最上階

徹底探索





私は立ち上がり、細い骨や頭蓋骨などの山に近付き、その山を掻き分ける。


骨が崩れてしまわないように優しく掴み、そっと床に置く。


何度かそれを繰り返し、山積みだった所の床が見え始めた。


だが床が見えるだけでアイテムらしき物は見つからなかった。


頭蓋骨を振っても、住み着いていた蜘蛛が落ちてくるだけだった。


「何も無さそうね……」


いくつかある骨の山を崩したが何も見つからなかったので、私は赤野の様子を見に部屋を出た。


すると赤野は既に向かいの部屋から出て、鉄梯子を登っていた。


「あら、もう部屋は調べ終わったの?」


なにやら天井を調べている赤野に声を掛ける。


「骨しかなかったよ……」


そう言いながら赤野は天井を触り続ける。


私は赤野から視線を外し、閉まっている扉を見る。


「天井には何があるの?」


私は再び視線を赤野に戻し、背中に問いかける。


「なんかパズルになってて、上手く出来れば天井の扉が開くんだと思う」


「じゃあそのパズルは赤野君に任せるわ。私は軽く部屋を見てくるわね」


そう言って先ほどまで赤野が調べていた部屋に入る。


部屋の中は私が調べた部屋同様、人骨の山がいくつもあった。


その中には先ほどの部屋で見かけた動物の骨より、一回り小さい頭蓋骨がいくつも混ざっている。


「もしかしたら赤野君が言ってた、甲冑に殺された野良猫かも……」


そう呟きながら山になってる骨を見渡す。


「歴代の侵入した野良猫ってとこかしら」


掻き分けた形跡が無いので、おそらく赤野は見ただけなのだろう。


これでは調べた内に入らない。


私は右手で山を掻き分け始めた。


大小様々な頭蓋骨や細く短い骨を退かし、山を崩す。


床が見えたので、他の山を崩し始める。


頭蓋骨を優しく持ち上げ、軽く振る。




カタッ……




蜘蛛ではなく、何かが頭蓋骨の中から落ちてきた。


「何かしら……」


そっと頭蓋骨を床に置き、落ちた物を拾い上げる。


正方形の積み木の様な薄い板に、輪郭がギザギザした葉が描かれていた。





【薄い木の板を手に入れた】





薄い木の板をジャケットのポケットに入れ、再び人骨の山を調べ始めると見た事の無い植物が生えた植木鉢を発見した。





【謎の植物が生えた植木鉢を手に入れた】





私は部屋を出て、鉄梯子の上で首を傾げる赤野の背中を見つめる。


「パズルは解けたの?」


「それが……9コのマスに8枚のパズルがあってバラの紋章は完成したのに、開く気配が無いんだ」


パズルがどんな形状の物か知らなかったが、バラの紋章と言われて、繋がった。


「パズルのピースが一枚足りないんじゃないかしら?」


私は得意気に、赤野が調べたと言っていた部屋で発見した正方形の薄い木の板を見せ付けた。


「あ……もしかして、俺が調べた部屋に二つとも……?」


赤野は振り返り、私の手にしているパズルのピースと植木鉢を見ると、バツの悪そうな顔をした。


「部屋を見回すだけじゃ見落としがあるわ。しっかり、隅々まで調べないとダメよ」


私は気まずそうに降りてきた赤野に、パズルのピースを手渡した。


「やっぱ本物の警察は違うね」


赤野は頭を掻きながら、パズルのピースを受け取り、絵柄を確認した。


そして赤野は素早く鉄梯子を登り、開いているマスにバラの葉が描かれているピースをはめ込んだ。




カチッ……


《天井の扉のカギが開いた》




「見て」


赤野は鉄梯子の上で体を横にずらし、下に居る私に完成したパズルを見せてくれた。


正方形の枠の中に、小さな正方形の板が9枚はめ込まれている。


一枚ずつスライドさせて絵を完成させるパズルだったようで、青い扉や黒い扉と同じバラの紋章が描かれていた。


「この上には何があるのかしらね?」


ラスボスが待ち構えているのかと思えば、人骨の山がいくつもある部屋と仕掛けが施された天井の扉だけで、拍子抜けしてしまった。


「それより、その植木鉢はなに?」


赤野は鉄梯子に登ったまま、私が抱えている植木鉢を見下ろした。


どこにでもあるような茶色い植木鉢には、密集した葉の中央に細い茎が葉よりも高く伸びている。


その茎にはハートを逆さまにした形の実がついていた。


「……多分、マンドレイクだわ」


「え、マンドレイクって抜くとき悲鳴上げるやつ?」


「そう。一階の青い扉の部屋で読んだのよ、妖樹の本を。毒薬にも万能薬にもなる優れものよ。実の形からして、このマンドレイクの性別は男ね」


赤野は私が抱えるマンドレイクを見下ろすだけで、説明を聞いても鉄梯子から降りてくる様子はなかった。


「それどうする気? まさか引き抜こうなんて……」


引き抜く素振りもしていないのに、赤野は鉄梯子を肘で抱えて両耳を塞いだ。


「これを引き抜くのは簡単じゃないわよ。悲鳴を聞いたら死んじゃうんだから」


私はマンドレイクが生えている植木鉢を床に置いた。


「良かった。それ知ってたんだね」


赤野は安堵の溜め息を漏らして、耳を塞いでいた手を離した。




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