第23話 武器が届いた話

 隣の市のギルドで武器を買った翌日。

 流石に一日ぐらい休みにしようかと思っていたが、昼頃にギルドから武器の配送が完了したと連絡があったので、休むのをやめてすぐに飛び出してきてしまった。

 車を飛ばしてギルドまで行き、入口の自動ドアが開くのももどかしく待ってからようやくギルド内に入る。


「おはようございます」

「おはようございます」


 受付でそう挨拶をしてくれた坂井さんは、すぐに一度裏に戻ると、細長い箱などいくつかの荷物を台車に載せて運んできた。

 そのいずれもが、段ボールではなく頑丈なケースに入っているというのだから、中身の重要性か、あるいは危険さがわかろうというものである。


「これが……」

「一応書類への記入をお願いしますね」


 そう言って渡された書類に、受け取る際の署名と昨日発行してもらった番号を記入して提出する。

 それを坂井さんが照合して、確認が取れたところでようやく俺が武器を受け取ることが出来る。


 少々面倒な手続きだ。

 これでも結構簡略化されているんだけどな。

 流石に武器だけあって、いくら冒険者証がクレジットカードと紐づけられる程多機能だけあって、丁寧な書類の記入が必要になるようだった。


「ここで開けても大丈夫ですか?」

「一応中身も確認していただきたいので、是非開けてください」


 普段からここで武器の受け渡しをしているので問題は無いと思っていたが、一応坂井さんに確認を取ってからケースを開ける。

 視界の端にちらりと見えたが、藤澤さんも俺の新しい武器が気になるのか坂井さんの隣に来て、俺がケースを開けるのを見ているようであった。


 まずは、メインの武器となる剣の入っているであろう細長いケースを開ける。

 開けた中には、当然だが鞘入りの剣。

 あれだ、映画とかでたまにケースの中に黒い素材が入っていて、銃の形に凹んでいてそこに銃が入っているやつ。

 

 あれの剣のバージョンをイメージして欲しい。

 そんなところに入っていた鞘に入った剣を取り出し、腰に装着してみる。

 少しばかり以前までのものとは感覚が違うが、これはこれで良い。


「抜くのはここでは厳禁ですからね」

「もちろんですよ」


 流石にそれはしないとも。

 何せ以前初めて斧やサバイバルナイフを預けるときに、むき出しで預けようとして注意を受けたのだから。

 管理上の危険があるため、鞘にいれておいてもらわないと困るらしい。

 まあそれも当然の話で、俺は慌てて装備したままだった鞘や斧に被せるカバーを提出したのを覚えている。


 剣の切れ味は振り心地はフロンティアに移動してから試すとして、ひと目見て剣だとわかる長いケースの他は、大きめの四角いケースが一つと一回り小型のケースが一つ。

 さて、どちらから開けてみるか。


 中に入っているものはだいたいわかっているのだが、それでもプレゼントを開ける前の子供のような、新しいゲームのパッケージを開ける前の大人のようなそんな気持ちで、まずは小ぶりな方のケースに手をかける。

 二つのロックを外して開けてみれば、中から出てきたのは、これまでの俺の冒険には無かった新しい相棒。


「盾、ですか」

「はい。正確にはバックラーというんですけどね。防御よりも攻撃を重視した特殊な盾です」


 俺がケースから取り出したものを見た藤澤さんの言葉に答えつつ、それを手に装着する。

 俺が選んだバックラーは、通常の手に持つタイプのものではなく腕を通して拳の外側にバックラーが来る形になるタイプのものだ。

 

「攻撃、ですか」


 俺の言葉に首を傾げながら藤澤さんが問いかけてくる。

 坂井さんは多分知っているのだろう、そんな藤澤さんを微笑ましげな顔で見ていた。


「普通の盾は、こう、受け止めるのが主な役割じゃないですか」

「そうだと思いますけど……それ以外の役割が盾にあるんですか?」


 俺の言葉に、更に意味がわからないというように藤澤さんが返してくる。

 確かに、盾というのは受け止めるためのものだ。

 だが、バックラーだけは違う。


「ただ受けるだけじゃなくて、盾で殴ったりとか、ですかね。バックラーは盾が小さくて硬いので、そういう使い方が出来るんです」


 正確に言うならば、敵の攻撃自体を受け止める盾に対して、攻撃の起こりの前に前のめりになって止めたり、あるいは打撃に使用したりする。

 頑丈な硬い籠手、とでも言うべき使い方をするのが、本来のバックラーである、が。

 そこまで説明してもわからないだろうと、俺は説明を簡略化した。


 そこでチラと坂井さんに視線を向けると、後で教えておきます、と言わんばかりにコクリと頷いてくれるので、俺もうなずき返す。

 その様子を藤澤さんは不思議そうに見ていた。

 まあギルド職員たるもの、多少は冒険者が使う武器に興味を持ち知識を持っていても悪くはないだろう。


 さて、この手に持つのではなく腕に装着する形のバックラー。

 これを選んだのには理由があるのだが、それは使う時の話として、最後に残ったケースに手をかける。

 なおバックラーは邪魔なので一旦置いておいた。


 最後のケースには、残りの買ったもの、斧とナイフ、正確には剣鉈と呼ばれる類の刃物二本が入っている。

 

 まずは斧の方から。

 今はカバーがかかっているが、こちらは以前使っていたものと全体的な大きさ自体はそう変わらない。

 ただ、刃の部分が以前のものよりは広くなっており、鋭さも相まって全体的に殺傷能力が上がっている。

 それに合わせて少々重量も増えており、硬い敵に対して振り下ろす際により使いやすいようになっている。


 後デザイン性が木こり用の木の斧よりは格段に良い。

 まああっちはあっちで無骨な見た目が良くは合ったのだが。


 そして最後に剣鉈だ。

 これはいわゆる和製のナイフ、と言っても良いかもしれない。

 長さとしては以前までのナイフよりは少し大型になるだろうか。


 そもそも俺は林業で山に入っている身ではあったが、基本はチェーンソーばかりなせいで、鉈と言えばいわゆる腰鉈のような、先端が大きく重さによってものを叩き切るための刃物しか知らなかった。

 そんな中で今回、D市のギルドでナイフを物色している際に見つけたのが、この剣鉈と呼ばれる種類の刃物である。


 使い道としては、そのまま和製のナイフと考えて問題ない。

 ナイフとして使うには若干大ぶりだが、その分以前までのサバイバルナイフと違って、剣を喪失した際に最低限武器として振るい戦うことが出来るものになっている。


 この二本は、以前のナイフ同様に太腿の側面に吊るそう、と思ったのだが。

 

「やべ、サイズ考えてなかった」


 なんと、左の剣鉈が左の腰に吊るしている剣と干渉してしまうではないか。 

 これは全く考えていなかった。

 以前までは小ぶりなナイフだったから問題が無かったが、太腿に鞘を吊るす携帯方法だと腰に吊るした剣の鞘とナイフの柄が干渉する形になってしまうのだ。


「どうしましたか?」

 

 固まった俺の様子を、不思議そうに二人が見る。

 

「いや、ちょっと想定外というか……。武器を大きくしたら、同時に装備できなくなってしまいまして……」

「確かに高杉さん、複数の武器を使われますもんね。というか、今まではどうやって複数携帯してたんですか?」

 

 尋ねてくる彼女に示すように、体の武器を装備する場所をなぞりながら説明をする。


「剣は左腰に吊るして、斧は腰の背面。ナイフは太腿の側面にこんな感じで……ああ、斧と入れ替えるか」


 そこでふと一つ思いついて、装備方法を変えてみる。

 斧を腰から太腿の側面に移動し、代わりに背中に二本剣鉈を腰の後ろに背負う。 


 すると、見事にピッタリと装備することが出来た。

 結局は両手ともにナイフ、今回の場合は剣鉈を抜くことが出来ればよかったので、その位置を両太腿から腰の後ろで交差するような形へと変えたのである。

 そして元々腰の後ろにおいてあった斧は、右の太腿に。


「問題なさそうですね」

「はい。ちょっと武器の量が過多になった気もしますけどね」


 坂井さんの言葉にそう答える。

 よく考えれば左手にはバックラーを装備するのだから、剣鉈は複数いらなかったんじゃないか、とか考えてはいけない。


 次買い物するときはノリと勢いで買わないで、ちゃんと全体図を想定してから武器は買うようにしようと思う。

 俺がそう心に決めていると、藤澤さんが声をかけてくる。

 

「以前使っていた武器はどうしますか?」


 そういえば、今まで使っていた武器があったのだった。

 新しい武器を手にした嬉しさで頭から飛んでいた。


 新しい武器を買ったために、今後出番はそれこそ武器が全滅したときの予備ぐらいにしかならないと思うが、かといって雑に扱いたくもない。

 あれでも共にサーベルタイガーもどきに傷を与えた先代の相棒である。


「普通は、こういう場合はどうするんですか?」

「より強力な武器を入手した際には、以前の武器を売却する方が多いですが、一応規定では武器などは一人あたり十個の武器までは預かることが出来るようになっていますし、申請すれば更に増やすことも可能です。そのためいくつか予備として保管しておく、という方もいます」


 なるほど。

 俺の武器は今までは剣、ナイフが二本、斧が一個。

 今は剣と剣鉈が二本に斧が一個、そしてバックラー。

 ちなみに防具は未だに無し。


 足してでも九で、まだ預ける余裕はある、と。


「じゃあ一旦予備として預けさせてください。それで今後はこっちの武器をメインにします」

「はい、では手続きはこちらでやっておきますね」

「ありがとうございます」


 多分普通ならばここで俺も何かしないといけなかったのだろうが、そこは田舎ギルドの言いところ。

 職員さんも手が空いているし、顔見知りで十分個人の識別が可能になる。


「それでは、武器はお渡ししました。今日はどうされますか?」


 それはもちろん、新しい武器を手に入れたらやることは決まっている。

 かつてはあの信長だって、人の身体でそれをやったという。

 そう。


「このまま冒険に行って来るので、ステータスプレートをお願いします」


 試し斬りだ。

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