第24話 激しい戦闘

 さて、いざステータスプレートを受け取ってゲートまでやってきたが、今回の行き先はどこにするか。

 当然始まりの森は無いとして、今の俺のレベルは11。

 ガラックの岩場かモンシャスの古代遺跡か。

 

 そういった場所で真面目に稼いでいる人たちには悪いが、そのどちらのエリアも、正直言って俺にはいささか物足りないエリアだ。

 確かに複数のスケルトンは脅威だし、同じく複数のモンスターを同時に相手にすることになるガラックの岩場も初心者にはいささか難しい場所であるといえばそうではある。


 だが、俺がやりたいのはもっとこう、派手な冒険というか。

 モンスターとがっつり戦いたいし、その後夜営もしたいし、夜焚き火で下手くそな料理を作って食べたりもしたい。


 そう考えると、レベル的にモンシャスの古代遺跡の次に相当するアーシャンの陸珊瑚に行きたくなるが……。


「いかんな、逸ってる。そうやって馬鹿をやらかすから死ぬんだぞ、俺よ」


 アーシャンの陸珊瑚が解放されたというレベルは15。

 つまり、最低15無ければそこは厳しいエリアだ、ということだ。

 雑談の中で坂井さんも言っていた。


 始めの三つのエリアと、その先のエリアは全く別の世界になる、と。

 真の冒険はそこからになる、とも。


 故にこそ、今俺は、無謀にそこに挑むのではなく、己を高めてより高い場所で遊べる(楽しめる)ようにしなければならないのだ。


 ということで、今日の冒険の行き先はモンシャスの古代遺跡。


 ただし、普通にモンシャスの古代遺跡で戦うのは物足りない。

 そこで、ネットで調べたところスケルトンの湧きが多く、激戦区となっていると噂の遺跡外縁部に行ってみようと思う。


 どうやら各エリアの探索、開拓を主としている冒険者と自衛隊の一団があるらしいのだが、彼らが調査したところによれば、モンシャスの古代遺跡は、遺跡の外にはなにもない場所になっているらしい。

 これは都市部・遺跡部分が終わって普通に自然が広がってる、とかではなく、外縁部の先が、まるで世界が存在していないかのように存在せず、透明な壁でそれ以上の進行が阻まれる場所になっている、ということだ。


 そして主にその透明な壁がある場所から、多くのスケルトンが湧いて徘徊をしており、その一部が普段狩り場となっているゲート付近のエリアに来ているのを、俺達が倒しているらしい。

 それはつまり、逆に少しでも外縁部に自分から近づいていけば、偶然徘徊ルートでゲート付近に来るモンスターよりも多くのスケルトンを狙って相手に出来る、ということだ。

 

 故にモンシャスの古代遺跡での稼ぎを主としているパーティーには、あえてそういう激戦区での戦闘を行って大量に物資を拾って帰る者たちもいるらしい。

 ただ流石にそれで荒稼ぎをされては困るので、ギルドの買い取りでは一度に買い取る数は場所によって決められていたりする。

 古代遺跡の外縁部もその一部だ。


「よし、行くか」


 とは言え俺は別にドロップアイテムに興味があるわけではない。

 嘘だ、流石に生活費程度には稼いでおきたいが。

 投資だったり仮想通貨に放り込んでいる現金以外の資産が色々とあるので、まだ保つ。


 それよりもやはり、求めるのは激しい戦闘であるわけだ。


 モンシャスの古代遺跡に踏み込み、今回は地図を頼りに外縁部が最も近い仮称北へ向かっていく。

 ちなみにフロンティアの一部エリアではコンパスは機能しなくなるが、このモンシャスの古代遺跡もその一つだったりする。

 つまりこの場合の北は地図の上方向、程度の意味しか無いわけだ。


 道中いくつかのパーティーがスケルトンと戦闘しているのを横目に、一路北を目指す。

 

 と、視界に入った広場では、多数のスケルトンを相手にしたなかなかに激しい戦闘が行われていた。


「仁! 左対処! 魁利は正面の一団にを受け止めて!」

「おうさ!」

「あいよ!」

「支援する。 火の精霊の息吹よ、かの者たちを守りたまえ──『エンチャント・ファイア』」


 前線に剣士一人タンク一人、後衛に魔法使い二人の四人パーティーが、八体ほどのスケルトンを相手にしていた。

 噂通り外縁部に近い程スケルトンの動きがよくなり、また頑丈になるらしく剣士の一撃で砕くことは出来ていないが、続く二撃目でスケルトンを粉砕している。


 倍近い数のスケルトンを相手に立ち回る姿は見事なものだった。


「俺も、頑張らんとな」


 その姿から視界を外して、俺はそこから東方向へと進む。

 先程のパーティーと戦闘場所が被ったら厄介なことになるので、少し離れたかったからだ。


 そこから少し離れた東の広場、へと向かう途中の通りで、二体のスケルトンを見つけた。

 俺に背を向ける形になっている上に通りの奥の方だからまだ感知されていないが、スケルトンは基本的に視界や音など人間同様のものに反応する。

 そのため一旦リュックを近くの遺跡の影に隠し、わざと姿を晒しながらゆっくりとスケルトンに近づいた。


 後十数メートルという距離になったところで、スケルトンが俺の足音に気づいてこちらを振り返る。

 そしてそのまま、ゲート間近のエリアでは考えられない速度で俺に向かって剣を構えて走り寄ってきた。


「そんな動けるんかい……!」


 ゲート付近では何かデバフを受けていると言わんばかりの速度で走ってくる二体のスケルトンに対して、俺は近くにいた個体をもう一体との間で盾にするように置いて迎え撃つ。

 

 俺の一撃目は正眼からの鋭い振り下ろし。

 相手の狙いに関わらずスケルトン本体に狙いを定めて振り下ろす。

 

 同時に、剣がスケルトンの頭部に直撃する寸前で左手を離して引き戻し、すくい上げるように放たれたスケルトンの一撃をバックラーで迎撃する。

 きっちり受け止めることが出来たが、これは本来バックラーでするべき立ち回りではなかった。


 本当ならば、もっと懐に飛び込んで、振り上げられる前に腕ごとバックラーで剣を塞ぎ、右手の剣で仕留めるべきだった。


 そんな反省は後にして、頭部が砕けたスケルトンにとどめを刺そうとする。

 が、その前に二体目が左側面から入り込んできた。


 今度は俺も体が動いて、スケルトンが右斜め上から振り下ろそうとする剣を完全に加速し切る前に腕にバックラーを当てて抑え込む。

 そしてそのその間に、右手の剣でスケルトンを粉砕するように薙ぐ。

 

 新しく買った剣が、片手半剣、いわゆるバスタードソードと言われる類の剣だから出来る芸当だ。

 以前のように両手剣ならば出来ていなかった。


 そしてバックラーで払う様に相手の剣を払い除けて、大きく飛び退る。

 以前のスケルトンならこれで仕留めることが出来ていた。

 しかしこの外縁部のスケルトンならば──


 頭蓋を粉砕されている個体が、そのまま今度は突きの構えで突っ込んでくる。


「やっぱ動くよな!」


 『外縁部のスケルトンは別物』というネットでの言葉を知っていた俺は、油断はしていない。

 突きこんでくるスケルトンの突きをバックラーでそらし、そしてタイミングよく弾いて、今度はこちらの突きを人間なら心臓がある部分へと叩き込む。


 それでようやく、一体目のスケルトンを仕留めることが出来た。

 一方二体目のスケルトンだが、こちらはまだ死んではいないものの、胴体部分を破壊されたせいで満足に動けないらしい。

 そのスケルトンにもとどめをさして、一つ目の戦闘は終了した。


「なるほど。頭は潰しても意味はないが、胴体や手足なら意味があるのか」


 急所の概念が狂いそうだが、モンスターとはそもそも人の知る理に適っていない存在だ。

 骨が動いている時点で道理を求めても無駄なのである。


 二体目が落とした魔石を回収し、一体目の落とした剣は放置する。

 売却価格を見ても持ち運びの便利さを見ても、剣は外れで魔石が当たりだ。


 そして次の敵を探し求めて、俺はまた遺跡の中を歩き出した。




******




「お、ラッ!!」

 

 単独の個体や二体組のスケルトンを主に相手していた俺だが、途中で運悪くY字路から来たスケルトンが合流してしまい、三体を同時に相手することになってしまった。


 一番最初に左から接近してきた個体を、バックラーと剣の合せ技で攻撃を防ぎつつ胴体に剣をめり込ませる。

 だが振り抜く猶予はない。

 右側からスケルトンの個体が二体既に接近してきているのだ。

 うち一体は片腕を切断したが、片手でも剣を振れるので問題は無いらしい。


 右手で敵の体に突き刺さった剣を投げるようにリリースし、空いた右手を腰にまわして剣鉈を鞘走らせる。

 それで右から来た個体のうち一体の斬撃を防ぎ、続けて片腕が無い個体の攻撃を引き戻したバックラーでいなす。


 そしてまだ切り結んだままのスケルトンに対しては、踏み込みからの前蹴りで吹き飛ばし、一瞬隙を作る。

 このタイミングで仕留めるのは、片腕の個体、ではなく胴体に剣がめり込んだ個体だ。


 剣鉈を片腕の個体の胴体部へと投げ込み、右足から斧を引き抜きながら左に振り返り、胴体を粉砕されて体勢を崩しながらも剣を振り上げたスケルトンの頭部から叩き割る勢いで振り下ろす。


 そしてその成果を見ないまま、斧は手放して剣をスケルトンの胴体から引き抜き、左右が見れるように正面を向きながら大きくバックステップ。

 剣鉈を胴体に投げ込まれた個体はそれで死亡していたらしく、魔石を残して魔力に溶けようとしていた。

 一方前蹴りで吹っ飛んだ個体は健在で、起き上がってこちらに接近している。

 

 ちらりと左に向けた視線では、左の個体は仕留めきれていない。

 だが、左の個体の動きは鈍い。


 一瞬でどちらを仕留めるか判断した俺は、左の個体を改めて仕留めるために剣を振り上げ、今度こそその胴体を肩口から斜めに切断した。


 そして改めて、向かってくる右の健在な一体と向かい合う。

 後は一対一の戦いで、スケルトンの懐に踏み込んだ俺がバックラーで攻撃を抑え込みつつ頭を突きで貫き、続く敵の振り下ろしを敵の脇を抜けながら避け、 同時に胴体を両断したことで俺の勝利となるのだった。

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