第7話 天使の贈り物?

「こんにちは! ちょっち様子を見にきちゃいましたぁ。どうですか新生活?」


 光が膨れ上がった後、姿を現した天使が軽快に挨拶をしてきた。よく分からないけど前回と同じように、テレビ電話的なものなんだろう。


「こんにちは。っていうか、何ですかこれ」


 俺は困惑の渦中にいたので、つい口調が失礼になってしまう。攻略本を見せると、天使はテヘヘ! という笑いをした後で、


「攻略本ですぅ」と分かりきった回答をした。


「いや、攻略本は分かってるんですけど、俺は攻略される側なんで、もうちょっとなんか方法ないんですか? これじゃ厳しいですよ」

「……あ。言われてみれば確かにそうですよねー。んー、でもきっとガルロードさんはボスキャラですから、頑張ってレベル上げれば勇者なんてコロコロできちゃうと思うんですよね」

「コロコロってなに!? いやいや、もうちょっとなんか下さいよ! チート的ななんか! あるでしょ?」


 ええー? と困惑しつつも上を見上げて考える天使。おっとりしているというか、どうにも抜けてる感が否めないんだが。


「チート的なものって、あのQRコードでもダメです? すっごいサービスしたつもりだったんだけどなぁ」

「え? もしかしてこれ?」


 俺は攻略本の一番最後に挟まれていたA4サイズの紙を取り出して、天使に見せた。


「あ、そーそー! それ、私が大奮発で用意したんですよ。ずーーーーっと野獣をプレイして、ようやくゲットしたお気に入りが入ってますからぁ。これでガルちゃんは無敵です」


 イェーイ、といい出しそうなピースサインをこちらに向けてくる天使。え、ゲームプレイしてゲットしたってどういうこと? というか、天使もゲームしたりするのか。そっちのが意外だった。


「どうやって読み込むんですかこれ?」

「え?」

「いやいや、カードリーダー的なものがないと読み込めないでしょう」

「……あ! 忘れてましたぁ」


 忘れてましたじゃねえよ! と檄おこになりそうな自分を抑え、さらには湧き上がってきた頭痛を堪えながら、俺は話を進めることにした。


「読み込めるやつがあるんですか?」

「はい! ありますあります。いい感じのがあるので安心してくださいねえ。じゃあ今からそっちに送っちゃいますっ」


 あー良かった。ちゃんとあったんだチート的なやつが。多分そのカードリーダーで読み込んだら、世界が変わるような何かが手に入るに違いない。ちょっと頼りない天使だけど、流石にここまで言うなら信用しよう。


「ええと、たしかコレとコレと、あとコレと……忘れちゃったお詫びに、他にもサービスして送っちゃいますね」

「いいんですか! ありがとうございます」


 サービスしてくれると聞いて、さっきまでのイライラが吹っ飛ぶ俺。人間っていうのはゲンキンなものである。


「はーい、じゃあこのまま送信を、」


 その時だった。テレビモニターみたいな映像の端から、女が小走りでやってきたのは。


「シーちゃん! 今ちょっといい?」

「え? あ、はい」


 シーちゃんってこの天使のことか。どうも慌てた感じだが、何かあったのだろうか。嫌な予感がしてくる。


「実はさぁ、ちょっと天界で集まりがあるんだけど。天使が足りなくなっちゃって……シーちゃん来てくれないかな?」

「いいですよぉ。いつですかー?」

「超悪いんだけど、今これからなの! すっごい神様が集まってて、このチャンス逃せないんだわ」


 はえー、という抜けた顔になるシーちゃん。


「じゃあこの作業が終わったら行きますね」

「それけっこう時間かかるやつでしょ? ごめん! 超急ぎだから、すぐ来てほしいの」

「ええー……でもぉ」


 なんか雲行き怪しくなってきてるな。そんな急な誘いは断ってしまえ! っていうかどっちでもいいから早くカードリーダー的な何かを送ってくれ。


「フリーのイケメンがいっぱい来るんだけど、天使がどうしてもあと一人いないと……」

「え! 本当ですか? 行きますぅ。ごめんなさいガルちゃん。また後で送りますね」

「は!? ちょっと待て! おい!」


 直後、シュン! という音と共に光は消え去り、図書室は静けさを取り戻した。


 あ、あいつ! なんださっきの変わりようは。まるで合コンにでも行くようなテンションに見えたけど。


 ダメだ。あの天使は頼りにならない。本当にチート的な何かを送ってくれるのか怪しくなってきた。


 とにかく自分で乗り越えるしかなさそうだな。その後は図書室でいくつかの本を読み漁り、ある程度この世界にある常識を学んでみた。


 付け焼き刃ではあるけれど、全く知らないよりはいい気がする。


 いつの間にか夕方になり、父と母を乗せた馬車が屋敷にやってきた。その後少しして、兄と姉を乗せた馬車も到着したようだ。


 図書室に軽い足音が響き、ドアが開かれる。メイドのシェリーだった。


「失礼します。ぼっちゃま、夕食の準備が出来ましたので、ご参加いただけますでしょうか」

「分かった」


 ちゃんとみんなで食事をするのは初めてだ。少々緊張しつつ本を片付け、食卓へと向かう。


 ドアを開いた先に待っていたのは、それは豪華な装いをした人達だった。

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