第21話 装備の構想

「良かった、ちゃんと売ってたか」


 俺が見つけたもの、それは盾だ。

 手に取れるように展示されているそれを持ち上げ、実際に構えてみる。


 重さも申し分なし。

 フル金属製の盾だが、探索者になった俺の身体能力ならば何も問題ない。

 実際にそれを装備して戦闘する際のことを想像する。


 

 バックラーという種類の盾がある。

 直径は25センチから40センチほどと小型で形状は主に円形。

 小型であるため弓兵などでも携帯出来る盾だが、その真価は防ぐことではなく打ち払い相手の体勢を崩すことにある。


 通常の盾が相手の攻撃を真っ向から受け止める役割を担うのに対し、バックラーは相手の剣に自ら盾をぶつけることで、ときに攻撃を事前に阻止し、時に打ち払い時にそらす。

 それだけでなく、それそのものが打撃のための武器となる。


 そんな攻撃的な盾が欲しいと俺は考えていた。


「良いな、これ」


 ここのショップには1つしかバックラーが置いていなかったが、サイズは見る限り小さめ。

 まさしく俺が求めていたものだ。


 俺がこのバックラーに求めているのは防御能力ではない。


 剣を使った立ち回りの中で、どうしても相手を殴りたいときや、相手の凶器となる部分に触れたいときというのはある。

 たとえ先日のサーベルタイガーもどきの牙とか、スケルトンの剣とか。

 腕で直接触れてしまえば怪我を負うそんなときに、剣を振る邪魔にはならないけれど防御も可能なバックラーを腕につけていれば。


 それこそ俺が初めてフロンティアで冒険をしたときにウルフの奇襲を受けたときだ。

 あのときはウルフの攻撃力が弱かったので腕を噛まれても跡になった程度だったが、ああいう場面でバックラーは役に立つ。


 例えばあの場面、バックラーとは言わなくとも、金属製の頑丈な鎧をつけていればたとえウルフ以上に攻撃力があるモンスターでも攻撃を防いで反撃が出来た。

 あるいはこちらからモンスターの口の中に向かって攻撃をすることだって。


 そんな、頑丈で扱いやすい籠手としての役割を俺はバックラーに求めている。

 防御能力ではなく剣を主体とした立ち回りの中で出来ることの拡張。

 剣でしか相手に手を出せない状態から、より体術に近い立ち回りで相手に攻撃を出来るように。

 

 バックラーを通して相手に組み付くもよし、打撃を加えるもよし。

 頑丈な金属の防御が一枚手元にあるだけで、出来ることが多様に増える。

 

 あるいは右手に片手剣、左手にナイフの二刀流スタイルなども考えたが、いきなりそれは難易度が高いし、ナイフよりもバックラーの方が汎用性が高い。

 いずれより攻撃的な立ち回り、戦闘スタイルが必要になったときはそっちも考えるが、まずはバックラーで複数の得物を扱う感覚と、より実戦的な戦闘を身につけたい。


 お値段を確認するとなんと20万円。

 サラリーマンやってたころから考えると月収相当だが、冒険者というのは稼げる。

 今の俺でも《ガラックの岩場》や《モンシャスの古代遺跡》で4時間程冒険するだけで5万から10万、もっとしっかり居座れば更に稼げるだろう。

 普通なら体力や精神力の問題であまり長く冒険は出来ないらしいが、俺はそのあたり図太いし自然の中を歩くのは慣れているので多分まだまだ粘れる。


 さておき、20万というのは今の俺にとっては大金ではない。

 先行投資という意味でもこれを今日買うのはありだ。


「他見てから考えるか」


 今すぐ買うかどうか一瞬悩んだので、取り敢えず剣を見てから考えることにした。

 バックラーもいつかは欲しいとは思っていたけど、今日は剣や斧、ナイフなど他の武器種を見るために来たんだし。


 一旦バックラーを置いて、剣のある方に回ってみる。

 

 最初にちらっと見たがやはり高いものが多い。

 俺が最初に買った5万のショートソードと同じものもあるが、他には15万~100万ほどの剣が並べられている。

 それ以上高い武器はショーケースの中に仕舞われている状態だ。

 高い剣だと1000万を超える。

 とんでもない世界だ。

 

 更に、さっきマップを見たときにはもう1つ上の階にもあったが、そっちはより高価な武器の展示やオーダーメイド武器の依頼などをやっているらしい。

 もう一体いくらほどの金が動くかはわからないが、いずれは俺もオーダーメイドの武器なんてものを使ってみたいものだ。


 ああ、でもモンスターの素材を使った武器があるならそれは見てみたいかな?


「おっ、ナイフか」


 次はナイフ。

 今使っているサバイバルナイフは、ただアウトドアなんかでナイフととして使うには可もなく不可もなくという性能だが、モンスターに使うには力不足。

 ただサイズに関しては十分に使いやすいと思っているが、さてどうだろうか。


 今俺がナイフを使うのは、剣が振るえない間合いや剣を弾き飛ばされたときの予備。

 ナイフ自体で戦闘をするのではなく、格闘の延長線として殺傷能力を高めるために使っている。

 こう考えると、ナイフといい斧といいバックラーといい、俺って結構武器を格闘の延長線に使うの好きだな。


 さておき。

 

 つまり俺がナイフに求めるのは、とっさのときの引き抜きやすさと取り回し、そして殺傷能力。

 ナイフの長さなんかは短くても良い。

 

 そう思っていたが、ちょっと最近考えが変わってきている。

 

 モンスターがどこまで皮が分厚いかわからないと気づいたのだ。

 つまり、いかに斬れ味が良いナイフでも刃が短ければ、柄までモンスターに刺さっても皮の厚さに阻まれてダメージを与えられない可能性が考えられる。


 だがそもそも頑丈なモンスターを相手にただ突き刺しただけで倒せると思うのが甘えで、刺したナイフで切り裂いたりえぐったりかき回したり。

 そういう攻撃でトドメを刺すならば、刃の長さ自体は最低限あれば十分なのではないかとも思う。


 これは悩ましいところだ。

 俺は色々と想像力がたくましい方なので、経験したことでなくても想像して考えてしまう。 

 実際今のところは短いナイフで困ったことはないが、いつかそういうモンスターを相手することがあるかもしれない。

 

 そう考えると今備えるべきか、あるいはそのときに用意するか。

 何にしても考えすぎるのはよろしく無いと思うが、同時に最大限の準備もしたい。


「むむむ……悩むなあ……」

 

 本当に悩ましいところである。

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