第19話 モンシャスの古代遺跡-2

 最初の邂逅以降も、街をさまよっているスケルトンを見つけては狩っていった。

 2体程度のスケルトンなら正面からでも普通に倒せるけど、3体以上になってくると立ち回りを考える必要が出てくる。

 

 それでも1体ずつ地道に削っていけば足の遅いスケルトンに負けることは無いだろうが、安定を取るために3体の集団を一度倒した後は2体以下の場合のみ攻撃を仕掛けることにした。

 

 しばらく戦ってみて思ったのだが、遠距離攻撃ってどうなっているんだろうか。

 銃火器がフロンティアで使えないというのは知っているが、弓みたいな原始的な遠距離攻撃もあるし、何よりフロンティアなのだから魔法があるはずだ。


 魔法ってスキルが無いと使えないんだっけ。

 弓の方は俺はその技術が無いので今すぐどうこうというのは無いけど、魔法の方なら何か魔法を誰でも使えるような道具とかあるかもしれない。

 魔法石に魔法を込めて砕いたら魔法が発動するとかそういうファンタジーなやつ。


 そういうのも後でしらべておくことにしよう。


 スケルトンから回収した剣がそろそろ重たくなってきたのでゲートまで戻ろうとしていると、途中の広場で数人が戦闘をしているのが見えてきた。

 広場の様子を見るに、多分昔は綺麗な噴水のある美しい広場だったのだろう。


 戦闘の様子については正直どうでも良かったが、帰るために広場を横切りたかったので一瞬様子を伺う。

 通れなそうだったらちょっとだけ迂回しようと考えながら。


「有紗!」

「無理に突撃をするな! 味方を頼れ!」


 剣を弾き飛ばされて尻もちをついた少女。

 多分高校生ぐらいの少女の前に大人の男性が盾を構えて立って、スケルトンの剣を受け止めている。


「魔術師は拘束魔法で動きを止めろ! 剣士はその間に立て直せ!」

「は、はい!」


 おそらく唯一の大人の男性が講師役か何かで、高校生ぐらいの少年少女4名が生徒だろうか。

 男はスケルトン複数を捌いてみせつつも、自分からは反撃して撃破しようとはしない。


 その間に後ろに控えていた杖を持ったローブの少女が魔法を詠唱する。


「『光の鎖よ敵を縛れ、ホーリー・チェーン』!」


 おお、詠唱ってあんな感じのやつなんだな。

 日本語での詠唱文句に英語の呪文名を合わせて1つの詠唱か。

 

 上位魔法とかになったら詠唱がかっこよくなったりするのかな?

 厨二を患うものとしては、折角の日本語詠唱なのだからもっと比喩的な重たい言い回しが見てみたい。

 今回のだったら、「光の鎖」はそのまますぎるからあえて使わずに、ついでに主語述語の流れを倒置して「戒めるは聖なる祈り」で全体として体言にするとか──


 いや何考えてるんだ。

 流石に痛すぎる。

 フロンティアがファンタジーだからそういう妄想をふとしたときにしてしまうが、今はファンタジーが現実になったからこそ妄想をしすぎてはだめだ。


 そんなことを考えているうちに、子供達は戦線を立て直し、講師の男性が後退して彼女らがスケルトンと向き合う。

 前衛に盾を持った少年と、剣を両手で構えた少女。

 中衛に槍持ちが1人と後衛に魔法使いが1人だろうか。


 その後戦闘を見てて思ったけど、冒険者によってはスケルトン相手でも結構苦戦するらしい。

 少年少女たちでは、サクッと仕留めるどころかむしろスケルトンに攻め込まれて危ない場面が結構ある。

 盾を持っている少年も、なんとか反撃はしようとしているものの防戦一方の様子だ。

 

 いや、むしろそれが普通なのか。

 最初から身体を鍛えてて身体の動かし方を知っていて、おじじという先達に鍛えられて、死闘を体験できるスキルで格上相手に幾度も死線を経験して。


 そういう俺は技術的精神的な成長ではかなり他の冒険者よりも優れているのだろう。

 誰もが戦いに最初から慣れているわけではないのだ。

 


 好奇心で見てたけど、まだ戦闘に時間がかかりそうだから迂回しよう。


 少女達の戦闘を少しの間見守った俺は、遠回りをしてゲートまで帰還した。


 


******




「お疲れさまです」

「お疲れ様です。アイテムの鑑定お願いします」

 

 今日もまた拾って帰ったアイテムを提出する。

 スケルトンがドロップする剣は1本1本が重い上に、倒せば倒すほど数が増えるので背負っているのがしんどかった。

 特にリュックサック自体の耐久性が結構怪しかった。

 体力については冒険者としてレベルがあがって強化されているので案外複数本のスケルトンの剣でも持ち運べたが、リュックサックはその重さに耐えかねて大分変形していた。


「モンシャスの古代遺跡ですか」

「はい。レベル的には自分でもいけるようだったので行ってみました」

「ガラックの岩場とどちらがやりやすかったですか?」


 ガラックの岩場とモンシャスの古代遺跡か。

 簡単に頭の中で比較してみる。


「モンシャスの古代遺跡ですかね」

「なるほど……高杉さんは戦うのが得意なんですね」

「なんか基準みたいなのがあるんですか?」


 まあ戦うのは得意だけども。

 モンシャスの古代遺跡の方がやりやすい人、ガラックの岩場の方がやりやすい人。

 それぞれ特徴がある、のか?


「一般的にモンシャスの古代遺跡の方がモンスターとの遭遇が多く、またモンスターが強いと言われています。その代わりにガラックの岩場ほど歩き回って冒険を行う必要が無いので戦闘に慣れている冒険者の方にとってはモンシャスの古代遺跡の方がやりやすい、と言われています」

「なるほど……そう考えると確かに、古代遺跡の方が直接戦闘力が求められる感じですね」


 ガラックの岩場は、無数にあるルートを進みつつ、途中に現れるモンスターを倒していくエリアだ。

 対してモンシャスの古代遺跡は、一定のエリア内にリスポーンするモンスターを探して歩き回って倒していく場所。


 安定度や安定性を考えるならばガラックの岩場が上だろうが、自分でモンスターを探すことや場合によっては連続の戦闘に耐えられるならばモンシャスの古代遺跡の方が効率が良い。

 そう考えると、ここでモンシャスの古代遺跡を選ぶのは脱初心者が出来ている証になるかもしれない。


「高杉さんの活躍は嬉しいですが、無理はしないでくださいね」

「肝に命じます」


 女性に心配されるのって、なんかいいね。

 まあお仕事なんだろうけど、女性経験の少ない俺にとってはそれだけでちょっと嬉しいことだ。


 短い付き合いでもこんなふうに感じるのだから、ギルドの受付嬢に美人を集めるというのは実際に結構有用なのだろう。


「はい、鑑定終わりました」


 鑑定内容をまとめた紙を受け取る。

 ちなみにモンシャスの古代遺跡では、昼間はスケルトンしか出現しない。

 なので俺が今日倒したのは全て剣を持ったスケルトンだ。


 スケルトンがドロップするのは、奴ら使っている剣と鞘、それに紫色の結晶のようなものだ。

 詳細を見ると魔石というたぐいのアイテムらしい。


 ファンタジーとかだとよくあるけど、実際にどういう使い道してんだろ。


「高杉様」


 紙を見ながらそんなことを考えていると、坂井さんがかしこまった様子で声をかけてくる。


「はい、なんです?」

「このギルドに残るという選択をしてくださって、ありがとうございます。これからも精一杯サポートさせていただきます」


 隣を見ると、藤澤さんも同じように頭を下げている。

 おそらく武器を買うために他所に行くが籍は移さないと言ったことを指しているのだろう。

 俺もそれに応えるように紙を一度置いて姿勢を正した。


「まだ駆け出しですが、より先に進めるように頑張ります。今後ともよろしくお願いします」


 正直に言えば、ここのギルドから他所に移籍しないことになんとなく以上の意味はない。

 家やおじじのところからは確かに近いが、隣の市の大きなギルドもそれほど遠くないので距離的な問題はない。

 かと言って、わざわざそっちの大きなところに移籍するほどの理由もない。


 だから今のところ俺はここに留まっている。

 

 だが同時に、少し愛着が湧いてきていたりもする。

 いつ来ても変わらない2人と、人気の無いロビーと。

 武器がほとんど無くてスカスカなショップの棚や、小さな更衣室なんかも。


 住めば都という通り、幾度か通ったので愛着がわいてしまった。


 俺は複数人のパーティーなんかも今のところ必要とは考えていないし、しばらくは1人でフロンティアに挑み続けるだろう。

 それまでは彼女らのお世話になる。


 その分俺も、たくさんアイテムを納品して、ギルドの実績に貢献することにしよう。

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