第22話 外伝、セバスとパトリックの幸せと。

「私は、どうやら不能だそうです」


『あぁ、実は俺もだ』


 ヴィクトリア様は勿論、クララにまで結婚を心配されていた私達は、とうとう医師の診断を受ける事に。


 何処かで分かっていた、この結果を。。

 女性を見るだけであの光景を思い出してしまい、どうしても出産に関わる事は想像すら出来ずにいた。


 分かっていた。


 自分はあまりに脆く、弱く、自信も無い。

 そして家庭を持とうと言う希望も無い。


 それはパトリック様も同じで、けれどもどうする事も出来無いまま。


 ヴィクトリア様以外の女性と関わる事が、酷く億劫で、時に逃げ出したくなってしまう。

 けれど、ヴィクトリア様が向き合い克服したからこそ、私達も越えねばならないと。


 そう思っては居るのだけれど。


「どう、しましょうか」


『もう、男色家になったとでも言うしか無いだろうな、相手が居ないよりはマシだとは思ってくれるだろう』


 嘘は時に悪であり、正義でも有る。

 私達の思いを真っ直ぐに伝える方が、今は悪となる。


 彼らにも誰にもどうしようも無い事、それを伝える利は無い。


 コレは、正しい嘘。

 仕方の無い事。


「そうですね」

『ただな、どう確かめたんだ、となりそうだと思ってな』


「あぁ、相手を紹介しろ、とも言われそうですしね」


『もう、俺らがデキてる事にするか』


「まぁ、見知らぬ者よりはマシかと」


 アレクサンドリア様に前世の記憶が無い事を、今は寧ろ感謝している、そして永遠に前世の記憶が失われたままである事を祈っている。

 あんなモノを思い出しては、流石に愛が有っても、乗り越えられないでしょうから。


 女性の体も男性の体も、心に左右されるのですし。


『もう1つ、懸念事項が浮かんだぞ』

「何でしょう?」


『嘘では無いか、何かしら試しそうだ、特にクララがな』

「あぁ、母性が炸裂して庇護欲の権現と化してらっしゃいますからね」


『本当にな、子が無事に生まれるまでは愛する者に会いに行かない、とか言って』

「その方が記憶を持ってらっしゃったのも驚きでしたね」


『もしかすれば、誰かの願いが叶えられての事かも知れんな』


「繰り返しを願う者、ですか」

『いや、最初の段階で繰り返したがった者の数だけ、繰り返されたのかも知れん、とな』


「あぁ、それで最後の最後で我々が。となると」

『あぁ、そして最初はアレクの願いかも知れないな、と。もしやり直せるならと、皇帝としても思ってくれていたなら、とな』


「ですが、随分と最後に叶いましたね」

『償いも込められていたなら、流石に俺も少しは許せるな』


「ですね、何度も苦しんだ者が同一人物なら、ですが」

『あのユノは、今考えると似た別人達が乗り移っていた時期が有るのかも知れないと思っているんだが、どうだ』


「あぁ、ですね、私の知るユノとヴィクトリア様の知るユノは違いましたし。今回も、ですが、名が一緒ですし」

『合言葉なのかも知れん、それか名だけ思い出せず、浮かぶのはあの名だけ』


「だとしても、今回の様に、途中でもう少しマトモな者も居たのでは」

『居るには居たが、それか初回のユノへの復讐かも知れないな、ユノにもそれなりに苦しんで貰ったしな』


「でしたら、一体誰が」

『あのクソ女に別世界で男を取られた女の復讐、なら、何度も打首にされてざまぁ見ろと少しは思えるんだが。確かめる術がな』


「ですね、過去に戻りたくも無いですし」

『あぁ、だな』


「あ、どうしましょうか、偽装」

『裸で寝てる所でも見せれば良いんじゃないか』


「あー、そこまでしないとダメですかね」

『流石に風呂に入ってからだぞ』


「分かってますよ、私も入浴無しではベッドに入りたく無いですし。ただ」


『何だよ』

「こう、万が一にも反応してしまったら、非常に微妙だなと」


『あぁ、なら他で試してみれば良いだろ、本当に相手が出来る分には問題が無いんだ』


「まぁ、そうするのが1番ですよね」

『だろうな』


 こんな体になった事は、全く恨んではいないんですが。

 あの悪しきユノには是非にも、犠牲になった方の人数だけ生まれ変わり、常に苦しんで頂きたいですね。




《パトリック様とセバス様、実は出来てらっしゃるんですって》

『まぁ素敵、盟友でらっしゃるものね』

「ちょっ、それ本当なの?証拠は?」


《クララ様が教えて下さったの、正式に諦めなさいって》

『じゃあお祝いね』

「ちょっと、男色家よ?無益過ぎじゃない?」


『ふふふ、もう、若いのに古い考えね』

《そうよ、愛されたくても永遠に誰にも愛されないより、愛し合える者が居る方が幸せじゃない》

「けど、でも」


《まぁ、男色家を嫌うのも自由だし、行きましょう》

『そうね、じゃあ、後は任せるわ。いつもやってあげてるんだし、そろそろ恩を返して頂戴ね』

「ちょっ」


 私は今回、現地民の体に転生した。

 だから、今度こそパトリックと結ばれると思ったのに、男色家だったなんて。


 もう誰でも良いから、さっさと結婚しようかな。

 それか来訪者の時の方が楽だったし、また死んでみれば。


 でも痛いし苦しい、意外と失神って出来無いし。


『君、少し良いかな』


「はい?私ですか?」

『うん、君って来訪者だったよね』


 誰だろう、今まで見た事が無い人、けど綺麗。


 サラサラの黒髪で、なのに目は金色で、中性的な顔立ち。

 結婚してくれないかな。


「はい、実はそうだったんです」

『そう、有益な情報を持ってるなら、ウチに来てくれるかな』


「はい、喜んで」


 誰とも上手くいかなかったのとか、何度もやり直したのって、もしかしてこの出会いの為だったのかな。

 なら仕方が無いよね、それに今回は皆が生きてるんだし、失敗って誰にも有るし。


『はい、ココがウチだよ』


「あの、ココって神殿では」

『うん、そうだよ、私は異教の神だからね』


 どうしよう、変な人について来ちゃったな。


「あ、そうなんですか」

『あまり嬉しく無さそうだね、生前は神々や妖怪に見初められたいと思っていた筈なんだけど』


「まぁ、確かにそうでしたけど」

『やっと念願が叶うよ、さ、おいで』


 差し出された手に目をやると、掌に目が。


「そっ、本当に」

『君と違って嘘は言わない主義だからね、ユノ・ナダギは知り合いの名、そして既婚者から男を奪った報復で刺され転移した』


「そ、あ、それは人違いじゃ」

『この目はね、嘘を見抜けるんだよ。神々の会議によって君は排除される事になった、この世界は君を必要としていない、直ぐに死んでくれ』


 そして私は右の頬をビンタされ倒れ込み、意識を失った。




「パトリック様、侍女が失踪したそうで」

『あぁ、らしいが。レウス王子が来訪者ユノに相談したら、どうやら転移したんじゃないか、とな』


「転移、ですか」

『来訪者が来るなら、もしかすればココの者が来訪者となる、かも知れないとな』


「あぁ、確かに」


『っつか、良いのか、本当に俺らがデキてるってなったぞ』

「別に、寧ろ女性からの誘いが無くなったので楽ですが、今度は男からの誘いが。どうしてますか?対処」


『お前だけだって事にしてるわ』

「あぁ、じゃあ私もそうしておきますね」


『おう』

「では、それらしく、何処かに食事にでも行きましょうか」


『だな』

「警備隊本部の前の食堂、美味しいらしいですよ」


『あぁ、じゃあそこで』

「では、近道はコッチですよ」


 存外、パトリックと居るのが楽で困る。

 万が一にも反応してしまったら、流石に関係性が壊れそうだしな。


 このまま、無反応のままで居てくれると良いんだが。


 あぁ、神頼みでもするか。


『なぁ、帰りに神殿に行くか』


「流石に、式を挙げるのはどうかと」

『違うわアホか、神頼みするんだよ』


 もう、今後は楽な人生になりますように、もう繰り返しませんように。


「あぁ、良いですね、行きましょう」


 ただ、この世の神は悪戯が好きらしく。


『すまん』

「いえ」


 誰かが死ぬだ戦争だ、物騒な事が無いから良いんだが。

 コレは、少し困るぞ、非常に厄介だ。

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