第一階
イバラの部屋
「失礼しまーす……」
ゆっくりと扉を押し開け、屋敷の中に入る。
外からの明かりしか頼りがない。
目の前が暗い色の壁で左右に廊下が伸びているのが分かるが、それ以外は暗くてよく見えない。
「……ご、ごめんくださ~い」
やはりこの屋敷は廃墟で、誰も居ないのだろうか……。
扉から手を離し、一歩二歩と様子を窺いながら足を進める。
――バタンッ!
「きゃっ!?」
目の前が真っ暗になり、扉が閉まったのだと理解する。
私は慌てて数歩後ろの扉に戻り、外に出ようと必死にドアノブを動かす。
だが外側からカギを掛けられてしまっているのか、ガチャガチャ音がするだけで開けられなかった。
二宮の仕業かと思ったが、彼がこんなくだらない事をするはずがないと思い直す。
「二宮ぁー!? そこに居るんでしょ!? カギが掛かってて開けられないの! 開けてもらえるー!?」
力任せにバンバン叩いても、扉はびくともしない。
「二宮ぁー! 居ないのーっ!?」
何度呼んでも二宮からの返事は無かった。
私は諦めて、明かりを探すことにした。
何かないかと中身を思い出しながらポケットの中を探る。
すると突然、目の前が明るくなった。
反射的に明るくなった背後を振り返ると、壁のくぼみに置かれた白いロウソクの炎がゆらゆらと揺れていた。
廊下にも同じ様にロウソクの炎が揺らめいていた。
そのお陰で玄関と向き合うように扉がひとつ、廊下に幾つかの扉がある事が分かった。
ポケットから取り出したスマホをしまう。
誰かが居るかもしれないと僅かな可能性に期待をして玄関から離れ、茶色い扉の前に立つ。
――ギェェェエエエッ!!!
「ひぃッ!? 」
ドアノブに伸ばした手を引っ込める。
聞いた事のない奇妙な呻き声は、右側から聞こえた。
呻き声の響きぐあいからして屋敷の中ではなく、外からだろう。
「何なの……」
人ではない、何かバケモノの様な声。
この街に戻って来た時、この森に入ってはいけないと奇妙な噂が流れていた。
その噂は警視庁内でも知らない人は居ないくらい当たり前のものだった。
やはり噂の通り、この場所は危険なのかもしれない。
早くここから出なくてはいけないが、玄関が開かないのでカギを探さなくてはならない。
――ギェェエエエッ ギェェェエエエッ
再び呻き声が聞こえる。
一刻も早く、この屋敷から出ないと、声の主に殺されてしまうかもしれない。
目の前のドアノブに再び手を伸ばし、ゆっくりと扉を開けた。
「うっ……ひどい臭い……」
廊下と同じように壁の窪みで揺れる炎が、正方形の部屋を照らしていた。
臭いの原因は部屋の中央に置いてある肉塊だった。
絨毯が敷かれた床に血液が染み込んでいるが、乾いた上に新たな血が広がったみたいに血痕が重なっているように見える。
「ただの屋敷じゃなさそうね……」
石壁には鋭い棘が無数に生えたイバラが壁を埋め尽くし、いくつかのイバラの先は中心の血だまりに浮かぶ肉塊に向かって伸びていた。
不気味な部屋を見回していると、私は目の前の壁に貼り紙があるのを発見する。
【イバラに注意】
「イバラが……殺した?」
有り得ない思考に、頭を振って正気に戻る。
だが捨てた思考を、すぐに拾わざるを得なくなった。
壁に張り付くイバラがピクピクと動いたように見えたからだ。
イバラの先がナイフのように鋭くなり、壁から剥がれてきているような気がする。
「まさか、この肉塊って……本当にイバラが刺殺したって事!?」
いや、そんな、まさか。
きっと殺人鬼が複数の人間をここで殺して放置していたのだ。
私たち警察が来たから慌ててこの屋敷の中のどこかに逃げたに違いない。
きっと、そう。
私はバケモノの存在を信じてしまっている思考を無理やり捨てた。
「私は警察……。非科学的なものは信じない」
警察として、この肉塊を調べることにした。
私は扉から離れ、肉塊の傍にしゃがみ込む。
近付くと臭いが強まった。
ハンカチで鼻と口を押える。
「性別も、人間かも分からないわね……」
私は肉塊に手を伸ばした。
――メキメキメキメキィ……
何かが剥がれるような、無理に動かしているような、そんな音が部屋に響く。
何かが歩いているのか?
そう思って顔を上げると、視界には信じられない光景が広がっていた。
石壁に張り付いていたイバラが動き出し、剥がれたイバラの先が私を見下ろしていた。
おかしな思考だと無理やり捨てていたが、殺人鬼ではなくイバラが肉塊の命を奪ったのだ。
「ひぃ!!」
蛇の様なイバラに睨まれた私は慌てて立ち上がり、扉に飛び付いた。
「開かないッ!!」
ドアノブを何度回しても、扉には鍵が掛かってしまっていて開くことは無かった。
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A【逃げるのを諦める】
B【助けを呼ぶ】
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