死者の唄
第10話
お雪は男女の区別がある事を知っていた。だが仲のよい男子はおろか、集落には友達と呼べる者すらもいなかった。それが常態だったから慣れていた事ではある。男女のお付き合いなるものは、物語の中の幻想物とほぼ同じものと彼女は認識していた。
集落の中では幼子同士が遊ぶ光景すらお雪は滅多に見なかった。時々見かける男子は、齢は不明だが小柄な彼女よりもさらに背が低く、時折袖の裾から覗く腕は細く手は小さく肌は乾いた様子で、小さな口からは言葉をほぼ発しない。彼らの目は大体が少し虚ろに見えた。
下層の家々の子供はほぼ男児で、お雪だけが唯一の幼い娘のようだった。
お雪に対しては、齢の近い子供よりもむしろ大人の方が頻繁に接近し関わってくる。
昨年のある時、集落の中で一人の男児が躓いて転んだのでお雪は傍に寄って手を貸そうとした――すると、彼女はすぐ近くにいた親らしき女性から怒鳴り散らされ滅茶苦茶に叱られた。
その時にお雪は何の悪しき事をしたか分からず、何を具体的に言われたかもよく記憶していないが、よその家の子に触れるなとかそういう事のはずだった。その時に彼女は相手にひたすらに謝って許してもらえた。
また日常的に、井戸で水汲みをしている時に順番待ちの大人がいると、大抵は女性からだが早く済ませろと小言が来る。
お雪はそんな時も、とりあえず謝る。
――ごめんなさい、もうすぐ済みますと釈明するのが常であり、最近ではそれを避けるためになるべく人がいない朝早くの時刻を見極めて水汲みに行く事も多くなっていた。
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