第18話 約束。
私を納得させる為の約束が決まった、と。
目の前には殿下、そしてレウス王子と正妃様。
そして先ずは、セバスが私の前に出ると、紙を。
「私からの提案はコチラです」
セバスからの提案は、もし殿下が他に心を移した時は、私では無く敢えてセバスがじっくりと殺す。
この事は殿下には内密に、その方が本当に裏切った時に効果が有るだろうから、と。
コレは効果の事は勿論なのですが、私を守る為にもセバスが手を下してくれると言う事。
そして私の味方でも有る、と。
「分かりました、ありがとうございます」
『次は俺だな、治世を乱せば俺が殺し、このレウス王子がヴィクトリア嬢を皇妃に据え皇帝を選ぶ』
「はい、ありがとうございます」
《では私の案はコチラです》
子に苦労を掛けたなら、クララが殿下を殺す。
今だからこそ分かりますが、多分、本気でクララは殿下を刺せます。
母性が余ってしまっているので、出来るだけ早く私もお相手を決めるべきだとは思うのですが。
「分かりました、宜しくお願いしますね、クララ」
《はい》
「それと、私から改めて謝罪させて下さい。あるべき夫婦の形を知らず、違和感に気付けませんでした、どうか罰をお与え下さい」
「そんな、セバス」
「自らの境遇を軽んじた結果も甚大で有ると考えています。それと、来訪者を
「そう、ありがとう」
「いえ、どうか罰を、お願い致します」
『僕も頼むよヴィクトリア、僕らは同罪なんだ、僕はあるべき夫婦の姿を知りながら婚約者候補達に正面から向き合わなかった。甘えていたんだ、すまない』
殿下は、まるで褒めて貰える事を期待する子供の様に、キラキラと。
「では、同じ方法が宜しいですか?」
「いえ、どちらでも、全てお任せいたします」
『うん、頼むねヴィクトリア』
殿下を傷付けたい、復讐したい気持ちは有るのですが。
こう、正妃様の様に上手に懲罰を考える事は不得手でして。
「分かりました、追って沙汰をお知らせします」
「はい」
『ありがとうヴィクトリア』
『じゃあ、俺達は下がるわ』
『だな』
「はい、ありがとうございました」
何だかもう私は、寧ろ殿下を罰しない事の方が、悪い事なのかと。
《ふふふ、そうね》
「あの、正妃様、そうね、と申されましても」
《だって、真に傷付かれたら嫌でしょう?》
「でも、私の願いと言うか」
《叱られたら喜ぶなら、褒めてあげれば良いじゃない?》
「成程?でも、そうすると、逆に不安になるかと」
《あまり不安になる様なら叱ってあげたら?》
「あぁ、まぁ、それなら、ですけど」
《ふふふ、アナタの形に合い始めたのよ、変化と言うよりコレは夫婦なら当たり前の事。アナタの好きな味付けに合わせてくれているだけ》
「あの、まだ夫婦では」
《まだ?》
「そ、コレは言葉の」
《はいはい、ふふふふ》
「クララ」
《合わせない方がどうかしていたのです、幾ら皇帝でも夫、
《アナタはすっかり形が合った後の夫婦の元に生まれた、ならその前は分からないでしょう、嘗てはご両親もそうだった筈よ》
「では、正妃様とレウス王子も?」
《それが、偶々ピッタリだったのよね、最初から》
《世の中は相性と言うモノが御座います、正妃様とレウス王子は火と油、若しくは火とお肉。ですがお嬢様と殿下はお魚とお水、旨味を引き出すにはじっくり煮込み、味を引き出さなくてはなりません。そして灰汁取りや火加減を間違えば臭みが出ますし、味も落ちます。ですが、それは悪い事では無いのです。寧ろ王妃様方が非常に珍しいんです、世の中の者はそうして摺り合わせながら、夫婦として共に生活していくのです》
《流石、元既婚者だわ、さっさと結婚なさいよ?あまり頑なだと今度はヴィクトリアが無理をしてしまうわよ》
《お嬢様、私はお嬢様に滅びの道を歩ま》
《それは違うわよ、アナタも勘違いしたままなのね、聞いていたでしょう?来訪者が8割悪い》
《ですが、皇妃の道のみが正しい、と》
《そこだけよ、でも私は間違って無いと思うの、最高位が欲する才能を持っている子なのだもの。国を思えばこそ、良き者を上に推し進めるのも下の者の務め、アナタは正しかったのよクララ》
《ですが、私は、死んで欲しくなど無かったのです、愛され、幸福に》
《私も信じているし、ヴィクトリアも信じているでしょう?》
「はい、勿論です、でも全然聞き入れてくれないんですが、その気持ちも分かります。自分を許してしまったら、幸せになってしまう、自分だけが幸せになるのが嫌なのよね?」
《もし、そうなってしまったらと思うと》
《そこは私達を信用して貰うしか無いわね、クララにも、ヴィクトリアにも》
「私達は、許し合う必要が有りそうですね、先ず私はクララを許します、クララは?」
《勿論、お嬢様が幸せにならない事の方が、私は許せません》
「同じね、ふふふ」
《宜しいんですか、お嬢様》
「クララが思うように、私も思っているんだもの、勿論よ」
お嬢様の優しさ、賢さを感じる度。
堪らなく悔しいのです、どうしてあの様な者を庇ったのか、どうして死なせてしまったのか。
《人との関係はとても繊細だわ、国が関われば尚更。2人共、恨むなら来訪者よ、割合を間違えないで》
《頭では分かっているのですが、こう、来訪者様の顔も何も》
《あぁ、そこはもうパトリックね、行きましょう?》
私は、お嬢様と同じく、正しく恨み正しく後悔し。
正しく生きたい。
《はい》
正しく恨む為にも、来訪者の詳しい情報を聞きたい、と侍女のクララがパトリック様を尋ねてらっしゃった。
そして私も、殿下と共に同席する事に。
『やはり難しいか、来訪者が8割悪いと思うのは』
《はい、申し訳御座いません》
『いや、全く知らないなら仕方が無い。アレはな、真反対だった』
豊満で下品で馴れ馴れしい。
老いた大臣にすら手を出し、しかもそうした事にも慣れている、と。
《ですからパトリック様は余計に許せなかったのですね》
『寧ろ、俺よりセバスだろうな、なぁセバス』
「はい」
私にとって皇帝の不貞は、裏切りでしかありません。
先代皇帝と皇妃が勧めた者を裏切るなど、先代と国を、民を裏切ったも同然です。
ですが、もしかすれば何か策が有るのでは、と。
私としては期待を込めて、敢えて誑し込まれたフリをなさっているのだろう、と。
《まさか、仲が良いワケでは無かったとは》
「はい、先日言った通り、まさか何も無いとは思ってはいませんでした」
『ヴィクトリア嬢も平気そうな態度だったし、実際にも、子が出来るなら良いとすら思ってたらしい。せめてもの救いだったと思う反面、だからこそ娶ったのかとも思ったな、お前が好き勝手する為に娶ったのかと』
「はい」
《はい、それは私もで御座います》
『すまない、僕でもそう思う』
《そしてお嬢様もで御座います、ご自分の体の事を、今でも気にしてらっしゃいます》
『豊満だったからな』
「はい」
『本当に、殺してしまいたい』
『殺すなら来訪者、あぁ、もし同じ来訪者ユノが来たなら尋問すべきだろうな。実際に行為に至ったのか、確認が出来るしな』
《それは》
『来訪者との逢瀬に立ち会いをしていたのは敵側、コチラ側では無い者だったからな、未だに俺でも暴けてはいないんだ』
「失礼ですが、何に手間取ってらっしゃったのでしょう」
『近隣諸国だ、来訪者は回を重ねる毎に悪質になっていった、間者を見つけ出し諸外国に自分の存在を漏洩させ俺の手を煩わせまくった。俺も最初は陛下にも何か策が有るのかと思った事も有ったが、殆どの場合は国の利よりも自らの利を優先させていた、皇妃の嫉妬と激情を求めていた。だが良く考えてみろ、皇妃だからこそ無理なのだと、アレはそこを無視していたんだ』
「もう、既に破綻してらっしゃったのでしょうか」
『いやギリギリの状態を来訪者が崩した、相当に煽ったんだろうよ、お前達すら使ってな』
「私、ですか」
『皇帝とて多忙だ、しかも近隣諸国からの圧力にも対応しつつ、来訪者が予言した干ばつの対応もしなければならなかった。皇帝と皇妃が別々に対応し仕事をこなさなければならない、だが干ばつは嘘だ、付け入る隙を作る為の工作。しかも今回は既に皇帝が対処を済ませている、そうした事を明かさず、尋問する予定だ』
「もし、中身が同一人物であるなら、ですね」
『あぁ、人と相対する事に特化していたからな、別人だったのか同一人物だったのかは分からん』
そして、私達には新たな疑問が湧き出ました。
来訪者は一体、何がしたかったのか、と。
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