第2話 真相を追い求めて

早瀬拓也は、奇妙な現象に見舞われた後も、眼鏡男の正体を探ることを決意した。

彼の中には、真相を解明しなければならないという強い使命感が芽生えていた。


「藤村紀彦…彼の正体が分かれば、全ての謎が解けるはずだ」


早瀬は手がかりを求めて、藤村の目撃情報を集め始めた。

町の人々の証言を丹念に記録し、藤村の行動パターンを分析する。

そこから見えてきたのは、彼が町の特定の場所に頻繁に現れるという事実だった。


「あの廃墟となった寺院…あそこに何かあるのかもしれない」


廃墟と化した寺の境内に足を踏み入れた早瀬は、不気味な静寂に包まれていた。

風に揺れる木々の間から、かすかに人影が見えた気がした。

早瀬は、藤村への接触のチャンスが近いことを直感した。


◇◇◇


夕暮れ時、早瀬は廃墟の寺で再び藤村と遭遇した。

二人は無言のまま見つめ合い、沈黙が場を支配する。

やがて、藤村が口を開いた。


「君が私を追っているのは知っている。何故だ?」


「あなたが町にもたらした恐怖の真相を知るためです」


早瀬の言葉に、藤村は寂しげに微笑んだ。


「私は長い間、この眼鏡の力に翻弄されてきた。君には、その苦しみが理解できるまい」


藤村は自身の過去を語り始めた。

彼は特殊な力を持つ眼鏡を研究していたが、ある時、眼鏡が彼の人生を狂わせる出来事が起きたのだ。


「この眼鏡を通して、私は『別の世界』を見てしまった。そこには、言葉では表せない恐怖が広がっていた」


藤村の声は、深い悲しみに満ちていた。

早瀬は、彼の抱える苦悩に共感せずにはいられなかった。


◇◇◇


藤村との対話から、早瀬は町で起きている不可解な事件と「別の世界」との関連性を知った。

眼鏡を通して見えるその世界は、現実の世界に影響を及ぼしているというのだ。


「あの世界から、何かが現実に干渉している。それが、町で起きている異変の原因なのかもしれない」


早瀬は藤村から聞いた情報を整理し、真実の片鱗を掴んだ気がした。

しかし、その真実は、想像を超える恐怖をはらんでいた。


「君には、まだその世界の本当の姿は見えていない。私と同じ苦しみを味わいたくなければ、これ以上関わるべきではないだろう」


藤村の忠告にも関わらず、早瀬の好奇心は抑えられなかった。

真相を解明するためなら、どんな危険も顧みない覚悟があった。

彼は、「別の世界」の脅威に立ち向かう決意を新たにしたのだった。


◇◇◇


早瀬は藤村から借りた眼鏡を手にした。

その眼鏡をかけた瞬間、早瀬の目に映る世界は一変した。


「これは…何なんだ…」


眼前に広がるのは、灰色の空と歪んだ建物の景色。

町は不自然な静けさに包まれ、生気を失っていた。

早瀬は息を呑み、言葉を失った。


「あれが…『別の世界』なのか…?」


早瀬は恐る恐る町を歩き始めた。

ふと、通りすがりの人間に目を向けると、その姿に愕然とした。

人々の顔は歪み、虚ろな目をしていた。

まるで、魂を抜かれたかのようだ。


「こんな世界が、現実に影響を及ぼしているなんて…」


信じがたい光景に、早瀬の心は恐怖で満たされた。

真実を知ることへの危険性を痛感しながらも、彼は突き進む決意を固めた。


◇◇◇


「別の世界」の真相を探るため、早瀬は手がかりを求めて奔走した。

町の歴史を調べ、古い記録を読み解く。

そこから見えてきたのは、遙か昔に起きた悲劇の物語だった。


「100年前、この町を襲った大災害…その時に犠牲になった人々の無念が、『別の世界』を生み出したのか…?」


真実の一端が明らかになるにつれ、早瀬の心には絶望が忍び寄った。

100年前の悲劇を乗り越えられる方法があるのだろうか。

早瀬は藤村を訪ね、打開策を探った。


「藤村さん、『別の世界』を消滅させる方法はないのですか?」


「私にも確かなことは分からない。だが、一つ言えるのは…」


藤村は深いため息をつき、言葉を続けた。


「『別の世界』に囚われた魂を解放しなければ、恐怖は終わらないということだ」


早瀬は藤村の言葉に、希望の光を見出そうとした。

魂を解放する方法、それを見つけ出すことが、早瀬に課せられた使命だった。


◇◇◇


藤村は、自身が「別の世界」を生み出した張本人であることを早瀬に告白した。


「100年前、私は災害の犠牲者の魂を呼び戻そうとした。だが、その行為が『別の世界』を生み出してしまったのだ」


藤村の声は、深い後悔に震えていた。

早瀬は、彼の苦悩を理解しようとした。


「あなたは、犠牲者を救いたかったのですね」


「そうだ。だが、結果的に私は、魂を縛り付けてしまった。私には…贖罪が必要なのだ」


藤村は覚悟を決めた表情で立ち上がった。


「私は『別の世界』に入り、魂を解放する。それが、私にできる唯一のことだ」


早瀬は藤村の決意を止めることはできなかった。

二人は固く握手を交わし、最後の別れを告げた。

藤村の姿が「別の世界」に消えていく中、早瀬は祈るような気持ちで見守った。


「藤村さん…あなたの犠牲を無駄にはしません。必ず、この町に平和を取り戻してみせます」


そう心に誓った早瀬は、最後の戦いに向かって歩み出した。


(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る