第十二話 発見

「んぅ……ん? なっなにこれ!? 縛られてる? 」

 眠りから覚めてその檸檬色の瞳を覗かせたのはカノンだった。しかし、その手足は縄で縛られていた。もぞもぞ動いても簡単にはほどけそうにない。それに――

「なにここ? 牢屋? 洞窟内にある? 私宿屋で寝てたはずだけど……」

 ――鉄格子に囲まれたところで寝かせられていた。

 ぼそぼそ一人で状況整理していると、砂を踏むような足音が聞こえてきた。反射的に息を潜め身構える。

「おうおう、お目覚めかぁ? 天賦の天使さんよぉ」

「あ、あなたたちは! 」

 ついに姿を現したのは三人組の男達だった。しかも見覚えがある。

「あの時、アルにやられたのにどうして……」

「はっ! パーティーは無事に組めたようでなりよりだぁ。しかもゴールドランクにまで昇格しちまうとはなぁ! まぁ、俺はあれ以来あの吸血鬼のガキが夢に出てきて夜も眠れやしねぇけどなぁ!! 」

 そう言って鉄格子を蹴ってくるのは、パーティーを組むときにちょっかいを出してきた三人組の、アルに直接腕を折られた男だった。あの経験が脳裏に焼き付いて離れない、相当なトラウマになったらしい。

「それで? あなたたちが私に何の用? こんなことしてアルが見過ごすはずないでしょ? それに私にこんな縄、意味あると思う? 」

「普通は意味ねぇだろうな。聞いた話によれば、お前は全属性の魔法が使えるんだって? まぁそれも今じゃ意味ねぇけどなぁハハハッ!! 」

 男が丸腰で突っ立って笑っている。今なら不意を突けば逃げられそうだ。

 まずは炎魔法で縄を燃やしてから――

「……え? 魔法が、使えない? 」

 魔法が発動しなかった。それでようやく、男が無防備に突っ立って笑っている理由が分かった。

 カノンが魔法に長けていて、身体能力はイマイチなのを事前に調べ、何らかの方法で魔法を封じてきた、というところだろうか。

 しかし、その方法が全く見当つかない。今まで読み漁ってきた本の記録にも、記憶の限り見た覚えが無い。

 魔法頼りの戦法をとってきたカノンは、この時点で何もできることが無くなった。歯噛みして、男を睨みつける。

 すると、男は舐めまわすような視線を向けてきた。思わず背筋が凍る。

「はっ! やっぱお前いいねぇ。ヒヒッちょっとくらい味見したっていいよなぁ? 」

 言いながら男が牢の扉を開けて入ってくる。

「ちょっ、やめとけよ。依頼主にこいつには傷つけるなって言われてるだろ? 」

「ちょっとくらいはいいだろ。先っぽだけだからよぉ」

 後ろにいた仲間の一人が止めようとしても、聞かずに近づいてくる。仲間のもう一人はため息だけ吐いて、憐れむような視線をカノンに向けてくる。

「え……あ……え……なん…………」

 今から何をされてしまうのか、考えようとしても理解を拒んでいるようで。全く言葉が出て来ず後ずさる。しかし、すぐ壁にぶつかってしまった。逃げ場が、無くなった。

 男がいやらしい笑みを浮かべて手を伸ばしてくる。服の下に手を入れられお腹を触られた。

「――ひっ……」

 短い悲鳴がカノンの口から洩れる。しかし男の手が止まることは無かった。カノンの肌を余すことなく堪能するように、這うように登ってくる。そして――

「い、いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! 」

「なっ、こいつ突然光っ――うわぁっ!! 」

 耳を裂く絶叫を上げた途端カノンの身体を光が包み、カノンに触れることを赦さないかのように男を反対側の壁まで跳ね飛ばした。

「ぐはっ……こんの、てんめぇ……!! 」

「おい! やめろ!! さすがに顔に傷を付けたら依頼主にバレる!! 」

「そんなことをしたら全部台無しになっちまうよ!! 」

 殴りかかろうとした男をもう二人の男が止めた。

「ちっ、わかってらぁ! くそっ! 興醒めだ」

 止められた男が行き場のない怒りを鉄格子にぶつけている。

 そんな光景を映す視界が段々とぼやけていく。

「ア……ル……」

最後に思い出し呟いたのは白髪に紅眼の、自分とさほど年は変わらないであろう最愛の吸血鬼しょうじょの名前だった。


          ◇◇◇


「はぁ……はぁ……急がなくちゃ……カノン、どこ!! 」

 アルは今、エストの街の北にある森の中を移動していた。飛行魔法を使い地面すれすれの低空飛行で、索敵魔法で表示したマップを見ながら駆けている。たまにマップに集中し過ぎて木に思い切りぶつかりそうになったりもした。

 そんな時、ふと森に影が降りた。

「何!? こんな時に!! 」

 叫んで上を見上げる。

「――は? 」

 一瞬、言葉が出て来なかった。

「え? は? え? なに……これ……」

 太陽を遮り、空を割って現れたそれは、あまりに現実感が無く、現実的だった。

「い……ん…………せき? 」

 そう、それは巨大な隕石だった。それも一つではなく、複数だ。それがゆっくりと、この国を飲み込まんと迫ってくる。

 一つでも落ちればこの国はゲームオーバーだ。

「あーもー!! こんな時に何なのよ本当に!! 」

 もう、次から次へと絶望するどころかイライラしてきて頭を掻く。

 一度大きく息を吸って。

「すううううぅぅぅぅぅぅ――」

 超超超大きなため息を、吐く。

「――はああああぁぁぁぁぁぁ」

 全ての鬱憤を吐き出してから、数度頬を叩いて気合を入れなおす。

「よし。最悪この国が滅んでも、私の黒薔薇の剣があれば斬り落とせる。なら、問題ない。それより私の近くにいないとカノンが危ない。どっちにしてもカノンを見つけるのが最優先だね。うん」

 自分に言い聞かせるように言って、捜索の続きを再開しようとマップに目を向ける。

「…………あぁ」

 思わず声が漏れた。マップ右上の端っこに青いアイコンと赤いアイコンが映っていた。青いアイコンをタップすると。

「カノン……ようやく見つけた」

 零れ落ちそうになる涙をこらえて、カノンがいる場所へ一直線に進みだす。

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