第25話 勧誘

アルファポリスでは無事書籍化無しということで、今後もこっちで更新をしていきます。

ペースは遅めとなります。

ご了承ください。

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 三体組との戦闘をこなした直後。

 ドロップしたアイテムのうち魔石だけを拾っていた俺の耳に、呼びかける声が飛び込んできた。


「おーい、そこのあんた」


 視線を向けると、声をかけたのはどうやら先刻戦闘中だったところを俺が目撃した、前衛二人後衛二人のパーティーのうち、盾を使ってタンクをやっていた男性が声を発していた。

 その周りには、彼のパーティーのメンバーもいる。


 声をかけながら近づいてくる相手に、俺は魔石を拾うのをやめてわずかに警戒しながら向き直る。

 まさかフロンティア内で殺人することは無いだろうし、そもそもそんなことをすれば『フロンティアの石碑』と呼ばれる、フロンティア内で起こった特殊な出来事を表示するディスプレイみたいな石碑によってすぐにバレてしまう。

 

 だが、かと言って武器を持つ相手を警戒せずに受け入れられるかと言ったらそんな訳はない。

 いつでも抜き打てるようにイメージをしつつ、俺は彼らに答える。


「なんでしょうか」

「ちょっと話、というか相談があってね」


 近づいてきた一団のうち、後方で指示を出していたリーダー格の女性が答える。

 スラッとした体型に女性としては高めの身長、それに女性魔法使いのローブとは違う男装的な装備を纏っているため、声を聞かなければ女性と分かりづらいかもしれない。

 彼女達は、こちらが警戒しているのを理解しているのであろう、数歩離れた間合いで足を止めた。


「内容は?」

「ああ。単刀直入に言えば、私達のパーティーに入らないか? って話だよ」


 こちらが敬語を使っているにも関わらず、向こうは敬語にならない。

 これは実力主義の冒険者だからこその距離感といったところだろう。

 俺はそんなこと知ったこっちゃないのでできる限り初対面相手は敬語で通しているが。


 しかし、なるほど。

 俺の戦闘を見ていて、パーティーに所属して欲しくなった、というわけか。


「……ちなみにどういった理由で、俺をパーティーに求めているんですか? さっきそちらの戦闘を見ましたが、前衛二人後衛二人で問題があるようには見受けられなかったのですが」

「別に私達が偉いわけでもないんだからそこまで畏まる必要はないよ。そして理由だね。まず第一に、私達はレベルとしてはもうこのエリアの上限レベルには到達している。だから次の目標として【アーシャンの陸珊瑚】に行きたいんだが、それには人員が少しばかり心許なくてね。前衛三人に遊撃が一人、そして後衛が二人。これが私達が理想としているパーティーなんだ」


 なるほど。

 なかなかいい戦い方をしていると思ってみれば、すでにこの【モンシャスの古代遺跡】の上限レベルに到達するところまで進んでいるのか。


 ここで上限レベルとついでに制限レベルというものを説明しておくと、そのエリアで上がるレベルの最大値について説明するのが、この上限レベルと制限レベルだ。


 まず上限レベル。

 これはそのエリアで戦闘をしていれば自然とそこまではレベルが上がっていく、というレベルだ。

 例えば【始まりの森】では、レベル四までは順調にレベルが上がって、そこからレベルの上がり方が一気に鈍化する。

 これはレベルが上がったから必要な経験値が増えた、とかではなく、レベル四になった時点でそのエリアのモンスターから得られる経験値が少なくなる、ということだ。

 自分より弱い相手をいくら叩いてもレベルが上がりづらい、というのは理解出来ると思うが、それが上限レベルという言葉で表される数値だ。


 ちなみにこの古代遺跡では上限レベルは十七である。


 そして制限レベル。

 こちらは、上限レベルを超えてでもそのエリアで無理やり得づらい経験値でレベルを上げ続けた場合、絶対にそれ以上は上がらなくなる、というラインがそのエリアの制限レベルだ。

 ちなみに始まりの森の制限レベルは七だ。


「では遠慮なく言うけど、俺のレベルは今はまだ十三だからそちらとはレベルがあわないぞ」

「少し一緒に戦えばそれぐらいは上がるさ。私達はそれよりも、複数個体を相手に立ち回れる君の戦闘技術の方に興味を持っていると思って欲しい」


 ふむ、つまりレベルは低いが戦闘技術があり、将来的に有望だから同じパーティーに入って欲しい、ということか。


「なるほど。それはわかった。けど申し訳ないが、断る」


 俺がそういう反応をするのはわかっていたのか、向こうは特に動揺することも無く話を続ける。


「理由を聞いても? ここより先に進むつもりなら、パーティーでの行動は必須になると思うんだけどね。自分で言うのもなんだが、私達はこのレベル帯にしてはかなり有力なパーティーだ。そこに君が加われば、更に強くなれる。より先を目指すなら、互いにとっていい話だと思ったんだけどね」


 まあ確かに、言っていることには一理ある。

 モンシャスの古代遺跡の次のエリア【アーシャンの陸珊瑚】からは敵の強さが大きく変わってくるという話だ。

 それに立ち向かうのに、パーティーというのは理想の選択肢なんだろう。

 様々な選択肢を集団で分担することで、どんな敵も相手することが出来るのだから。


「俺は、ソロで頂を目指したいんでね。パーティーを組むつもりは無いんだ」

「無謀だぞ、それは。通常なら四から六人のパーティーで挑むものだ」


 俺の宣言に、黙って聞いていたタンク職の人が口を開く。


「百も承知だ」

「そこまで拘らずに、一度パーティーに所属してみるのはどうだい? その後合わなければ離脱することだって出来るんだ」


 なおもリーダー格の女性が言い募ってくるが、俺の言い分は変わらない。


「悪いが、こっちもスキル関係で事情持ちでな。人と組むのは難しいんだ。一人の方がはるかにやりやすい」


 そもそも俺は、写身による死に覚えと、その経験を反映した本体で戦うスタイルだ。

 パーティーで戦うとなると、写身で死に覚えをする時間が無くなってしまうので、パーティーを下手に組めないのである。

 少なくともまだまだ格上と死に覚えで遊ぶ気まんまんの俺は特に。


 俺がスキル関係という手札を晒したことで、相手もようやく俺を勧誘するのは不可能だと誘ったらしい。


「そうか。残念だな」


 そう言うと、懐から何かを取り出した女性がこちらに薄いカードを投げてくる。 

 俺がそれを指で挟みとって掴むと、パーティーの男性達から『おおっ』と歓声が上がった。

 確かに少々強い勢いで投げられたカードだが、おじじの投げる石や小刀よりは遅い。


「名刺だよ。もしパーティーを組む気があったら、また連絡してくれ」

「レベル十三でここでそれだけやれるなら、将来有望だしな」

「……無理をして死ぬなよ」

「それじゃあ、邪魔をしたね」


 リーダーの女性、剣士、タンクの人の順でそう言うと、彼女らは背を向けて立ち去っていった。

 一切言葉を発さなかった魔法使いの女の子だけは、最後尾で数度こちらを振り返っていたが、結局そのまま離れていくのだった。





******





 そんな思い出話を受付で坂井さんにして、気になったことを聞いてみる。


「こういうのって多いんですか?」


 そう言うと、坂井さんは手元のタブレットを操作して、何かを表示して俺に見せてきた。


「この辺りの記事を是非後ほど読んでもらいたいのですが、それなりにあることではあります」

「なるほど」


 記事の名前を忘れないようにとスマホにメモをしながら、俺は彼女の話を聞く。


「特に【アーシャンの古代遺跡】以降のエリアは、モンスターが複数体出現するか、人より巨大な場合が多いので、基本的にパーティーが推奨されています」

「でもダンジョンの中でやりますかね、スカウトというか勧誘なんて。それこそ、ほらD市のギルドでみましたけど、パーティーマッチング用のアプリとかあるじゃないですか」


 俺がそう尋ねると、彼女は少し笑顔になって教えてくれた。


「そこに記載される情報よりも、目の前で動きを見た相手の方が信頼できる、というのが冒険者の間での認識です。高杉さんも、どれほど凄いプロフィールの人でも会って共闘してみるまでは信頼出来ないでしょう?」

「それは、確かにそうですけど」


 だがフロンティア内でスカウトしても、ゲートをくぐれば別々の場所に戻されてしまうのに、フロンティア内で勧誘をするものだろうか。

 俺のその疑問にも、坂井さんは丁寧に答えてくれた。


「例え帰る先が違うメンバー同士でも、連絡を取り合って同じ時間帯にゲートをくぐれば合流することは容易いですから。普段は遠方に住んでいるけど、フロンティアに入る際はパーティーを組む、なんて方も結構いらっしゃいますよ。連絡先さえ交換してしまえばいつでも連絡出来ますからね」


 そう言われると、確かにあの場でのスカウトが理にかなっていたのが改めて理解できた。

 スケルトン三体を相手に、傷一つなく立ち回ることが出来る戦闘力というのは、あの古代遺跡で活動する冒険者としては稀有な例だろう。

 相手の四人組のパーティーもまだ若く、大学生か、場合によっては高校生ぐらいだったが、彼らも自分たちよりも多数のスケルトンを相手取って戦えるだけの能力はある。


 だからこそ、これから上を目指すためにより強い仲間が必要だったというわけだ。

 更に言うなら、成長速度的に自分たちと同じぐらいの相手の方が、パーティーとしてもやりやすいと考えたのだろう。

 下手にレベル差のあるパーティーを組んでしまえば、冒険するエリアの選択や敵との戦闘頻度などで揉める可能性は高い。


「なるほど、そういう考えもあるんですね」

「勧誘を受諾はされなかったのですか?」


 坂井さんが普通に疑問そうに尋ねてきたので、俺は首を横に振る。


「ちょっといきなりの事だったので。それにまだソロで行ける状態ですし、俺は個人として最強になりたい、ぐらいに思っていますから」


 当然スキルの話はするつもりが無いので、ある程度ごまかしておく。


「無理はしないでくださいね。特にアーシャンの陸珊瑚以降は、大きくそれまでと危険度が違いますから」

「わかってます。無理しないように丁寧に、やっていきますよ」

「私はパーティー受けてもよかったと思うんですけど……違うんですか?」


 そこで、隣のカウンターにいた藤澤さんが話に入ってくる。

 基本的に閑古鳥が鳴いているこのギルドだ。

 俺が来たときはだいたい一人ではなく二人で対応してくれるのである。


「んー、後々なら良いかもしれませんけど、個人的にはまだ自分を鍛える段階なんですよね。だから今はまだ良いか、って感じです」

「そうなんですね。パーティーの方が一人辺りの負担も少ないし良いかなと思ったんですけど」

「だからこそ、ですよ」

 

 藤澤さんの言葉に、まさに俺がパーティーを求めていない理由の一つが入っている。


「複数人で戦うと楽になっちゃうじゃないですか。そりゃあ複数人じゃないと戦えない場所なら良いですけど、すくなくともモンシャスの古代遺跡はソロで行ける場所です。そこで負荷を下げるようなことをしてたら強くなれないじゃないですか」


 俺の言葉に、坂井さんと藤澤さん両方がゴクリとつばを飲む。

 おっと、冒険者としての圧が出てしまったか。


「ま、そんな感じですね」

「……重ね重ねいいますが、無理はされないようにしてくださいね。強くなりたい、というお気持ちもわかりますが、死んでは元も子も無いので」


 心配してくれる坂井さんに強く頷く。


「それはもちろん。命を落とさないラインは見極めて行きます」

「それなら良かったです。それと、武器の調子はどうでしたか?」

「あ、私も気になります。武器変えた後ってどんな感じなんだろうって」


 話が一段落ついて、話題を変えようと坂井さんが切り出す。

 藤澤さんもそれに乗ってきたので、俺も話題をそちらに変えることにした。

 

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