第9話

「………へっ? おっかない……? センカ様のお母様が……?」


 ボクは顔を離して重々しく頷いて返すと、「信じられません……」と声を漏らす。


 ステラのイメージしてた、ボクのお母さん像は違っていたんだね……だいぶ。


 うんうん、わかるよ。


 ボクもそうだったなぁ……まさかあの温厚で優しい母さんにあんな一面が—――って! 


 またボク、説明不足しちゃってるじゃん! 早く、誤解を解かないと!


「あ、あのねステラ! 違うんだよ! 普段はめちゃくちゃ優しいんだよ! ボクの母さん!」


「? ですが、おっかないと……」


「それは……その……」


 どうしよ……言いたくないなぁ……。ボクにとって一番、辛い時のことだから……。


 でも、言わないとお母さんが怖い人ってだけになっちゃう……。それは嫌だ……。


 なら—――頑張って話そう。


 声が震えたっていい。


 泣き始めたっていい。


 ステラはそんなことで見下す人なんかじゃない―――優しい人だ。


 ゲームをプレイしていてそのことは知っていたけど、それは上辺だけだ。


 だけど、今は違う。


 画面からステラという『キャラ』を俯瞰してるんじゃなくて、こうして直接会って一人の人間として時間を、感情を共有してる。


 そしてステラは—――本物だった。


 そう実感してるから、ボクは自分の過去を話そうと決意ができたんだと思う。


 よし! 覚悟ができてる内に話を……と、その前に……。


「スゥー……ハァ……」


「……?」


 突然、ボクが深呼吸をすると、ステラはキョトンとしていた。


 やっぱり、バカにされないとわかってはいても、心というのはボクの言うことを聞いてくれない。

 

 めちゃバクバクするし、お口の中が乾いちゃう。


 だけど、深呼吸を続けてると、段々と心臓の鼓動も落ち着き始め、やがて話す準備が整った。


「よし……。ステラ、さっきボクの母さんはおっかないって言ったんだけど、それには理由があるんだ」


「理由、ですか……?」


「うん……。二年前のことなんだけど……ボクはその……イジメられてたんだ……」


「………!? い、イジメられて……!? い、一体どうして!? だ、だってセンカ様は優しくて……温かい人なのに……どうして……」


 敬語を忘れるほど、激しく取り乱すステラ。


 まさか、ここまでボクのことを思ってると思ってなかったボクは、場違いな喜びを感じてしまった。


「ボクたちの世界では、男の子と女の子とで—――『許されているモノ』と『許されていないモノ』が、ハッキリわかれてるんだ」




〜あとがき〜


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