第2話 宝くじ買う気分で始めました。 2

 ブラックアウトしていた視界が閃光で包まれ、ゆっくりと瞬きをする。


 そうすると、瞬きのたびに光景が明滅するように目に飛び込んできて、瞬きをやめ目を見開いた瞬間、ゲームは始まった。

 

 そこは中世ヨーロッパの教会の神殿のような石造りの建物。

 

 周囲を伺いと、自分と同じようにゲームを始めたばかりの人の分身のキャラクターたちがウロウロとうろついたり、立ち尽くしたりしている。

 

 キャラクターたちの姿は様々だ。

 

 それは鉄の鎧を着込んだ重装歩兵の騎士だったり。

 はたまた、ローブととんがり帽子姿の魔術師だったり。

 

 そして、そんな視界の端の空中に、文字の書かれた羊皮紙のようなアイコンがあり、手を伸ばし、指先でタップする。

 

 すると、ピコン、という電子音と共にゲームのステータス兼メニュー画面が視界で誕生した。

 

 ステータス画面にはキャラの名前や性別、職業、そして攻撃力や魔力など、様々な項目が表示されている。

 

 じっくりと、えもしれぬ高揚が持ち上がってくる。

 

 プレイヤー、ロキはそんな感じで、このVRMMOゲーム「ミストルティン・オンライン」の世界に降り立った。


 VRMMOゲームが普及して、はや数年。

 ゲーム業界は今、まさにVRMMOゲームの戦国時代だった。

 

 その群雄割拠の戦国時代の中、天下統一、覇権ゲームに最も近いと言われるゲーム、それがプレイヤー、ロキがたった今開始したゲーム「ミストルティン・オンライン」だった。

 

 色々な要素のあるゲームだが、このゲームにはある特徴がある。それは、このゲームには全ユーザー共通のメインストーリーがあり、全ユーザーで協力してクリアストーリーを進行させていくゲームだということだ。



 運営の触れ込みでは、このゲームには全プレイヤー共通の共有ストーリーがあり、各プレイヤーが特定のイベントを進めるごとに、ゲーム全体のストーリーが進行する仕組みで、ゲームのユーザー全員で協力してこのゲームをクリアしてくださいというものだった。


 メインシナリオに関するイベントをユーザーの誰かがクリアすると、ゲーム全体にアップデートが入り、ゲーム全体の世界に変化が訪れる。


 そんな感じで、ユーザー全員でクリアを目指すゲームなのである。


 そんなこのゲーム、最初は平和なものだったが、とある出来事によって状況は一変する。


 アラブの熱狂的なゲーム好きの石油王の子供が、このゲームのクリアに懸賞金を立てたのだ。


 ゲームのストーリーを進める特別なイベントをクリアしたプレイヤーにはそれぞれ数万ドル。


 そして、最終的なゲームクリアイベントをクリアしたプレイヤーには百万ドルの懸賞金が建てられたのである。



 当然、賞金目当てでユーザーは激増。最近ではYOUTUBERで、このゲームのプロを名乗る攻略するためのプレイ動画をアップするものもちらほらおり、ゲームは活況を呈している。


 そして、プレイヤー、ロキはそんな熱狂に感化されてこのゲームを始めたみた一人だった。

 

 プレイヤー、ロキは現実ではただの一介男子高校生。

 

 特別な肩書きのない、平凡な一般人だ。

 

 ゲームを始めた目的は、もちろんこのゲームのクリア。そして、懸賞金をゲットすること。


 …まあ、巷では一攫千金を夢見てガチ勢と言われる本気のユーザーもいるのだが、ロキは偶然遊んでたらクリアできて、お金をもらえればいいなぁ、とか宝くじを当たればいいなと買う感じで全然お気楽な感じで、ガチ勢に失礼な感じなのだが。

 

 ロキの視界の端に、煌々と光が差し込む出口のような開け放たれた扉があった。

 

 そこを目指して、立ち尽くす他ユーザーのキャラを避けながら進んでいく。

 

 事前に、攻略サイトで下見していたので、まずは最初の街、この神殿のある初心者冒険者の町、ミストガンドに降り立つことにする。

 

 この扉の先がそのはずだ。

 ゆっくりと、そんな感じでロキはゲームを開始した。

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