やり場のない怒り
この布切れは、二宮のスーツの切れ端だったのだ。
「そんなっ……」
二宮が目の前の残虐な肉塊だなんて、そんな現実を受け入れられるほど余裕なんて無かった。
「こんなのは罠よ。私たちを混乱させる為の悪趣味な悪戯なんだわ」
「この塊、もしかして……折笠さんの知り合い、なの?」
呼吸が乱れた私を見て、赤野は状況を察する。
「こ、これは……私の相棒、だった男の物なのかも、しれないの……この屋敷に入る前まで一緒だったのよ……」
姿が見えなくなり、名前を呼んでも返事が無かったのは既に殺されていたからだったのだ。
扉が開き、誘われるまま屋敷に一人で勝手に踏み込んでしまった自分が憎い。
二宮を探していれば、もしかしたら彼は死なずに済んだかもしれない。
こんな、こんな無残な肉の塊になどならなかったかもしれない。
「そんな……二宮、嘘よ……」
屋敷に入った時、外から聞こえた奇妙な呻き声。
二宮が黒バラを見に歩いて行った方向からだった。
二宮は得体の知れない化け物に殺されてしまったに違いない。
「私が……私の、せいだわ」
視界がぼやけて温かいものが頬を伝った。
私は二宮の体だった肉の塊を見ていられなくなり、下を向いて涙を流す。
赤野は声を掛けたり心配する仕草など無く、ただ泣いている私を横で見つめていた。
一般的には行動を起こさない赤野は冷たい人間なのかもしれない。
でも今の私には、泣かせてくれている空間が心地良かった。
『大丈夫?』『泣かないで』『折笠さんのせいじゃないよ』なんて優しく無責任な言葉を掛けられて背中を撫でられたら、私はその手を振り払って乱れた感情に任せて赤野を怒鳴っていたかもしれない。
しばらく流した涙を拭った視界には血だらけの床が広がっていた。
そしてあるものを見つけてしまった。
「ッ!!」
二宮の肉の塊を包み込んだイバラの網の下には真っ赤なワインボトルが置かれており、二宮の血が溜まっていた。
今もポタポタと一滴ずつ垂れ落ち、ボトルの口からは二宮の血が溢れて床に血だまりを作っている。
ボトルに溜まった二宮の血の役割を悟り、怒りが込み上げてきた。
「クソッ!」
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A【素早くボトルを蹴り飛ばす】
B【蹴り飛ばそうと足を上げた】
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