蘇った戦闘狂い

 三百年後のこの世界にも、魔術というものが存在していた。

 体内にある魔力を媒介とし、己が求める結果へ導くための過程を生み出す。

 その威力は、扱う人間それぞれ。

 ここに至るまでには多くの技量、センス、魔力総量といった要因が存在し、そもそも扱える人間が少ない。


 逆に言えば、扱える人間は―――


「サーくんっ!?」


 サラサの背後からそんな声が聞こえてくる。

 しかし、関係ない。

 己の視界に映るのは、血塗られたナイフを持つ男と、血だまりに沈む騎士達の姿。

 これだけで、自然とサラサの感情は昂ってしまう。


「さぁ、るか!?」

「ばッ!?」


 男の顔面にサラサの拳が突き刺さる。

 体格差は歴然。ただの子供のパンチ。

 しかし、男は鼻から血を流しながら馬車の外まで吹き飛ばされてしまう。


『なんだ!?』

『おい、いきなり吹き飛んだぞ!?』

『っていうか、さっきガキが一人降ってこなかったか!?』


 いきなりのことで、盗賊の男達の驚く声があがる。

 そんな中、ゆっくりと顔を出したのは白髪の少年———


「ふむ、ざっと二十人……騎士達と一緒に倒れているところを見ると、大半はやられてしまったらしい。私が遅いばかりに、獲物が減ってしまった」


 サラサは周囲を見渡し、顎に手を当てる。

 倒れている数人の騎士。とはいえ、それ以上に盗賊らしい雑多な服を着た男達が倒れている。

 きっと、技量ではなく数で押されてしまったような形だろう。

 その証拠に、まだ盗賊達は二十人ほど残っている。


『な、なんでガキがこんなパワーを……ッ!?』


 殴り飛ばした男が鼻を押さえて起き上がる。


「問答の前にかかってきなさい。楽しいから襲っているのだろう? 安心しろ、私も同じ人種だからなァ!」


 サラサは地面を駆ける。

 決して目で追えないとかそういう速さではない。ただ、というだけ。

 男達は驚いたが、一人の声で我に返る。


『油断すんなッ! てめぇらさっさと殺すぞ!』

「ははっ!」


 サラサに向かって男達が一斉に飛び掛かる。

 手には剣やら斧やら槌やら。どれも子供に向けるようなものではないものばかり。

 しかし、サラサはそれを見てもただただ笑うだけであった。


(血沸き!)


 一人の男の剣を避け、鼻目掛けて肘を打ち。

 槌を振り下ろそうとした男の手首を蹴って指先で両目を抉る。

 落とした槌を拾い、背後に迫った男目掛けて振り抜く。次は喉元に一つ手刀を突き刺し、鳩尾を蹴り上げた。


(肉躍る!)


 一人、二人と地に沈んでいく中、どこからともなく声が聞こえた。


『な、なんでこんなにガキが張り合える……ッ!?』

「不思議か? まぁ、答える義理はないがな」


 別に、サラサは男達よりもパワーが上でも、機敏さが凌駕しているわけでもない。

 サラサの持つ魔術は、自身を中心とした一帯の人間の身体能力を数値化、その中で一番高い数値の者と身体能力を合わせるというもの。

 極端に圧倒できるほど身体能力が上がったわけではない。


 ───ただ、土俵を同じにしただけ。


 そうでなければ、面白くないのだ。

 己が求めるのは、ヒリつくような臨場感と緊張感。それを越えた際の達成感。

 圧倒してしまえば意味がない。

 拮抗し、同じ条件で戦うからこそ乗り越えた際の面白さがある。

 戦闘狂いらしい魔術。

 今、この場で男達が圧されているのは―――間違いなく、技量の差だろう。


「ほらほら、どうした強者共!? このままではただ蹂躙されて終わるぞ!?」


 剣を柄で受け止め、手首を回す。

 捻られたことによって剣が一瞬宙に浮き、サラサはそれを蹴りで叩きこむことで対面にいた男の脳天を貫く。


『お、おぃやべぇよ!』

『ちくしょう、こんなガキがいるって聞いてないぞ!?』


 先程まであれほど嬉々として他者を嬲っていたというのに。

 いざ実際に立場が変わっただけで、表情がみるみる恐怖へ染まっていく。

 回れ右をしようとする者が徐々に現れてくる。

 それでも、サラサは獰猛に口元を吊り上げるだけ。


「おいおい、つれない態度をしてくれるな」


 返り血がついた手で頬を拭き、周囲にいる盗賊に視線を移す。


「言ったではないか、私達は同類なのだと」


 そして———


「ならば、最後まで愉快にり合おうではないか! どちらかが死ぬまで、楽しい宴にしようッッッ!!!」


 ここから先の出来事を記載する必要はないだろう。


 ただただ、一方的に戦闘狂バトルジャンキーの猛威だけが振るわれた。

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