第18話 モンシャスの古代遺跡
いつものごとくゲートを越えて、今日はモンシャスの古代遺跡にやってきた。
さて何をしよう。
「どうすっかなあ」
正直な話、今日は何をするか特に考えていない。
しばらく冒険から離れてリフレッシュすると決めていたから調べたり考えたりもしていないし、先日のトライでサーベルタイガーもどきも痛い目に合わせた。
そうなると、次にどうするか考えなければならない。
なんとなくあれしとくかー、とかいうのは俺はあんまり好きではない。
というより、なんとなく何かをするなら『のんびり活動したいから今日は深く考えずにやる』とかそういう方向の目的があるわけだ。
そういうわけで、いざフロンティアには来たがゲートから離れることなく、ゲートにもたれかかってぼうっと考え事にふける。
「取り敢えず一旦は武器かなあ……」
1週間ほど通い詰めてサーベルタイガーもどきに100回近く写身を殺されながらもしっかりとしたダメージを与えたわけであるが、それで足りたかと言われると全く足りていない。
俺の戦闘経験という意味でもそうだし、格上を相手にしたことによるスキルの習得やレベルアップもだ。
耐性スキルの上限なんかはまだ調べていないがレベルの上限は99ぐらいまではあるだろうし、どこかで火力系のスキルもどうにかして確保したい。
戦闘経験についても、あのサーベルタイガーもどきに対しては試行錯誤しまくったからある程度先読みしてレベル差が大きい中でも辛うじてやりあえたが、他のモンスター相手に同じことは出来ない。
死闘の目的はあらゆる強敵と戦うことで経験を高めることにあるので、その経験が一種類のモンスター相手では意味がない。
そうなると、どこかのタイミングでまたサーベルタイガーもどきを相手にしたようなことを別のモンスター相手にやりたい。
俺の好みで言うなら、できれば最低でも後10回ほどは繰り返したい。
厳しい訓練はやればやるほど良いというのが俺の持論だ。
だが、じゃあそれを今すぐ始めるかと言われるとそうではない。
ひとまず普通の自分を大事にする冒険を思い出さないといけないし、武器も更新しておきたい。
いずれ俺がスキルがある程度揃って本格的に本体で冒険を始めたときにはまたそのときに相応しい武器を探すだろうが、その前の段階で使う武器もある程度揃えておきたい。
剣だって今使っているのは一番安い駆け出しの冒険者が使う粗悪品だし、更に悪いのは斧とナイフだ。
両方冒険用のものではないので、2つ目のエリアでしかないガラックの岩場でもはや力不足だ。
最低限冒険用の、少し良い品にしておきたい。
「となると死闘と稼ぎを交互が良いか」
死闘で定めた目標を達成するまでを1ターンとして、その後数日フロンティアで稼ぎをするのでもう1ターン。
これを交互に繰り返していくのが一番安定だろう。
ずっと死闘をしていると咄嗟の時に命を大事に出来ない気がする。
となると、先日まで死闘をやってきたので今度は稼ぎ時である。
「よし、それじゃあ1週間。おじじのところでの訓練と稼ぎに使って、その後また突っ込もう」
1週間というのはキリが良い単位だが、今後死闘がどれぐらいかかるかによって変えていくつもりだ。
あるいは死闘が長くかかりすぎるようなら、間に弱いモンスター相手に稼いで自分を見失わないようにしなければ。
というわけで、おろしていたリュックを背負い直してモンスターを探して歩き始める。
そう言えばあまり考えてなかったけど、リュックも冒険者として使うなら安物じゃなくてミリタリーバックパックとかの頑丈なやつに変えたいな。
ここ《モンシャスの古代遺跡》は、その名前どおりフロンティアに由来するであろう文明の遺跡だ。
元は石造りの建築物が多かったようだが、遺跡という名前の通り大半が崩れていて、ところどころ屋根や壁が残っている場所はあるものの建物として利用できるような遺跡は残っていない。
地面の石畳は綺麗なものだが、これは剥がれていると危ないので後から補修されたらしい。
自衛隊の皆さんお疲れ様です。
そんなエリアを、時折金属音や破壊音がするのを聞きながら歩いていく。
ここモンシャスの古代遺跡は、《ガラックの岩場》と合わせて駆け出しから中堅手前のの冒険者が日銭を稼ぐのに適したエリアなため、冒険者の数が他のエリアと比べてかなり多い。
加えて街という限られた空間にモンスターと冒険者が集って戦闘をしているので、あちこちからその戦闘の音が聞こえてくる。
俺もゲートからあまり離れないようにしつつ、ぐるっと道なりに歩き回ってみる。
《始まりの森》や《ガラックの岩場》のようにいくつかのルートがあってそれに沿って進みつつモンスターを探すのではなく、エリアを自由に探索できるゲームで言うところのオープンワールドのようになっている場所だ。
いやまあ前の二つもやろうと思えばオープンワールド的に自由に動けたのだが、一方向に続く道があったかどうか、と言う話である。
「壁登ったり出来んのかな?」
遺跡の中には二階建てであろうものもあって、てっぺんまで登れば周囲の様子は見えやすそうだが、流石に崩落の危険もあるのでやめておく。
そんなふうに廃墟の街を歩いていると、ちょうど横にあった建物から何かの気配を感じてそちらを振り返る。
そちらを見ると、モンスターが消滅するときとは逆に光の粒が集まって1体のモンスターがリポップした。
全身骸骨で武器だけを持ったモンスター、スケルトンだ。
このフロンティアのモンスターは、倒したときはドロップアイテムだけ残して他は消滅するし、出現するときも何かから生まれるのではなくこうやってまさしくリポップする。
本当にゲームチックな仕様をしている。
何かこういうところは秘密がありそうな気がするけど……フロンティア自体が異世界の神様が作った闘技場みたいなことない?
流石に無いか。
でも本当に、モンスターを倒したら利益が得られるなんてゲームみたいで都合の良い話だ。
今更だけど。
カタカタと骨を鳴らしながらスケルトンが建物の残骸から通りに出てくる。
「さて、お手並み拝見」
その間に俺はリュックを離れたところにおろし、剣を抜いて構える。
戦闘の前に考えるのもなんだけど、リュックも中に緩衝材とか仕込んで適当に放れるようにした方が咄嗟の戦闘には良いかもしれない。
理想はリュックなんて無しで小さなポーチに戦闘用の道具だけ持ち歩くことだが、ドロップアイテムを持って帰らないとお金にならないしな。
ぎこちない足取りで近づいてきたスケルトンが剣を振り上げてこちらに振り下ろしてくる。
俺はそれを真正面から受け止め、そして跳ね返した。
パワーは骨な見た目に反して結構ある。
あるけど俺でも受け流すんじゃなくて跳ね返せるレベル。
剣の振り方はぎこちない歩みに反して、適当に棒を振り回すよりはちゃんと剣を振りに来てる。
多分駆け出しの冒険者とかなら結構苦労する、というか下手したら1対1で負けるかもしれない。
けど、うん。
しばらく格上に殺されまくってたせいか滅茶苦茶遅く感じる。
おじじよりもあのサーベルタイガーもどきよりも全然遅い。
あくびが出るとは言わないものの、若干拍子抜けだ。
今度はこちらから斬りかかり、一度スケルトンに剣を受け止められた後、引いた剣で別の角度から切り上げて骨の胴体に刃を叩きつけてスケルトンを破壊した。
反応を試すためにジャブを打ったけど、もっと初手でちゃんと斬りかかれば多分防御させずに斬り伏せれる。
骨だからどこを攻撃して殺せばいいかと思ったが、普通に骨にダメージがあれば致命傷になるらしい。
スケルトンはそのままガシャリと金属とはまた違う音を立てて崩れ落ちると、光の粒になって消えた。
「剣か……俺のよりしょぼいなこれは」
スケルトンのドロップ品は剣だった。
けど品質的にはとても使い物になりそうにない。
これも売却だな。
やっぱり武器はちゃんとショップで買わないと駄目か。
そう言えばモンハンだと倒したモンスターの素材で防具や武器を作っていたけど、フロンティアにそういうのあるんだろうか。
今のところとても素材にはできそうにないモンスターばっかり倒しているけど、あのサーベルタイガーもどきの毛皮とか爪とか良い装備になりそうだ。
ああでもガラックの岩場でモンスターの毛皮ドロップしたし、そういうのを加工した装備はありそうだ。
拾った剣をなんとかリュックに収め──ることが出来なかったので、リュックの上を開けて柄がリュックの口から飛び出すように収めてから再び探索を始める。
この剣ばかりドロップするとなるとドロップアイテムの持ち運びに困ることになりそうだ。
剣だからかしっかり重たいし。
一体いくらで売れるんだろうか、このお荷物は。
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