【棚に南京錠を付け直す】
私はカエルのコレクションの透明な扉を閉めて、最初と同じ様に取っ手の所に重たい南京錠を引っ掛け、カギを閉め、クローゼットの扉も閉める。
もう他に使う所は無いだろうから、南京錠から抜き取ったカギは小さなクローゼットの中に掛けられている4着目のタキシードのポケットに戻した。
「部屋を出る前に地図でこの部屋の位置を確認したいんだけど……」
そう言いながら塚本に貰ったクレヨンで描かれた地図をズボンのバックポケットから取り出した。
机の上に広げ、三階の間取りを把握する。
三階は正方形の廊下が一周しており、各面の右側に1つずつ扉がある。
"回"という漢字に"卍"を足したような見た目をしていた。
各部屋は左端まで広がっていて、どれも大きな部屋の様だ。
「俺たちが居るのは、この部屋だよ」
赤野が指差したのは、正方形の廊下に囲まれた中心の部屋だった。
上がってきた階段は他の扉の位置とは違い、南側の壁の左側にあり、その面には部屋が無く、私たちの居る部屋を含めて4つの部屋があった。
「最初上がってきた時、折笠さんの居る部屋が分からなくて、こっちに行ったんだけど扉は開いてたよ」
赤野は東の部屋を指差す。
「部屋には何があった?」
「丸いテーブルに花瓶が載ってたよ。それ以外は何も無かったはず。折笠さん居ないし、すぐに出たからちゃんとは見てない」
赤野は東側の部屋の中央、テーブルの位置を爪先で差した。
「まぁ良いわ。詳しい事はこれから調べに行くわよ」
私はクレヨンで描かれた地図を、折れ目に沿って折りたたみ、ズボンのバックポケットにしまった。
「さぁ早く行きましょ」
私たちは横に並んで部屋を出ようと扉に向かうと、背後から物音が聞こえてきた。
ガタガタガタガタガタ……
ゴトゴトゴトゴト……
振り返ると、大きなクローゼットが前後に揺れていた。
中から衝撃を与えている様な揺れ方をしている。
ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ……
何やら鳴き声も聞こえてきた。
「な、なに……!?」
「……カエル……??」
赤野が前に進み、大きなクローゼットの扉を勢い良く開けた。
「うわぁッ!!」
扉を開けた瞬間、赤野が驚いて後ろに飛び退いた。
「どうしたのッ!?」
驚いた赤野の視線の先には、透明な扉に体当たりをするカエル達の姿があった。
「い、生きてたの!?」
「いや、確かにフィギュアだった……はず」
下の階で発見し、赤野が置いた緑色のカエルも私たちを見上げ、体当たりをしていた。
「カギ閉めてなかったら襲われてたわ……」
「毒持ちだろうから、死んでたね」
南京錠は頑丈そうなので、壊れて飛び出してくる事は無いだろうが、この部屋に長居は危険だ。
「早くこの部屋を出ましょ」
私は大きなクローゼットの扉を閉めた。
そして逃げる様に、私たちは東の向かいの部屋に向かった。
甲冑の足音が遠くに聞こえるので、目的の部屋の扉を開けて素早く中に入る。
赤野の言っていた通り、殺風景な部屋にはテーブルと一輪の黒バラが挿さっていた。
そして花瓶の隣には指示の書かれた紙が置かれていた。
それ以外にこの部屋には何も無く、他に調べられる所が無いので、私は白い紙を手に取った。
「水なら下の花瓶の部屋に置きっぱなしだったよね?」
「そうね」
私は指示を読み上げる。
【水は私を殺すだけ。私を潤して】
「“私”って黒バラの事だよね」
「“殺す”っていうのは、枯らすって事なのかしら」
一階で花瓶に水を注いだ時、黒バラは瞬く間に枯れてしまった事を思い出す。
「じゃあ、水以外を注ぐって事になるわね」
「……でも、何を……」
「何って……」
赤野の疑問に、一つだけ予想が出来た。
険しい顔を見る限り、赤野も同じ予想が出来ているのだろう。
でもそれは決して正解であってほしくないものだ。
「……私たちの体を傷付けて、ここに血液を注げってことなのかも」
「体液なら他にも候補はあるけど、今までのことを考えると血が妥当か……」
赤野は納得しながら、手の甲に浮き出ている血管を見つめる。
「とりあえず、ここに液体は無いし保留ね」
私は萎れている黒バラを見ながら言った。
私たちは甲冑の足音に気を付けながら花瓶の部屋を出て、反時計回りに歩き、北側の部屋の扉に手を掛ける。
カギは掛かっていなかった。
扉を開けると、広々とした空間が広がっていた。
花瓶の部屋も広々としていたが、物が少なく殺風景な部屋だった。
それに比べて北側の部屋は、美術館の様な部屋になっていた。
大小様々な大きさの額縁に入れられた絵画が四方の壁に飾られ、風景画は無く全て人が描かれている。
それらの絵画は、ルネサンスの三代巨匠であるレオナルド・ダ・ヴィンチの作品のレプリカが目立っていた。
扉から見て、右側の壁には『最後の晩餐』が巨大な額縁に入れられ飾られていた。
正面の壁には、同じくダ・ヴィンチの『モナ・リザ』『受胎告知』『聖アンナと聖母子』『白貂を抱く貴婦人』など、私でも名前が分かるほどの有名な作品たちが壁を埋める様に天井近くまで飾られていた。
左側の壁には『荒野の聖ヒエロニムス』が拡大され、最後の晩餐と同じくらいの大きさになって飾られていた。
扉がある壁側にもダ・ヴィンチの物と思われる作品が並んでいた。
おそらく名前の分からない物や見たことの無い物も全て、ダ・ヴィンチの作品なのだろう。
「気味が悪いね」
「そうね、普通の絵が一枚も無いわ」
部屋を見回したが、沢山ある作品は全て両目が黒く塗り潰されていた。
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