アイテムの山




「折笠さんは何か見つけた?」


「こっちは何も無さそうね…… 」


机の探索を再開したが、最後の引き出しの中身は白紙の紙が大量に入っているだけだった。


何か書かれていないか確認するために、引き出しから紙の束を取り出す。


コトン……


何か小さなものが床に落ちる音がした。


「あら? 」


紙の束を机の上に置いて床を見下ろすと、足元にピンクのリボンが結ばれたカギが落ちていた。




【可愛らしいカギを手に入れた】





どうやら紙の束に挟まっていたらしい。


「もしかしたら、さっきの開かなかった扉のカギかもしれないわ」


拾い上げたカギを赤野と塚本に見せる。


「さっそく試しに行こ」


「その開かない部屋はどこに?」


部屋の出口である扉に向かう赤野を見つめ、首を傾げた塚本と目が合った。


「向かいの部屋よ」


私たちは、勉強部屋を出た。


素早く向かいの扉の前に移動して、甲冑が来る前に鍵穴に見つけた可愛らしいカギを差し込むと手応えがあった。


勉強部屋で見つけたカギは、やはり向かいの部屋のカギだった。


扉を開けると、甘いフルーティフローラルの香りが私たち3人を出迎えてくれた。


「……良い香り」


天井付きのベッドは薄いピンク色のシーツに包まれ、白い大きなクローゼットや大きな鏡のドレッサーなどから若い女性が使っていた部屋だと分かる。


ただ、この屋敷は廃墟だと思っているので、部屋の中が綺麗なことや甘い香りがするのは不気味に感じる。


それにこの優しげな雰囲気の部屋に似つかわしくない黒バラが一輪挿さっている花瓶が、ドレッサーとベッドの隣の白いサイドテーブルに置かれているのも気味が悪い。


私は最初に目に付いたドレッサーを調べることにした。


赤野はクローゼットを、塚本はベッド付近を調べ始めた。


金色の猫足の可愛らしいドレッサーの大きな鏡は手垢や埃などの汚れは無く、不自然なほど綺麗に磨かれていた。


ドレッサーの上にはマニキュアやヘアブラシ、香水や化粧品などが並んでいた。


その中に薄ピンク色の真新しいアロマキャンドルが置いてあった。


手に取り、鼻を近付ける。


部屋と同じ香りがした。


このアロマキャンドルがあれば、隣の真っ暗な部屋を照らす事が出来るかもしれない。




【アロマキャンドルを手に入れた】




火を点ける為のライターやマッチがどこかにあるはずだ。


金色の取っ手を掴み、ドレッサーの引き出しを開ける。


すると一冊の分厚い本が入っていた。


紫色の表紙には金色の文字で「毒は美しく咲く」とタイトルが書かれていた。



『花は可愛らしく美しいだけではない。

その身を守る為に毒を持つ花も存在する。

例えば、白くて小さな花を咲かせるスズランには有毒物質が含まれる。

全草に持つが、特に花や根に多く含まれ、摂取した場合、嘔吐・頭痛・眩暈・心不全・血圧低下・心臓麻痺などを起こし、重症の場合は死に至る。

スズランを活けた水を飲んでも中毒を起こす事があり、これらを誤飲して死亡した例もある』



スズランは可愛らしい花だと思っていたが、とても危険な花のようだ。




【毒は美しく咲くと書かれた本を手に入れた】




別の引き出しを開けたが、他には何も入ってはいなかった。


ドレッサーなのに口紅やアイシャドウが無い事に違和感を覚えたが、女性ではなくだから化粧品が置いていないのだろうと考えた。


自分が子供の頃は顔に化粧を施すより、いつでも視界に入る爪や服が可愛い方が良かった。


もちろん化粧品に興味が無かったわけではないが、マニキュアを塗る方が好きなだけだった。


他に気になる所は見当たらないので、隣のクローゼットを調べている赤野に声を掛ける。


「何か脱出の手掛かりになるような物は見つかった?」


「ハンガーに掛かった女の子の服が4着と、下の引き出しからカエルのおもちゃが出てきたくらい」


赤野は私に見えるようにワンピースの裾をつまんで見せ、掌に乗せたカエルのおもちゃも見せてくれた。


ワンピースのサイズが小さいので、やはりこの部屋は女の子が使用していたのだろう。


「……なんで子供のおもちゃが」


私は赤野が手にしているカエルを見つめた。


カエルはゴム製のフィギュアで、本物そっくりに作られていた。




【カエルのフィギュアを手に入れた】




「マッチがありました 」


後ろから声を掛けて来た塚本は、芋虫のような指が5本生えた手で小さな箱を手渡してきた。




【マッチを手に入れた】




中を確認すると2本の赤いマッチが入っていた。


慎重に使わないと真っ暗な部屋を調べる事が出来なくなってしまう。


「そっちの台からは何か見つかった?」


赤野に言われ、発見したものを2人に見せる為に、ドレッサーの上を片付ける。


マニキュアや香水などを端に寄せ、アロマキャンドルと紫色の本とマッチ箱を置く。


すると赤野がカエルのフィギュアをアロマキャンドルの隣に置いた。


「今すぐ使えそうなのはアロマキャンドルとマッチだけね。今まで本は本棚がある部屋にしかなかったから、気になるし持って行こうと思うの」


「カエルは?」


「カエルも、不自然だから持って行きましょ」


紫色の本は塚本が持ち、カエルは赤野が、私はマッチとアロマキャンドルを持つことにした。




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