第4話 前世の死因

 今までの人生で見たこともないくらい、そいつはマジで顔が整っている上に、どんなモデルでも叶わないようなスタイルをしていた。


 長い海色の髪は、どっかの美容室で染めたのか?


「私の名前はエレノア。この世界を創造した神に仕える者。突然のことばかりで驚かれているようですね。わたくしが貴方に真実を教えましょう」

「お、おう」


 神に仕えてるなんていきなり言われて、信じる奴がどこにいるんだろ。っていうか、どういう仕掛けでこんな真似ができるのかと、そんなことばかりを考えていた。


「単刀直入にお伝えしましょう。貴方は前世の地球で、ほんの少し前に死にました。そして今ここで、勇者ショウとして転生したのです。つまり周りの人達がおかしいわけではなく、ここは本当にゲームと同じような世界であり、貴方は勇者なのです」


 ちょっと待ってくれよ。いきなりヘビー過ぎるって!


 俺ってば本当に死んじゃったの? 淡々と説明されているわけだが、この女が話すと本当にそうなんじゃないかと思えてくる。


「本当に、俺は死んで転生したっていうのか?」

「信じられないようですね。では、真実の映像をお見せすることにしましょう」

「映像?」


 その時だった。俺の頭の中に猛烈なイメージが浮かび上がっては消え、繰り返し繰り返しかつての記憶を呼び戻してくる。


「あ、あああああああ!」


 身悶えしながら床に崩れ落ち、ゴロゴロと転がっている間も、動画みたいに何かが頭の中に浮かんでくる。


 この光景は覚えていた。小学校の卒業式、中学校でしたいじめのこと、高校時代に彼女を殴った記憶。社会人になってからのヤンチャな日々。


 そして記憶はついに、俺が知らないところまで進行していく。


「な、なんで……」


 急に冷静になった自分が不思議だった。不倫相手の女とホテルでいろいろとした後、外に出たら知らない男が立っていた。


 そいつは俺を見るなり、鬼の形相で駆け寄ってきて、唐突にぶつかってくる。どうやら腹から血が出ているようだ。


 女が悲鳴をあげていた。男は俺を押し倒すと、それから何度も何度も持っていたナイフで——


「ヒィイ! も、もういい! やめろおおお」


 あまりにもえげつない光景はようやく頭から消え去り、気がつけば全身から汗が吹き出していた。


「これで理解できたでしょう。貴方は志半ばにして力尽き、そして転生したことを」

「あ、ああ。もう、なんか解っちまったわ」


 恐怖で顔を引き攣らせながら、なんとか立ち上がった。あんなに怖い目に遭って死んだというなら、思い出したくもなかった。


「よろしいです。貴方は勇者。そしてこの世界は、あの有名なRPGである、超野獣伝説の世界です。ご存知ですよね?」

「……まあ、知ってるけど」


 ひっでえゲームだっていうことは知ってる。あまりにも酷いらしいので、プレイしたことはないが。


「では話は簡単です。貴方は勇者として、封印から解き放たれた野獣を討伐しに行くのが目的となります。それまでは、ゲームと同じように進行いただければ問題ありません」

「なんていうか、死んだことは理解したけどよ。俺が勇者っていう実感は、やっぱりまだないかな」


 エレノアとかいう女はクスリと笑った。マジでナンパしたい。そういえば背中に翼が生えているじゃん。つまりマジな天使?


「はじめはそういうものですよ。明日から、貴方は勇者として振る舞い、そして勇者としての行動をする。そうして目的を達成すれば、この世界で好きなように生きていけるのです。富も名誉も、思いのまま」


 それと女も。くうう! すげー惹かれること言うじゃん。


「いいねいいね。ついでにエレノアも俺のことをサポートしてくれるってわけか」

「貴方には必要ないはずですわ。それでは、良い結果を期待しています」

「ん? おいおい、ちょっとま」


 言いかけた時にはヒュン! と光が消え去って、俺はまた薄暗い部屋に一人になってしまう。


 まあいいや。なんかあったら助けに来てくれるかもしれないし、この世界はこの世界でいい女もいっぱいいるだろ。


 なんか楽しみになってきた。これも今までの行いの賜物ってやつかな。俺は久しぶりにワクワクしつつ、ふかふかのベッドで眠ったのだった。


 ◇


「おい! ショウ! 起きろ!」

「ンゴ!? ん、んん?」


 いつの間にか陽が上っていた。ガンガン叩かれて目を覚ますと、昨日会った褐色にいちゃんと神父がいやがったわけで。


「おお、おはよう」

「記憶はどうだ!? 戻ったか?」

「まだ全部戻ってはいない。でも、自分が勇者だってことだけは、思い出してきた」


 この返しに、遠間で眺めていた神父が微笑を浮かべる。


「良かった……! もしや魔王、いや野獣の呪いではないかと、私は夜も眠れぬほど恐怖していたところだよ。大司祭様もいらっしゃる。念の為に診てもらおう」

「ああ、その後はもう一度、王様に謁見だな」


 褐色のにいちゃんも、こちらの様子を見てニヤリと笑う。


「ちょっとずつ調子が戻ってるみたいだな。実は俺も心細かったんだ。とにかく良かったぜ! ああそれと、俺のことはパウロって呼んでくんな」

「パウロ。よろしくな」


 ふふふふ。これから勇者としての冒険が始まるのか。なんだかワクワクしてきたぜ。


 いっそのこと、前世以上に好き放題やっちまおうかな。


 大司祭とやらの意味不明な診察を終えた後、早速勇者として旅立つことにした。

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