変わってしまった

次回は9時と18時に更新です!( ̄^ ̄ゞ


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 地面に倒れ込むロイツ。

 顔から落ちていったというのに、ピクリとも動く気配がない。

 サラサは「期待外れだ」と、ロイツを心配することなく木剣を手で遊び始めた。


(にしても、予想以上に貧弱な体だ。今の一振りだけで握力が根こそぎ持っていかれた)


 こんなにも見た目が軽そうなものなのに。

 木剣は、そもそも子供が練習するために作られた剣だ。

 殺傷能力は低く、当たりが悪くても打撲にしかならない。

 それを子供の身でありながら平然と意識を刈り取るまでしてみせたのだが、サラサ本人は満足していないようだ。


(本当にしばらくは魔術頼りの戦闘になるな。もちろん、次は大人か少々戦える子供ではあるが)


 さて、期待も外れたしもう一度文献でも漁ってこの世界を勉強しよう。

 そう思い、踵を返そうとすると―――


「ぼ、坊ちゃん……なんですか、今の?」


 茫然と立ち尽くすリリィの姿が視界に入った。

 恐らく、自分の知る可愛い王子くんが虐められるのではなく一撃ノックダウンを見せたことによって唖然としているのだろう。

 しかし、それが分かっていないサラサは首を傾げ、


「ん? 今のは遠心力を利用して振っただけだが? あぁ、ちなみに柄を握るのではなく切っ先を握ったのは局所的にダメージを与えるため鈍器に見立てたわけで―――」

「へぇー、そうなんですね勉強になりますじゃないばーかッッッ!!!」


 忙しない子だ、と。

 サラサが肩を竦めていると、ズカズカとリリィは近づいて竦めている肩を掴んだ。


「あの可愛い坊ちゃんはどこへ!? いつもベッドで「この絵本面白いね!」って瞳を輝かせていた坊ちゃんがいつの間にそんな技を覚えたんですか!?」


 リリィの反応を見て、ようやくサラサは驚いている理由に気づく。


(あぁ、なるほど。確かに、いきなり病弱な子供が戦えるようになれば驚くのも無理はないか)


 サラサは生まれながらにして病弱。

 そのため、虐めやすい対象として普段から虐められていた。

 そんな子供が一振りで形成を逆転して見せたのだ、近くで見てきたリリィが驚くのも無理はない。

 かといって正直に説明するにはまだこの世界のことを知らない。

 何せ、目覚め一週間後に喧嘩を吹っ掛けられて今に至るのだ。

 まだ言ってもいいであろう根拠がないため、サラサはとりあえず誤魔化すことに―――


「睡眠学習だ」

「生死を彷徨っていた割には呑気だったんですね!?」


 仰る通りである。


「うぅ……いきなり雰囲気も変わりましたし、こんなことできるし……なんか感じがします」

「人は変わらず生きていくわけがない。体が大きくなるように、性格も雰囲気も変わっていくものだ」

「発言がおじいちゃん……」


 哀しみの涙を浮かべているリリィの横を、サラサは通り過ぎる。

 とりあえずリリィも後ろをついていくのだが、なんだかんだロイツは放置の方針らしい。


「……これは坊ちゃんがドッペルゲンガーじゃないかお風呂場で確かめるしかないです」

「君は何を言っている?」

「もしくは、ベッドの上で……」

「だから君は何を言っている!?」


 過剰なスキンシップを望むメイドに、サラサは思わず引いてしまった。


「まぁ、坊ちゃんが変わってしまった云々はこの際置いておくとして……意外と坊ちゃんって剣の才能もあるんですね」

「ん?」


 リリィの発言に、サラサは首を傾げる。

 才能があるなど当たり前。そうでなければ、自分は大陸に名を轟かせてはいない。

 これに至っては剣に限った話ではなく、槍だろうが弓だろうが、はたまた魔術だろうが、戦闘に関係する類いは一通り才能を発揮している。

 だからこそ、サラサは「意外」という部分に首を傾げてしまった。


「これなら、お体に無理のない範囲で剣術を誰かに教えてもらってもいいのかもしれません」

「いや、別に私は誰かに教わるなど―――」

「それこそ、に教えてもらうとか!」


 断ろうとした束の間。

 リリィの発言に、サラサの眉が反応する。

 そして———


「ほぅ! 王国最強の騎士とな!? それはこの王城にいるのか!? 喧嘩を吹っ掛ければ戦ってくれそうな相手なのか!? 投げつける時は塩がいいのか泥がいいのかどちらがいいと思う!?」

「なんで教わるんじゃなくて喧嘩腰で会おうとするんですか……」

「そうでないとれないだろう!?」

らないでくださいよ!」


 しかし、リリィの言葉は耳に届いていないみたいで。

 サラサは「この王城には中々素晴らしいネームを持つ者がいるのだな……是非とも会ってらなければ」と、ブツブツと呟き始めた。

 それを見て、リリィは決意する―――性格が変わってしまった坊ちゃんが怪我しないためにも、絶対に会わせるわけにはいかない、と。


「というより、普通に歩いているが……あの子は置いていっていいのか?」


 訓練場から出てすぐ、サラサがリリィの顔を見上げて口にする。

 どうやら放置の方針ではなく、完全に頭から離れてしまっていただけのようだ。


「あとで私が同僚に言って引き取ってもらうようにします。流石に青空を眺めるんじゃなくて地面とキスしたまま放置なんてしたら大騒ぎですからね」

「まぁ、それがいいだろう。綺麗に当てたから後遺症の心配はないが、一応診てもらった方がいい」


 私は大人しく文献を漁っておくがな、と。サラサは小さな足で王城へと足を進める。

 そんな横姿を見て、リリィはふと思った。


(でも、坊ちゃんがロイツ様を倒したって話になったら絶対に騒ぎになるんじゃ……?)


 大人しくもクソもないと思うんだけど。

 そう思ったリリィだが、とにかく今は主人を一人にしないようその横をついて行くのであった。

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