第3話

 お雪は外で自由に遊んだが、母は幾つかの場所で遊ぶ事を娘に強く禁じた。

 一つは集落を治める頭領の一家の者達が住む地区で、彼らは塩の分配等の重要な仕事を仕切り、この集落にしては造り立派な家々に住む。お雪は用事を言い付けられて行」く事もあったが、遊ぶ場所では無いと念を押されていた。人の身分と住む区域は、厳格な形で上下の層に隔てられていた。お雪は自らが下の身分に属する事をよく知っていた。

 二つ目は荒野の中の一つの丘だった。そこには小さな木造の小屋がぽつんと一つある。横長で高さがなく、人が住む気配は無い。そのすぐ傍には一本だけ枯れ木が立ち、葉の茂りをお雪は一度も見た事が無い。枯れ木は細かい枝をたくさん伸ばし、小屋の屋根の上方を覆っていた。小屋の戸には網目がある事が、遠くからでもお雪には僅かに判別できた。

 その小屋がある丘は、頭領達の家の北西側に向けて集落を出た辺りに位置していた。

 三つ目の場所は同じく一つの丘であったが、お雪の家から割と近い場所だった。集落を離れる方向に家を南西寄りに出て、幾つかの丘を越えると三本の背の高い木々が揃えたように直立して並ぶ。その並ぶ線を越えぬようにと母は娘に教えた。

「あの三本の木に特別な意味は無いけれども、目立つから目印にしな」

 とにかく遠くには行かぬように――そのような意味で言われているとお雪は解釈した。

 荒野では木が孤立して生えている事は稀で、特に集落の周辺では見つけられると燃料にするためにすぐに伐られた。山麓まで行かないと高く育った木は中々ない。

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