第一話 転生

「ここは……家? 」

 虹花は目を覚ますと、キョロキョロと周りを見渡した。

 そこは、少し埃っぽいが生活できない程汚くは無く。数年前まで誰かが生活していたと思われるような家だった。

「おじゃましてまーす」

 すでに家の中にいるので、そーっと静かに扉を開けながら現在進行形でおじゃまする。

「だれもいない……」

 返事も帰ってこず、人の姿も見当たらなかった。

「うーん……まぁ、ひとまず転生したっていうのはなんとなく理解できるんだけど、こう何も説明ないと不安しかないなぁ。漫画だとこういう時は、神様と対話したり、チュートリアル的な音声が流れてくるんだけど……それも無いし。あとは、家族や親切な人が近くにいるパターンもあるけど……人いないんだよなぁ……」

 腕を組み、しばらく考え込んで記憶をたどる。

 そしてついに、虹花はある答えにたどり着いた。

「あ! こういう時はステータスを見ると何かわかってくるかも! だいたい、何かギフトとしてスキルやら魔法やら武器やら能力が与えられるだろうし。でも、どうすれば見れるんだろう。こういう時ってステータスオープンとか言うんだっけ? うぅ……なんだか緊張するなぁ」

 気持ちを落ち着かせるように大きく息を吸って吐く。

「ス……ステータスオープン」

 虹花が唱えると、ブォンと某宇宙で戦う映画に出てくる光る剣を振るった時のような効果音と共にゲームのような画面が出てきた。

「おおっ! 」

 思わず感嘆の声を漏らす。

 そして、表示されたステータス画面を眺めた。



名前:ノアール・アルカンシエル

種族:吸血鬼 性別:女性 誕生日:7月4日

身長:157cm 体重:45kg 

スリーサイズ:B77W56H80

備考:めっちゃ可愛い

ステータス

Lv.1/99 HP:50000 MP:50000

攻撃力:1000 防御力:1000 

敏捷:5000 知力:5000

スキル

魔法創作まほうそうさく【ユニークスキル】

・既存、新規の魔法含めどんな魔法でも創り、使用できる。

・誰かが使用した魔法を見ることでも、魔法を習得することができる。

・ユニークスキルを創り出すことができる。

備考・消費MP10

※このスキルは他に誰も持つことができないスキル


白昼歩デイウォーカー【エクストラスキル】

・日光に当たっても灰にならずに活動できる。

・血を吸わなくても生きていける。(ただし、1か月以上血を吸わなかった場合動くのがだるくなる)

・吸血鬼の弱点になるもの全てを無効化する。

備考・パッシブスキル

※このスキルは吸血鬼がごく稀に得るスキル


不老不死イモータル【エクストラスキル】

・老いず、病を患うことも無い。

・死に至るダメージを負っても死なない。

備考・パッシブスキル

※このスキルは吸血鬼がごく稀に得るスキル


再生さいせい

・どんな負傷も、傷を負う前の状態に即時に戻す。

・失ったHPを即時に全回復する。

備考・パッシブスキル

※このスキルは吸血鬼が必ず持っているスキル



「え、何このバケモノ設定普通に怖いんですけど。ていうかやたら詳細過ぎない? それに『備考:めっちゃ可愛い』って何!? でもなーんか見たことある設定なんだよなぁ…………ってそうだ! 私が魔法陣に書き込んだ情報だ! よく見たら名前も私がネトゲでよく使ってる名前だし。でも、こんなに詳細に書き込んでなかったと思うんだけどな……。まぁいっか、それよりも今の私の姿が気になる! めっちゃ可愛いって書いてあるし可愛いんだよね!! 」

 言って下を向くと、虹花もといノアール・アルカンシエル言い換えアルは、何も着ていなかった……。

 つまり全裸。今までずっと。

 顔をリンゴのように真っ赤に染めて、その場に座り込み周りに身に纏えるものが無いか探す。

 そして、最初に目覚めた部屋にベッドがあったことを思い出し、急いでその部屋に向かいベッドシーツをはぎ取って身体に巻いた。

「はぁーびっくりしたぁー。何で裸だったの! もうっ! 」

 頬はまだ少し赤く染まっているが、気を取り直して家の中を散策する。

 すると、目的のものは案外時間もかからず見つかった。

 鏡だ。自分が写っている。生まれ変わった自分が。

「うわぁぁぁぁぁぁ! めっっっっちゃ可愛いんですけどぉぉぉぉ!! えっ!? これほんとに私!? 私なの!? あれ、でも吸血鬼って鏡に映らないんじゃなかったっけ? まぁいっか可愛いし!! 」

 黒髪黒目ではなく、白髪に紅眼な自分の姿を見て取り乱してから数分後、ようやく落ち着きを取り戻せた。

「それにしても私、本当に転生しちゃったんだね……。みんな元気かな……。さくちゃん無事かな……」

 少しの間、前世を思い出して感傷的な気分になってしまったが、頭を振って思考を前向きにチェンジする。

「急にいなくならないって約束、早速破っちゃったけど、さくちゃんはそんな弱い子じゃないしきっと大丈夫。なんなら私の真似して意地でもこっちの世界に来ちゃうかも? って、それは無いか。少し寂しいけど、新しい人生だし、好きなように楽しもうかな」

 とりあえずもう一度鏡を見て目の保養をしてから、改めてステータスを見てみる。

「吸血鬼……」

 ステータス画面の種族欄を見て呆然と呟いた。

 吸血鬼。

 前世の世界では、人間を襲って血を吸いつくす恐ろしい生き物と一般的には言われていた種族。

「この世界ではどんな種族なんだろう……。それに、このステータスは標準的? それとも強すぎるかな? いや、弱いかな? どうだろう……。

 それにスキルまでやばいのあるしなぁ……。何この白昼歩って。吸血鬼がこのスキル持ってたらもう絶対勝てないじゃん。ゲームだったら批判ものだよ。運営叩かれまくってるよ。シナリオに出てきてもチート過ぎて面白くなくなるよ。こんなキャラ使い道無いよ。……さらに追い打ちをかけるようにこの、魔法創作。何このチートスキル最強じゃない? ダメ押しが過ぎない? このキャラリストラされる? いつかこの世界の運営から消されない? 大丈夫? 」

 まくしたてるように最後の方は早口になりながら、一通り自分のステータスについて言いたいことを言って、ため息を吐いた。

 そして、目下の問題を片付けるための宣言をする。

「とりあえず、服が欲しい! ……でも、さっき家中散策した時クローゼット見つけたけど何も入って無かったんだよなぁ。こんな格好じゃ外にも出れないし……」

 しばらくの間うんうん唸った末、何かをひらめいたように手を打った。

「そうだ! 私にはせっかくのチートスキルがあるんだし使ってみよう! 」

 アルは早速、魔法創作を使ってみる。突然空中に現れたタブレット端末のような画面を、なんとなくで操作する。

「なんか、ゲームのチュートリアル飛ばして手探りで操作を覚える感じと似てるなー。新しい操作でちょっとワクワクする感じも似てる! 」

 何度か試行し、操作感が慣れてきた。キーボードの画面も出てきて詳細に設定できる様だ。

「ふっふーん! 私、こういうの得意なんだよなぁー。私にぴったりのスキル。まぁ得意って言うか、漫画やラノベを読み漁ってたから魔法とかスキルの知識があるってだけなんだけどね」

 画面を操作すること約五分で、ついにその魔法は完成した。

「よーっし! いっくよー! 記念すべき初めての魔法――創造魔法そうぞうまほう!! 」

 途端、アルの身体が光に包まれたかと思うと、身体に巻いていたベッドシーツがどんどん姿を変えていく。

 光が消えた頃には、アルの身なりは大きく変わっていた。

 上から、首元に赤いリボンのある白のブラウスに膝丈までの黒いフレアスカート、シースルータイプの黒タイツに綺麗に磨かれた黒いペニーローファーといった、清潔感と落ち着きのあるすごく清楚な装いだった。

「やったー! 成功だ! 」

 叫ぶアルの頬は緩んでいる。

「説明しよう! 創造魔法とは、虚空から物体、所謂実体を持つすべての【物】を生み出す魔法。つまり、洋服も生み出すことが可能っていうことなんだよね。……誰に言ってんのって話だけど」

ドヤ顔で語るも辺りは静かなまま。今までずっと一緒にいた幼馴染も、もういない。

 後ろ髪を引っ張る寂しさと不安を掻き消す様に、また頭を振り笑みを浮かべる。

「初魔法、意外とうまくいったなー。しかも想像した通りの洋服が創れたし、これで外にも行けるね! 」

 再び鏡を見て、身だしなみが整っているのを確認して、さらにいろんなポーズを取って目の保養をしてから玄関の扉を開く。

「それじゃあ、いざしゅっぱーつ! 」

 新たな出会いに期待で胸を膨らませて、異世界の大地に初めの一歩を踏み出した。

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