第2話 超野獣伝説-完全攻略マニュアル-

「うお? な、なんだ」


 たぶん何かの本か、と思いつつそれを取り、起き上がってよく観察してみる。


 本の表紙には、【超野獣伝説-完全攻略マニュアル-あの野獣の全てがここに!!!】というタイトルが書かれていた。


 これは……攻略本か!


 表紙にはいかにもファンタジーな鎧や服に身を包んだイケメンと美女が、威風堂々といった感じでポーズを決めている。いやーさまになってんね、知らんけど。


 ちなみに一ページ目を開くと、小さなメモ用紙が挟まれていて、黒ペンみたいなもので下手な文字が書かれていた。


【これでなんとか頑張ってくださいね! 勇者倒したらお礼もいっぱいあげちゃいますよ。ファイト♪ あなたの天使より】


 要するにこの攻略本を読んでなんとかしろ、というわけか。


「まあ、攻略本があればどうにかならんこともないか。どれ、ちょっとばかし読んでみるとしよう」


 何をすることもなく暇だったので、まずは攻略本にしっかり目を通してみることにした。


 まず天使の汚いメモをどかして一ページ目を見つめた途端、俺の頭は混乱に包まれる。どうやら誰かの語りが記されているみたいだが。


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 預言者は語る。

 「かの野獣がついに解き放たれた。闇深き神殿の最奥で、神々が作りたもうた鎖を引きちぎり、炎に包まれし道をこともなく進み、数日のうちに地上へと姿を現すことであろう。もはや何者もあやつを止められぬ。数多の剣も、猛毒を塗った矢も、それら全てを生み出す人間の知恵でさえ、かの野獣を倒すこと叶わぬ……」


 老人は間も無く尽きるであろう自らの命を顧みず、喘ぎながらも側にいる者に語り続けた。


「致し方のないことだ。神ですら恐れる不死身の野獣を、人如きが殺せるはずがない。今や人の子にできうることがあるとすれば……かの野獣に情が芽生え、慈しみの心で我々を、殺めることを思いとどまってくれるよう……祈ることしかないであろう。全く期待できぬ、祈りであることは……歴史が証明しているのだが。 ……または……」

「または……なんでございましょう!」

「たった一つだけ。あやつを殺す方法があるとするなら……」


 =========


 ………なんだよ!? どうしたら殺せんの?


 まさにいいところで語りは終わっており、この後にあるのは目次。なんてことだ、知らないゲームだけに気になってしょうがないんだが。


 きっと、この野獣とか呼ばれているのがラスボスってことなのだろう。不死身とか言ってたけど、ゲームだし倒せるようにはなっているはず。でも怖いので関わらないよう生きていきたい。


 さて、とにかく読書を進めてみることにする。普段なら俺は今頃会社でヒーヒー言いながら働いているけれど、今日はみんなから放置されているだけで優雅なもんだ。ちょっぴり虚しいことは考えないことにする。


 目次の後にはまずこの超野獣伝説が一体どういうゲームであるか、どんな操作でどういった遊び方ができるのか、プレイヤーの目的は何かといった初心者向けの説明があった。


 このゲームはやはりRPGであり、最終的には復活した野獣と呼ばれる存在を倒し、世界を平和にすることが目的のようだ。よくあるRPGって感じ。


 続いてメインキャラクター数名の紹介ページに移る。主人公である勇者はさすがイケメン万能タイプであり、ぱっと見たところこいつ一人でもクリアできるんじゃね? っていうくらい優遇されてそう。


 生い立ちとか性格とか色々書かれているけれど、とりあえず細かくは後で見ることにして先に進む。


 その後は勇者が旅に出て世界中をどう進んでいくか、ダンジョンのフロアマップや攻略法、街でどんなイベントがあるといった情報が画像付きで説明されていく。


 まあこれもよく見るタイプというか、昔のRPGって大体こういう作りだよねっていうドットキャラやいかついモンスターの絵がふんだんに紙面を彩っていた。


 そして物語の途中、どうやら貴族ガルロードの登場から戦いまでが書かれているページがあった。わずか二ページだけ。


 しかしこの貴族ってばやり方が汚い。基本騙し討ちオンリーのドクズであることが事細かに書かれている。なんて奴に転生しちゃったんだよ俺。


 さらにペラペラとページをめくっていくと、ついにラスボスダンジョンのコーナーが……なかった。


【この後はトップシークレット! さあ、このQRコードから確認しよう】


 などというふざけた文言で締められている。俺は地球ではなく異世界にいるのだから、当然このQRコードを読み込む方法などない。


 攻略本のタイトル詐欺っぷりに少々ムッときたけれど、ラスボスのことはとりあえず考えるのはやめよう。だって戦う予定ないし。


 問題は勇者なんだよなぁーと思いつつ次に進むと、今度はそれぞれのキャラクターデータが書かれていた。こういうのわりと好き。


 どうやら仲間が入ったり抜けたりを繰り返す仕様になっているようだ。スーパードラマチックRPGというキャッチコピーが表紙にあったが、涙無くしては見れない展開とかあるのだろう、多分。


 一番最初の勇者から四番目のキャラまではこんなことが書かれてる。全て画像付きだ。


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 ▪️勇者 初期Lv:1 性別:男女選択可能

 HP:A MP:B 力:A 技:C スピード:B タフネス:A 運:B 覚える魔法:S

 主人公だけあってバランス良し。勇者専用の魔法を覚えるが、必要となるレベルまではかなり遠い。

 とにかくこのゲームは根気良くレベル上げをするしかない。しばらくは苦しいが我慢しよう。


 ▪️アルバレス 初期Lv1 性別:男

 HP:C MP:C 力:D 技:D スピード:D タフネス:D 運:D 覚える魔法:C

 序盤では貴重な回復役。魔法はイヤースとゲドックしか覚えず、ほぼ成長しない底辺ヒーラーだが、初期の戦いでは十分と言える。

 彼のMPが尽きたら宿屋に泊まって、またLv上げという繰り返しが基本。

 ストーリー上離脱するのが早く、その後は苦しいので、Lv上げをちゃんとしてから攻略を進めよう。


 ▪️パウロ 初期Lv:6 性別:男

 HP:B MP:C 力:C 技:E スピード:E タフネス:B 運:C 覚える魔法:-

 序盤のわずかなあいだ盾役を引き受けてくれる。

 途中からほぼ全てにおいて主人公が上回るので使い道がなくなる。でもそのくらいのタイミングで、パーティを強制離脱することになるので心配はいらない。

 とはいえこの後に加わる仲間達は、彼の比ではないくらいアレだが。


 ▪️ディアドラ 初期Lv:3 性別:女

 HP:D MP:D 力:D 技:C スピード:C タフネス:D 運:A 覚える魔法:C

 グラフィックが非常に可愛いからといって浮かれてはいけない。すぐにパーティを抜けることになるぞ。

 しかし成長率が全体的に悪いので、離脱していなくても中盤以降は出番がなくなっていただろう。いろんな意味で残念。

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 どうやら最初の仲間達は、途中でパーティを抜けることが確定しているらしい。どうでもいいがこの攻略本を書いた編集者は、少々口が悪い気がする。


 ここで俺は一つ気になることがあった。攻略本には敵のデータもある。つまり俺のデータも探せば見つかるはずなのだ。


 そう考えひたすらページを捲り続けたところ、後半のほうに【邪悪貴族ガルロード】の文字を発見! どれどれ……何が書かれてるかな。


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 ▪️邪悪貴族ガルロード

 HP:600 MP:10 攻撃力:50 防御力:40 スピード:20 タフネス:1 運: 行動一覧:攻撃 挑発 騙す 不意打ち 騙し討ち 幻の魔法?? 幻の剣??

 驚愕のタフネス1。

 なぜボスキャラとして登場するのか疑問を覚えるくらい弱い。

 ステータスは道中の雑魚以下ってどういうこと?

 しかも文字化けした謎の魔法や剣技を仕掛けてくるが、MPが足りず使えないという有様。

 ここまで鍛えてきたパーティなら、1ターンで十分に倒せる。いや、むしろ瞬殺でいける。

 ========


「……………」


 俺は呆然としつつ空を眺めた。転生したら普通チート的な力とか備わってるもんじゃないの。アニメとかじゃ大体そうじゃん。


 ……どーすんだ、これ。マジでどうすりゃいいのこれから。


 もしかしたらカブトムシに転生したほうがマシだったかも分からん。しかし、こうなったらやるしかない。


 なんとかしよう。俺はそれでも生き延びる道を探すことにした。

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