第5話

「……? 見せたいもの? ……ですか」


 うん、と頷いて手に持っているアネモネを見せる。


「今から―――魔法を発動するから、それならボクがセンカであってセンカでないと証明ができる」


「ですから私は信じると……! —――センカ様の魔法を、ですか……? えっ? だってセンカ様の魔法は……」


 元々センカの持つ魔法を知っているステラに、ボクはこの世界の魔法について順序立てて解説を始める。


「ステラが知ってるように、センカの魔法は全てを飲み込み吸収する『闇魔法』……そうだよね?」


「は、はい……。実際に発動するところを見ました……。私は以前のセンカ様にその性質を向上させるから付き合えと言われて……魔力を吸収されたり、私の魔法―――『水魔法』を模倣されました……それで……!」


 センカの魔法を確認する途中、自分の体を抱きしめて、震えを止めようとするステラ。うっすらと顔色も青白くなっている。


 その姿はまるで、恐怖を思い出しているようだった。否、思い出していた……本能的に。


 魔法について解説するつもりが、まさかステラのトラウマに踏み込んでしまった……、とボクは困惑する。


 そしてなぜ、少女がこんなにも怯えているか理解した。


 多分ステラは……水魔法で生成した水で窒息死させるほど水の中に閉じ込められたり、全身を水浸しにして寒空に放置されたりしたんだ……。


 グッと強く拳を握る。


 色んな酷い方法でイジメて……死ぬ直前まで追い詰めていたのかセンカは……!!


 どうしてボクは、もっと早く前世の記憶を取り戻せていなかった……!!


 クソ……チクショウ……!!


 非道なセンカに対しても、無力な自分に対して悔しさから怒りが湧き上がってくる。だけど、ふぅー、と息を吐いて冷静さを取り戻す。


 最善ではないと、ステラのためではないと……そう思ったから。


 違う……今ボクが一番にすることは怒って過ぎたことを悔やむことじゃない。


 今……ボクが一番にするべきことは—――


「……! せ、センカ様ぁああああああああ!!」


 ステラを抱きしめて、心から謝ることだった。


「ごめんね……ステラ。ボクがもっと……もっと早く『センカ』になっていれば……! ごめん……ごめんステラ……!」


 ギュッ、と更に力を入れて抱きしめる。


 ステラの体と記憶に焼き付いている『冷たさ』を温かさで忘れさせるように強く……強く……!


 すると、ステラの体温が急激に上がったように感じた。


 それに息遣いも荒い。ちゃんとボクの思いが伝わってる証拠だけど、ステラが苦しそうだ……。


 早く、証明しなければ……ステラの体がもたない!


「あ、あの……! センカ、様……! 私、もう……!!」


「うん、わかってる……! ステラの辛くて冷たい『過去の記憶』も、今のボクに対する『不信感』も……! そしてステラの異常な『体温』も—――今からこの魔法で解き放って見せる!」


「違いますっ!! そういう意味では—――」


「ハァアアアアッ!!」


 必殺技を繰り出す前のようなカッコいい声を出して、ボクは魔法を発動した。


 —――お花に向かって。




〜あとがき〜


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