 」

「……ないけど」

 カノンが悪戯な笑みを向けてくる。くっ、可愛い。

「それよりさ」

「ん? どうしたの? 」

「この音、何? 」

「音? 」

 耳を澄ますと、地鳴りのような音が確かに聞こえてきた。今までカノンを助けるので必死だったからか全然気づかなかったけれど、結構大きい音だ。

「……って、そういえば! 」

 声を上げ、バッと上を見上げる。

 黒薔薇の剣で洞窟の天井に穴が開いている。しかしそこから太陽光は入って来てなく、その代わり巨大な隕石が落ちてきていた。

「あの隕石どうにかしないと! 」

「……え? 隕石? 」

 カノンが不思議そうに目を点にしたと思ったら、すぐに真剣味を帯びた顔つきに変わった。

「ね、ねぇアル」

「どうしたのカノン、何かいい案思いついた!? 」

「い、いや、そういうわけじゃないんだけどさ、その……隕石ってどういう色してる? 」

「え? 色? 」

 質問の意図がよくわからないけれど、とりあえずゆっくり落ちてくる隕石をよく見てみる。

「えーっと、ちょっと透明っぽいね。でも、完全ってわけじゃなくて白っぽくもあるかな? 太陽に反射してちょっとキラキラしてるようにも見えるかも。あれほんとに何なのかなぁ? カノン、あれが何か知ってる? 」

 普通はもっと石っぽい色をしてると思うけれど、この隕石はどっちかって言うと水晶っぽい。

聞くと、カノンが途端に目を泳がせて挙動不審になった。

「カノン? 」

 落ち着かない様子のカノンを覗き込むようにして目を合わせる。カノンの目が逃げ場を失った小動物のような目になった。

「えっと、あの、ね? 多分なんだけどその隕石、私が昨日アルに見せたいって言ってたやつ……だと思う」

「・・・、ええぇぇぇぇぇぇぇええええ!!?」

 さすがにびっくりだった。まさか昨日カノンが言ってたものが隕石なんてどう予想しても絶対当たらない。

「って、あれを見せたいってことはじゃあ、あれはカノンが何かして落ちてきてるってこと? 」

「うん。あれは氷属性超級魔法『氷隕石アイスメテオ』。私が創り出した魔法だよ。いっぱい勉強して初めて創った魔法だったから、一番にアルに見て欲しくて。本当は対処法をアルと一緒に考えてから使おうと思ってたんだけど、無意識に発動してたみたい」

 さらにびっくりだ。カノンが自力で創り出した魔法があの隕石だなんて。アルのように魔法創作みたいなスキルがあるならまだしも、そういうスキルが無くても創り出せるとは、可愛いうえに天才だなんて、無敵すぎる。しかし、

「ん? あれを無意識に発動って、結構ヤバくない? 」

「うん。超やばい。しかも、対処法も無い」

ただのおっちょこちょいなのかもしれない。さらに属性盛ってきた。可愛いかよ。

「って、そうじゃなくて! いや、そうなんだけど! こ、このままじゃこの国、いやこの世界が終わっちゃうよ!? ど、どうしよう!? 」

「どうしようアル……私のせいで、皆が……」

珍しくカノンの顔が本気で曇っている。

確かに自分がしたことで周りを巻き込んでしまっているのは確かだけれど、こんな時でも他人を気にするなんて。

「そういえば、出会った時もそうだったね。そうやって、自分のことより他人のこと心配して──」

 相変わらず、心が優しい子だ。

「よーっし! それじゃあ私が一肌脱ごうか! 」

この子のために何かをできるのなら、何時何時いくらでも手を差し伸べてあげよう。

「さて、何ができそう? あれはカノンが使用した氷魔法。有効打は、クロとシロは斬ったとしても半分に斬れるだけで、そのまま半分の状態で落ちてくるから無し。魔法反射も反射する魔法の使用者に返すスキルだから、カノンに返っちゃうので無し。やっぱり新しく創らなくちゃダメかぁ」

ブツブツ呟きながら、空中に表示したタブレット画面を手慣れた手つきで素早く操作し始める。

「あれはカノンが創った魔法で、氷属性の超級っていうクラス。炎属性で打ち消そうとしても消しきれないだろうし……ん? 打ち消す──そうか! なんでこんな簡単なことも思い浮かばなかったんだろう!! 」

さらに手を動かすスピードを上げる。どんどんと隕石は今も近づいて、太陽を塞いでいただけのはずが、もう空を覆い尽くす勢いだ。

「よしっ! できた!! って、消費魔力は使用魔法の二倍!? カ、カノンあの魔法どれぐらい魔力消費するの!? 」

「えっ!? えっと、二万五千くらいかな? 」

「うぇっ!? ま、まじかぁ……でも、私のステータスの初期値だし、五万も魔力を消費するとほぼ空になっちゃうけど……まぁどうとでもなれー!! 」

天に向かって片手をあげて宣言する。

魔法消去アンチマジック!! 」

アルが叫ぶと、降り注いでいた流星群は弾けるように消失した。

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