王子様、本日の姫様はこちらです

わたあめ

王子様、本日の姫様はこちらです

「ルーク様、本日はブリリアント王国のスターシャ姫がお見えになられます」


 俺の名前はルーク・フォン・フォレスティア。大陸で最も強国とされるフォレスティア王国の王子だ。容姿端麗、頭脳明晰、そんな俺には毎日、隣国の姫君が婚約を求めてやって来る。


「そうか、準備せよ」


 だが、一つだけ悩みがある。


「いえ……それがもう来ていまして」


「ルーク様ぁ私と婚約しなさってぇー!」


 婚約者が中々決まらないことだ。


「何故ぇ、わたくしを無視されるのですかぁ、ルーク様っぁ!」


「バカもの、形式という物を知らんのか」


「形式なんてものっ! わたくし達の愛の力によれば必要ありません!」


「それが後の王妃となれば大国の名が廃る。それに俺はスターシャ姫、君を愛していない」


「そんなぁ! ルーク様はわたくしを愛しておりますしぃ、わたくしもルーク様のことを愛しているはずですぅっ!」


「話にならん。下がって貰おう」


「ルーク様ぁ?」


「承知しました。ではスターシャ姫、お帰りください」


「いえ。私はルーク様ぁのグシッ」


「お帰りください……お帰りましょう」


「頼んだぞ」


「お任せください」


「ルーク様ルーク様ルーク様ルーク様ルーク様ルーークさまぁぁ!!」




「ルーク様、本日はオラムタ共和国のマリータ姫がお見えです」


「そうか、準備せよ」


「準備はもう終わっています。応接室で待たれていいますので、向かいましょう」



「待たせたな、マリータ姫」


「いえ、ルーク様あなたの為なら幾らでも待ちますとも、ええ」


「感謝する」


「それで胸ばかり見て、どうされたのですか?」


「随分と奇抜な姿だなと思っただけだ、気を悪くしたのならすまない」


「ふふ、こう見えても本国の正式な衣装です。ですが、ルーク様ならここに甘えても良いですよ」


「マリータ姫、俺を篭絡する気か」


「違います、共に歩もう。ということです」


「頂点は孤高であり、最善の道を臣下と民に見せねばならぬ。そこに二つの者が並べば、迷いと混乱が起こるだけだ」


「それではいつか、壊れてしまいます」


「それが、俺の王道だ」


「私の並ぶ場所は無いと言うのですね」


「ああ、さらばだ。マリータ姫」


「マリータ姫、こちらからお帰りください」


「ええ、ありがとう」




「ルーク様、本日はエレイシア王国のブリティッシュラングロングフォイロイトサランガガマチョンドルトソーソー姫がお見えです」


「帰って貰え」


「とても聡明な方なのです。ぜひ、一度だけでもお会いになられては?」


「ふむ。そこまで言うなら仕方ない」



「初めまして、ブリティッシュラングロングフォイロイトサランガガマチョンドルトソーソー・フォン・エレイシアと申します」


「まず聞こう。その長い名はなんだ」


「これは我が父、エレイシア王が様々な意味を込めて名付けてくれたものです」


「その名で不便ではないのか?」


「父が授けてくれた名前、一つ一つの意味も知っています。不便などという気持ちはありません。不便、と言えば、貴方様の方がその名に捕らわれてるのではなくて?」


「それは、どういうことだ?」


「フォレスティア、その名に生まれたばかりに貴方様はもう、国に身を捧げています。もし、名前が一文字違っていれば貴方様は今とは別人。例えば、私の名前が”便利”な物だったとして、生まれたとしましょう。それでこの場に立つ私はいるのでしょうか。名前により、元ある生き方を規制されてしまう。それならば名前など、重要なのでしょうか」


「一理ある。だが、俺はもしもの人間ではない。ルーク・フォン・フォレスティアとして生まれてきた。ここまで、俺は、国の力を吸って生きている。ならば、この身を国に捧げることで、この国は完成に近づく。」


「吸って吸って、そのまま逃げることは出来ないのですか」


「少々意味が違うが、ノブレスオブリージュ。これまで俺は、王子として与えられたものを精算したと思えるほど、社会に還元できたとは思わない。自己が満足するその日まで俺はこの身を捧げ続ける」


「私、婚約するなら気楽な人が良いんですよね」


「俺も、婚約するなら短い名前の者がいい」


「では、こちらからお帰りください」




「ルーク様、本日はアルテイヤ共和国のティーナ姫がお見えです」


「分かった、では行こう」


「本日はここでお会いになる予定です。既に扉の前でお待ちになられています」


「そうか。では入れ」


「失礼するよ」


「ああ」


「僕はティーナ、よろしくね」


「よろしく。それで、何故そのように笑う」


「ハハ、笑顔は女を美しくするからだよ。ほら王子様も笑ったら? カッコいい顔がさらによくなるよ。それに笑顔は幸運を呼ぶって言うしね」


「なら、俺には必要ない」


「自分は笑わなくても十分カッコいいっていいたいのかい」


「自分が平均以上の顔立ちなのは自覚している。だが、違う。幸運のところだ」


「不運がいいってことかな? 変わってるね」


「運などに任せるなど、邪道。計画された道を自分で作り、その道を偶々歩く。そこに民はついてくる」


「じゃあ君は笑わないのかな。それとも、笑いを知らないのかな」


「必要な時は笑う。それだけだ」


「それじゃ詰まらないじゃないか」


「面白さを求めるなら男は他にいるだろう」


「そうだね。そうさせて貰うよ」


「こちらからお帰りください」




「ルーク様、本日はミナテリス教国のサレン姫がお見えです」


「ああ」


「中庭のペンチでお待ちですので」


「分かった。行こう」

 


「久しいな、サレン」


「ええ、そうですね。ルーク様」


「それで、今日は何をしに来た」


「ルーク様の婚約者になるため……今の貴方なら、これを言っても信じませんよね?」


「ああ、俺も成長したからな」


「本当は、あの時以上の答えを見つけたので貴方に知って貰おうと思い来たのです」


「そうか、聞かせてみろ」


「まず、あの立派な木を見てください。私と貴方が最初に出会った時、あの木は萎びれていました」


「そうだな、いつ枯れても可笑しくなかった」


「ええ、それは当たり前です。元からここは植物を育てるのに適している土地ではないのですから」


「それは学者から聞いたことがある」


「では、何故あんなに元気なのでしょうか? 貴方は、私が別れ際になんと言ったか覚えていますか」


「神よ、この地に豊穣を、そう言ってたな」


「さすが、よく覚えていますね。つまりはルーク様、私が伝えたいのは”奇跡”です。神に一言お願いすれば、このような小さな奇跡が起きます。いえ、起こせるのです。たった一人の祈りでもこうなるのです。私と一緒にミナテリス教を世界に広めませんか?」


「本当に、昔の俺ならその”奇跡”を信じて、お前とこの国を歩んでいただろう。だが、遅すぎる」


「でも、どう見ても奇跡ですよ?」


「いや、奇跡なんてものはない。そこの木には俺が、学者に開発させた”農薬”という物を撒いている。サレンが祈ってから1年、奇跡など起きなかったが、”農薬”を撒いてからは途端に元気になった」


「そうなんですね、知りませんでした。でも私からすれば奇跡が起こったのです。だって、私から見れば祈ったら木が元気になっていたものですから。しかも、貴方の行動も、奇跡の産物かも知れませんよ?」


「それは、俺が俺の王道に近づけている証だ」


「ルーク様の言うことは、よく分かりませんね。また答え合わせは無しですか」


「それが奇跡だからな。それで、俺はお前が婚約者でいいと思っている。顔や性格は問題なし。王宮の中で生きていけるほどの悪知恵はある。後はお前次第だ」


「お断りします。貴方に最初、言いましたよね、貴方の婚約者になるために来たわけではないと」


「そうか、分かった。まさか、俺が振られるなんてな」


「ルーク様、私には神の名をこの世界に示す使命があるのです。貴方のもとで、神はいらないでしょう?」


「そうだ。今は未熟で神の名も使う。だが! いずれはこの世界に、神すらも霞むほどの輝きを! 奇跡を! この俺が見せてやろう!」


「では、ルーク様。さようなら」


「ああ、さようなら」


「戻りましょう。サレン様もお元気で」






「ふむ……今日の姫君はどこのどなたかな?」


「ルーク様、本日お会いして頂くのはこの私です」


 何を言う。お前は所詮、平民の金持ち程度だろう? その言葉は数いた姫君を思い返すと、砂のように飛び去っていく。


ああ、あんな奴らでも、俺の糧なのだな


微笑みながら伝える。


「色々準備しなきゃな。まずは大臣、その次は国王のところに向かうぞ」


王様、本日からの姫様はこちらですってな




















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