上にご注意
ドレッサーの上を元に戻す。
マニキュアを並べ、ヘアブラシもあった場所に置く。
香水を元に戻そうと手に取ると違和感を覚え、香水を顔の高さまで持ち上げて観察する。
すると白い半透明の紙のような異物が香水の中に浮遊していた。
最初は古くなって成分が浮遊しているのかと思ったが、大き目の浮遊物に集中して観察すると繊維の様な線が表面に見えた。
どうやら植物が浸かっているようだ。
「……これ、きっと毒だわ」
二人が見えるように、毒薬が入っていると思われる香水の小瓶を突き出す。
「毒ッ!?」
驚いた塚本は持っていた紫色の本を落としてしまった。
偶然にも落ちた衝撃で、先ほど私が読んだスズランのページが開かれた。
私は見開きになった紫色の本を指差しす。
「スズランには毒が含まれているみたいで、花びらを水に浸してるだけで毒薬が作れるみたい。浮遊物がスズランじゃなくても、きっとこの小瓶の中に入っているのは毒を持った何かの花びらね 」
塚本は短い腕を伸ばし見開きになった本を拾い上げ、スズランの記事を読む。
「それ、持って行くの?」
赤野の言葉に私は黙って頷いた。
「何かに使えるかもしれないし」
私は丸い香水の小瓶をジャケットのポケットに入れた。
【スズランの毒を手に入れた】
かさばってしまうが、手で持って行くよりは荷物にならないだろう。
念の為、ドレッサーの上に置いてあるマニキュアの蓋を開けてハケでかき混ぜてみるが、ドロッとした液体が入っているだけで、本物のマニキュアのようだ。
この部屋はもう調べる所は無さそうだ。
「さぁ、真っ暗な部屋を調べに行きましょう」
私たちは探索を後回しにしていた真っ暗な部屋に向かった。
2本しかない貴重なマッチで慎重を擦り、薄ピンク色のアロマキャンドルに火を点ける。
扉を開けて一歩踏み込むと、柔らかい光がぼんやりと真っ暗な部屋を照らした。
今は甘い香りも優しい炎の光にも癒されない。
オレンジ色の光で辺りを照らすと、壁のくぼみに少し溶けた白いロウソクが置かれていた。
残り一本のマッチで火を点けるのはもったいないので、背伸びをして白いロウソクにアロマキャンドルの火を移す。
少し離れた壁のくぼみにもロウソクがあったので、それにも火を移す。
全てのロウソクに火を点けると、部屋全体が明るくなり、漸く調べられる状態になった。
「すごい本の量だ……」
塚本が天井まである背の高い本棚を見上げた。
仕切られた段には、びっしりと本が詰まっている。
部屋の中央には四角い机と椅子があり、机の上には火を移した白いロウソクとアロマキャンドルの炎が揺らめいていた。
3人は別々の本棚の前に立つ。
入り口から見て、手前の本棚を赤野が、中央を塚本が、1番奥を私が調べる事になった。
部屋には四角い机の両側に3つずつ、合計6つの本棚があり、見たところ私が調べた2つの本棚に変わった様子は見られなかった。
どこかに何かのスイッチが隠れていないか一つ一つ背表紙を指先で押して行くが、どの本も動く気配は無かった。
自分が調べた本棚には何もなかったが、再度調べてみると腰の高さの段に白い物を見つけた。
中腰になって本と本棚に挟まれた白い物を引っ張り出すと、2つ折りになった紙切れが出て来た。
「破かれた跡があるわ……」
【破られた日記②を手に入れた】
『お父さんもお母さんもわたしを見るとイヤな顔をした。
2人から生まれたはずなのに
わたしは2人と同じじゃなかった。
ほかの人とも同じじゃなかった。
みんなわたしをバケモノって言うの。
きもちわるいって』
私は日記の切れ端をスラックスの左ポケットにしまった。
「こっちは日記の切れ端を見つけたけど、そっちは何かあった?」
「俺の方もめぼしい物は……」
私の声に反応して背後の本棚の向こう側から塚本の声が返ってくる。
「こっちも……あ」
赤野が何かを発見したようだ。
私と塚本は赤野が調べている本棚に集まる。
「何があったの?」
手前の本棚を調べていた赤野は、しゃがみ込んで本棚の1番下の段を指差す。
「あった……と言うよりは、ここだけ一冊無いんだ」
赤野の言う通り、分厚い本と本の間に一冊分の隙間が出来ていた。
「ねぇ、塚本さんが持ってる毒の本、あそこに入るんじゃない?」
「確かに同じくらいの厚さですね」
赤野は塚本から受け取った紫色の本を、一冊分の隙間に宛てがう。
「あ、入る入る」
赤野が背表紙を押してやると、途中で止まる事なく紫色の本は、すーっと奥まで進み、ぴったりと隙間に収まった。
ズズッ……
何かの音が聞こえたかと思うと、本棚が吐き出す様に一番上の段から分厚い本を落とした。
「あっ!!」
反応は出来たが、斜め前に塚本が立っていたのと少し距離があるせいで、分厚い本の角がしゃがみ込んでいた赤野の頭に直撃してしまった。
「イデッ!!」
しゃがみ込んでいた赤野は頭を抱える様に押さえ、更に小さくなる。
「大丈夫!?」
「大丈夫かい!?」
私と塚本の声が重なる。
「血ぃ……出てない……?」
赤野が頭を見せてきたので、私よりも前に立っていた塚本が屈んで覗き込む。
太い指で赤野の髪の毛を掻き分けて、頭皮の出血箇所が無いか探す。
「赤くなってるけど、血は出てないよ。ただ冷やせないから、腫れちゃうね」
「いてぇ……これ? 落ちてきたの……」
赤野は側に落ちている緑色の分厚い本を拾い上げる。
「何の本?」
声を掛けると、赤野は私に分厚い本を突き出した。
「ムカつくから、俺は読まない」
よほど頭に直撃したのが痛かったのだろう。
眉を寄せ、瞳には怒りが宿っていた。
「情報は共有したいから」
私は先ほど見つけた日記の切れ端を赤野に差し出し、代わりに分厚い本を受け取った。
分厚い本は今までの本とは違い、背表紙も前も後ろも文字は書かれていなかった。
これではどちらが表紙が分からない。
試しに表紙をめくってみると白紙のページの上部に逆さまで『341』と書かれていたので、私は裏表紙を開いてしまったのだと気付く。
私は本を持ち替え、今度こそ表紙を開く。
『日誌』と綺麗な細い字がページの中央に書かれていた。
ただ、今まで見つけた日誌とは違い、バラの紋章は無かった。
『体が弱いお嬢様は空気の綺麗なこの森の屋敷に来られてから、悪戯が目立つ様になりました。 何度注意しても直らないので困っています』
お嬢様と呼んでいるということは、この日誌を書いたのはメイドや執事なのだろう。
ページをめくる。
『家族と離れて暮らすお嬢様に対してあまり強く言えない私のせいなのですが、どうしたら悪戯を止めてもらえるのか考える毎日です』
このお嬢様はおてんば娘だったのだろう。
『お嬢様の為に花を買いました。
小さな紫色の花を咲かせ、実をつけるそうです。
これでお嬢様が元気になれば、商人から高値で購入した甲斐があります』
またページをペラペラとめくる。
『今日はまたカギをワイングラスの中に入れていました。
グラスを傾けると唇の先に異物感を覚え「まただ」と思いました。
この前は私のカエルが隠されていてしまいました。
お嬢様の寝室を掃除していた時にクローゼットの中から出てきた時はため息が出ました』
先ほど赤野が発見したカエルの事だとすると、何処かのワイングラスにはカギが入っているかもしれない。
「そのカエルは、この日誌を書いた人の物みたい 」
私はカエルの文章を指差して、二人に見せる。
「ワイングラスは下の食堂にあったよね 」
赤野が文章に目を走らせてから私を見た。
私はその言葉に頷き、一階の食堂にあった大きなテーブルの上の状態を思い出す。
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