第6話

 体の感覚を研ぎ澄まして、全身を駆け巡る魔力を感じながら魔法を放つ。


 力無く萎れていたアネモネは、ボクの魔法によって元気を取り戻し、ピンッと背筋を立てて咲き誇った。


 初めての魔法が無事、成功したボクは、「ふぅー」と胸を撫で下ろす。


「よかったー! ちゃんと元気になってくれて! 魔法なんて初めてだからちょっと不安だったんだよー! あははっ!」


「えっ……? ちょっ、えっ……? う、ウソ……せ、センカ様は闇魔法のはずなのに……どうして……?」


 ステラは驚きのあまりそんな言葉を漏らした。


 本物のセンカの闇魔法は、魔力を『吸収』して『模倣』する二つの性質がある。


 しかし、その性質があったとしても、ご覧の通りアネモネを元気にすることはできない。


 —――じゃあ、なぜボクがそんなことをできたのかというと……。


「ステラ」


「は、はいっ!」


 ぼーっと佇むステラの名前を呼ぶと、こちらも背筋と腕をピンとさせた。


 ボクはステラの手を取って、元気なったアネモネを渡す。


「せ、センカ様……」


「ステラはボクが闇魔法を使うと思ってるけど、今は違うよ。今のボクは—――水操作魔法だ」


「み、水操作魔法……?」


 可愛らしく小首を傾げるステラに、ボクは首を縦に振って肯定の意を示す。


「この世界に来てから何となくなんだけど……全身を透き通った暖かい何かが、駆け巡ってるような感じがしたんだ。それこそ、頭のてっぺんからつま先まで」


 今でも、その不思議な感覚はある。同時にとても心強い。


 おそらく、この満足感がセンカを間違った『自信』と『力』を得たと錯覚して、あの傲慢不遜で悪逆非道になってしまった原因だとボクは思った。


 だとしても、同情する気はないし、ボクはそうならない―――人であれ魔族であれ何であれ、誰かを傷つけることは絶対に嫌だから。


 それに『力』は大切な何かを守る手段の一つで、魔法は誰かを喜ばすものだしね。


 だからボクは絶対に―――センカのようになったりはしない。


 そう決意を固めていると、ステラはおそるおそる口を開く。


「それはおそらく……自身の魔力かと……」


「うん、ボクもすぐにわかったよ。多分、頭では覚えていなくても、体が覚えていたんだね。……でも、センカは闇魔法だから魔力も禍々しいはずなんだけど、全然違くて……」


 ボクは自分の手を見つめて、そこに意識を集中させて魔力を感じ取る。


 やっぱり、そうなのかな……。


 半信半疑だった自分の考えが、確信に変わるのを感じながら、トンデモ話をステラに告げる。


「だからボクは、こう思ったんだ。ボクとセンカは―――魂が入れ替わってるか、そもそもセンカの魂は消失してるかもって」


「……………はっ?」


 ステラの疑問の声は、「えっ?」から「はっ?」へと進化した。




〜あとがき〜


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