転生吸血鬼ちゃんはチートスキルで好きなように生き抜きます!!

或守 光

第一章 転生編

序章

「……ん……んぅ……? ここ……は? 」


 鈴の音のような声を零して少女が目をこすりながら上体を起こした。

 絹のような白く長い髪、宝石のような紅い瞳、白磁のように白い肌。

 極めつけは、尖った可愛らしい八重歯。

 そう、少女は可愛らしい姿をしている吸血鬼だった。それに加えて――


「あれ……私、転生してる……? 」


 ――違う世界からの転生者だった。


          ◇◇◇


――時は遡ること数時間前――


「ふふふ……ようやくこの時が来た! ついに完成だ! 」

 そう言って少女――黒咲虹花くろさきにじかは高らかに一枚の紙を掲げた。

 その紙に描かれていたのは一つの魔法陣のようなものだった。

「これを使って異世界転生チート生活を送ってやるんだー! 」

「もー、まーたそんなこと言ってるの? 」

 急に背後から聞こえた声にビクッと肩を震わせる。振り返ると、そこには虹花の親友である望月朔果もちづきさくらが呆れ顔で立っていた。

「うん! 今回もいい出来栄えになったよ、さくちゃん」

 虹花に屈託のない眩しい笑顔を向けられ、朔果はため息を吐く。

「まぁいいけどさ、いつものことだし。でも、急にいなくなったりしないでよ? 」

「もちろん。急になんていなくならないよ。どうせ自作の魔法陣だし、何の効力も発揮しないって。約束。……でも、一度は転生してみたいよねぇ。こう、可愛い顔で! 可愛い服着て! 強大な敵をすまし顔で難なく倒す! で、何事も無かったように誰にも気づかれずにその場を立ち去るの! 」

 虹花はキラキラと目を輝かせて語るが、朔果はもうあきらめたように頷くだけだった。

「はいはい、虹花がそういうお話好きなのは知ってるけど、ほどほどにしなよ? ほんとに約束だからね! 」

「うーん……でも転生モノ好きにとって異世界転生は憧れだよねぇ」

「へぇー…………って、本当に転生したいの!? 」

「ん? うん」

「じゃ、じゃあ私もその時は一緒に転生する! 」

「えぇ……」

 朔果の言葉に困惑するが、虹花はすぐに首を横に振った。

「さくちゃん、クラスメイトと一緒に異世界に行くのは転生モノより召喚系の方が多いんだよ。私は召喚系じゃなくて転生モノが好きなの。それにタイミングは選べないし。でもまぁ、さくちゃん一人置いていくのは心配だなぁ。人気はあるのに人見知りで、私以外友達いないもんね」

「そ、そうなの……って誰がぼっちよ! 誰が! 友達の一人や二人くらい……い……なくても! 虹花だって友達いないくせに! 」

「ほらぁぼっちじゃん。それに、私は友達がいないんじゃなくて作らないだけだよ。さくちゃんいればそれだけでいいし」

「えっあ、あうぅ……」

 予想外の返しに朔果は顔を赤くしたまま伏せてしまった。

「どうしたの? 」

 下から顔を覗き込むように虹花がしゃがみ込むと、朔果もしゃがんで虹花の手を取り、顔を耳まで真っ赤にしながらまっすぐ見つめてくる。

「わ、私も虹花がいればそれだけでいいよ! 」

 虹花は少しの間キョトンとしたが、にっこり笑って朔果の頭を撫でる。

「私はさくちゃんに彼氏ができた~とかの情報が入ってきた方が楽しいけどなぁ。リアルラブコメ間近で見れそうだし」

 朔果がムッとほっぺを膨らませて、そっぽを向いてしまった。

「彼氏とかないよ。だ、第一私はそんなの興味ないし。私が好きなのは――」

 言いかけたところで朔果は慌てて口を手で塞いだ。しかし、それを逃がす虹花ではなかった。

「さくちゃん好きな人いるの? 誰? クラスの男子? もしかして先輩とか? それとも――――女の子とか? 」

 完全に硬直してしまった朔果をお構いなしに虹花は続ける。

「私はそういうの気にしないタイプだから全然相談してくれていいのに」

 朔果はバクバクと爆速で鼓動する心臓を抑え、意を決するように口を開いた。

「私は……に、にじ――」

 キーンコーンカーンコーン。

 言いかけたところでタイミングよく完全下校のチャイムが鳴った。

 そう、今は学校の放課後。学級委員長の朔果が先生にプリントのコピーを頼まれていたので、それが終わるまで虹花は教室で待っていた。手伝うという選択肢は無かった。

「あ、もうそんな時間なんだ。そろそろ帰ろうかさくちゃん」

 虹花が立ち上がりながらそう言うと、朔果は真っ赤な顔で虹花を睨みつけプイっと再び顔をそらしてしまった。

「ど、どうしたのさくちゃん」

「べつに。なんでもないよ、早く帰ろう」

「もう、絶対なんでもなくないじゃん」

 言いながらも、二人は急いで教室を出て、昇降口の下駄箱で上履きを靴に履き替えてから帰路に着く。

 途中クレープの屋台やドーナツのお店など寄り道もとい機嫌取りをして、ようやく駅のホームにたどり着いた。

 二人は少し走って額に浮かんだ汗をハンカチで拭っていた。

「はーっ間に合ったー」

「間に合ったねー……って虹花があれ食べようこれ食べようって言うからぁ! 」

「ごめんって。でもさくちゃんだって幸せそうに食べてたじゃん……ほら! 」

 虹花がスマホの画面に映った、クレープを美味しそうに頬張っている朔果の写真を、朔果本人に見せる。

「いっいつの間にっ!? 消してー! 」

「いやだねークラスのみんなに見せてやるー男子どもは歓喜だろうなぁ」

 朔果がスマホを奪い取ろうとピョンピョンはねるがそれを華麗に避け、ついでにその様子まで写真に収める。

 見せるつもりは毛頭ないが、朔果の反応が可愛く、つい意地悪したくなってしまうのだから仕方がない。あとでこの写真は秘蔵フォルダに保存する、と虹花は内心決意した。

 そんなことをしていると、ホームに列車の到着を知らせるアナウンスが流れた。

 二人は大人しく点字ブロックのすぐ内側に並び、列車を待つ。

 列車の汽笛と線路を走る甲高い音がどんどん近づいてくる。

 その時。

 奥から慌てた様子で走ってきた人が虹花の背中にぶつかった。

「えっ――」

 当然バランスを崩し、かなり勢いよくぶつかったのかそのまま線路に落ちてしまう。

 目前で気づいた列車がブレーキをかけ耳障りな音が鼓膜を刺激するが、すぐに止まる気配が無い。

 反射的にホームの方に向き直る。朔果が何かを叫んでいるが何も聞こえない。

 列車にひかれてしまう直前、カバンの中が光った気がした。

 そこで、虹花の意識はプツンと途切れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る