第6話 稽古と学園

 そして庭の広いところに出て、俺はライアスから一本の木剣を借りることになった。


 木で作ってあるとはいえ、けっこう重い。貧弱な貴族ガルロードの腕にはきついのだ。


「今回は初めての稽古ですので、まずは基本から行うこととしましょう。準備は宜しいですか」

「ああ。よろしく」


 剣の練習とか前世でしたことなかったし、なんとなくワクワクする。まずは構えから教えてもらい、続いて剣を振る練習をすることに。


 ライアスは基本として、剣を中段に持ってくる構えを見せてくれた。剣道でもよくみるような感じ。


 構え自体は特に問題なくできたので、次は振りである。真っ直ぐ切り落とすやり方や、横に振る方法、斜め上、または斜め下から切る方法などを教わった後、続いて突きを教えてもらった。


 どれも簡単なようで難しい。さすがライアスの剣はどんな動きでも流れるように美しく、長く腕を磨いているのが素人目にも分かるほどだった。


「相手は自分と同じくらいの体格を想定します。背が高い相手、低い相手とも戦うことになりますが、基本は自分と同じ相手です。自分自身と相対している姿を想像すると良いでしょう」


 なるほど、勉強になる。庭での稽古はいつの間にか熱を帯びていき、気がつけば一時間以上は必死に剣を振っていた。


 もう息も絶え絶えだが、なんだか気持ちがいい。ライアスも満足げに微笑を浮かべていた。


「ぼっちゃま! 初めての稽古にしては、かなりの上達ぶりですぞ! 事によると、剣術の才能がおありなのかもしれません」

「そうだといいな。できれば自分の身は、自分で守れるようになりたいからね」

「素晴らしい心がけです。本日はこれで終わりでよろしいですか」

「ああ、有意義な時間を過ごせたよ。ありがとう、また頼む」

「お、おおお! なんともったいないお言葉!」


 なぜかライアスの瞳からポロポロと涙が流れ落ちてる。やたらと大袈裟な男のようだ。


 とにかく稽古を終えて、俺はまた屋敷に戻った。ガルロードの日常がよく分かっていないのだけれど、マジでこのままずっと放置なんだろうか。


 だとしたらあまりにも寂しい貴族じゃん。そう思い図書室にぶらりと足を運んでみる。


 すると、さっき紅茶をくれたメイドがまたそろそろとやってきた。


「ぼっちゃま。私は今、驚いています。まさかぼっちゃまが、あのように剣を習われるなんて……」

「見てたんだ? まあ、暇だったしな。ところで、俺って普段は何もしてなかったんだっけ?」

「いえ、日頃はお忙しい日常でございます。いつもは学園に通っておられまして、帰ってきてからは部屋にこもっておられました」


 え、学園? この世界って学園があるのか。


「え? じゃあ今日は休み?」

「はい。明日からまた通われるご予定です」


 マジかぁ。魂はとっくに社会人なんだけど、学舎に行くっていうのは不思議な気分だ。


「良かった。このままじゃ退屈過ぎて、死んじゃうかと思ったよ」


 じゃあ勉強もしなくちゃいけないっぽい。そういえばこの世界の文字って俺理解できるのかな。ふといくつか本を眺めてみると、不思議と何が書いてあるかが分かる。


 凄い! 新鮮な気分だと思いつつ、何冊か本を手に取ってみた。


「あの、もし良ければお教えいただきたいことがございます」


 いくらか気になる本を手に取り、テーブルに置いたところで、どうも神妙な感じになっているメイドが思わせぶりに口を開いた。


「ぼっちゃまは今まで、何かを真剣に学ばれたり、本に興味を持ったりすることはありませんでした。ご記憶を無くされたとはいえ、正直驚くほどの変化です。一体どうして、ぼっちゃまはそのように高い意欲を持たれたのでしょう」


 そりゃ半年もすれば殺されちゃうからだよ、とは言えない。俺はとりあえずの建前を口にしてみた。


「記憶をなくしちゃってるから、無意識に思い出そうとして行動に移してるのかもしれない。それと、なんかみんな良い人っぽいしさ」

「良い人、ですか?」

「ああ、君もすごく親切にしてくれるね。とてもありがたいよ」

「そ、そんな。……あ、ありがとうございました! それでは、食事の手伝いがございますので、失礼します」

「ん? ああ」


 ライアスといい、紫髪メイドといい、どうも反応が大袈裟なんだよな。


 っていうか、学園に行くというなら、もしかしたら仲間にできる奴とかいないだろうか。俺はこっそりと隠し持っていた攻略本を開いてみた。


 勇者達を直接倒しに行ったりすることはできない。でも、例えばこの本の中にいる味方の中で、こっち側に引き入れることができる人とかいないかな。


 そう考えながら仲間データのページを眺めてみる。これは仲間になる大陸ごとにキャラクター分けされているので、俺のいる大陸のページで探してみることにした。


「…………え!?」


 すると、予想外のキャラクターがいることに気づいた。さっきはさらっと流し見していた程度だったから記憶に残らなかったのだが。


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 ▪️ライアス 初期Lv38 性別:男

 HP:A MP:C 力:A 技:S スピード:B タフネス:A 運:B 覚える魔法:D

 邪悪貴族があまりにも邪悪過ぎたため、裏切って仲間になる騎士団長。

 【連続切り】【気合い】【カウンター】といった戦士系に必要なスキルをひととおり覚えた状態で仲間になる。

 みた感じベテランの風格だが、ステータスもしっかり伸びる。

 一度仲間にできれば最後まで活躍してくれるだろう。

 優秀だが正規ルートでは加入しない。特定の手順を踏まなければ仲間にならないのが難点。


  ▪️シェリー 初期Lv23 性別:女

 HP:C MP:A 力:B 技:B スピード:S タフネス:C 運:A 覚える魔法:S

 どっかの貴族が酷過ぎて我慢できずに裏切るメイド。

 実はある大陸からワケアリでやってきたらしい。

 回復魔法、補助魔法、攻撃魔法と欲しいものを習得しまくるので、メイドというより賢者。実質シェリーだけが覚える魔法もある。賢者より賢者してる。

 しかも物理攻撃も案外強い。ステータスもぐんぐん伸びる。

 ぜひ仲間にしたいところだが、正規ルートを進めるだけでは仲間にならず、極めて限定的な条件を達成しないとダメ。

 仲間にしたくてゲームをやり直したユーザーがなんと多いことか泣

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 ライアスはすぐに分かったが、このシェリーっていう娘もうちのメイドじゃん! プロフィール画像で分かったが、なんかこっちは賢者っぽい額当てつけてる。


 メイド賢者? よく分からないけど、意外と近くに有力な連中がいたみたいだ。


 急な展開にビックリしていると、ふと部屋の中央から眩い光が現れた。

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