1-9 顔合わせ

 キューベの発言から空気が変わったのを感じたのか、子供達の質問攻めも終わり……数分後、エル達は目的地に辿り着く。

 子供達にお礼を言い別れを告げると、キューベは目の前の扉をノックもせず、勢い良く開けた。



「やぁ! 久しぶり!」



 部屋の中へと待っていたのは、クルーシュとライム、2人の女子が居た。


 1人はエルと同じぐらいの青髪の自身無さげな女の子。もう1人はクルーシュと同じぐらいの歳をした、身長が高く細身でありながら勝気のある目をした黒髪の女性だった。


 そして驚いた表情で此方を見ると、急いでクルーシュを除く3人は急いで床に膝を着いた。



「「「お、お、お久しぶりでございます!!」」」

「楽にしてくれ……というか、クルーシュは驚かないんだな?」

「……お久しぶりでございます、キューベ様。質問の答えですが、十分に驚いていますよ。顔に出てないだけです」



 クルーシュは皆から少し遅れて膝を着いた後、先程座っていた執務机にある椅子へと座る。


 そんな態度にサーナは少し眉を顰めるが、キューベの機嫌の良さそうな態度に気持ちを押し留める。


 キューベが極端に堅苦しい態度を取られる事を嫌う傾向にあると、知っているからお互いの行動だろう。



「お前ら、元気にやってるかぁ?」

「わっ! フェイスさん止めてよ!?」

「お久しぶりです、サーナさん」

「ちゃんと訓練はしている様ですね」



 4人が軽く雑談する横を通り、エルはキューベの横へと並び立つ。

 すると、キューベはエルの背中に手を添えた。



「クルーシュ、この子はエル。この度、パワルタの仲間になった」

「この子が例の……、僕は第5部隊隊長のクルーシュ。よろしくね」



 エルの名前を聞いた瞬間、女の子達の雰囲気が変わり、ライムは口を噤んだ。

 まるで、本当に初めて会ったかのようなクルーシュの表情に、心の中でエルは鼻で笑う。



(とんだ詐欺師だな……)



 しかし、エルも負けず劣らず無表情で返事をする。



「よろしく、エルだ」



 クルーシュの差し出された手を掴み、挨拶が終わる。

 そんな2人を見て、子供等3人が顔を見合わせる気まずい空気の中、キューべはクルーシュの執務机へと腰掛ける。



「で、此処に来た理由だが、私達と第5部隊の精鋭で『電波塔』へ出撃する事になったから、その報告に来たんだ」

「「「えっ」」」



 キューべがいきなりぶっ込む話に、クルーシュ以外の3人が素っ頓狂な声を挙げ、身体が前のめりになる。

 第5部隊は、商業団体パワルタの中では最弱な部隊と呼ばれている。部隊の大半が子供で構成されている為に、全体としてのレベルが低いからだ。


 だから、重要任務は他の部隊に任される事が殆ど。それなのにーー。



「ふぅー……それで此処に来たという事ですか?」

「そうだ、出発はなるべく早く。因みにエルも同行する」

「…………キューべ様は本当、大事な用事がある時程、突然やって来ますよね」

「重要な事は早め早めに終わらせる質でな」



 笑うキューベに、クルーシュは大きく溜息を吐いて椅子に深く腰掛ける。そして数秒の沈黙の後、また大きく溜息を吐いて前のめりに、机に腰掛けるキューべを見上げた。



「分かりました。ですが、3日は待って頂きたいです」

「上々だ」



 クルーシュの返答に満足げに笑うキューベ。

 2人の間には独特な雰囲気が漂っていた。これが上に立つ者の空気感というものなのか。



「何でこんなひょろっちい奴と一緒に行かないといけないんですか?」



 しかし、そんな空気の中、力強い声が響いた。



「 "ベドカ"! 口を慎むんだ!!」



 エルの横に立つ彼女は眉尻を吊り上げ、エルの方を指差していた。



「だってそうだろ? コイツ……見た所、やる気はあるように見えないし、私達とも初対面。連携も何も出来ない。コイツと行く絶対的な理由ってあるのか?」

「やる気はあるかどうか分からないが、連携はこの3日で訓練を行えば多少なりとも出来るようになるだろ?」



 確かに多少なりには出来るようになるだろう。だが、ベドカが思う所は別にあった。



「それに、私達の父さん母さん達をコイツは殺したんだろッ!!?」



 今にも泣き出しそうに叫んだその声に、誰もが口を噤む。


 戦場では、誰であろうと関係ない。死は平等に訪れる。

 ベドカの親はエルに殺された。昨日まで行方不明の扱いだったが、先程キューベ達が来る前に死亡した事がクルーシュの口からベドカ達へと伝えられている所だった。


 この反応も仕方がない事ではあった。



「コイツの所為で"ファイ"が死ぬって事になったら、私は一生許せないッ!!」



 鬼気迫る表情に、クルーシュは黙り込む。

 行方不明になってからというもの、ベドカは妹であるファイを元気づけようと、気丈に振る舞っていた。だから伝わって来るのだ。ベドカの気持ちが痛い程に。


 沈痛な空気が流れる中、キューベは大きく息を吐き、満を辞してベドカへと提案する。



「なら、エルと組み手でもしてみたらどうだ?」

「組み手……ですか?」

「武器を使わない徒手格闘のみ、大怪我に繋がる攻撃をした時点でその者の負け。それでベドカがエルに勝ったら、エルと第5部隊での出撃を見直そう」

「! 本当ですか?」

「あぁ、但し負けたら私の指示に従ってもらう。その上でエルの実力を認めてやって欲しい」

「あ……でも、」



 ベドカは戸惑った様にクルーシュへと視線を送った。それにクルーシュは呆れる様に肩をすくめて笑う。



「キューベ様も別に許してやれと言ってる訳じゃないし、良いんじゃないか? ベドカが負けるなら皆納得するさ」



 ベドカはクルーシュの言葉に強く頷き、エルを睨み付けた。



「よし! それじゃあ皆で訓練場へ出るぞ!」



 キューベの掛け声に皆がゾロゾロと部屋から出て行く。



(俺の意思は聞いてくれない、か……)



 皆が乗り気なのにも関わらず1人で反論するのもバカらしいと、エルはベドカからの視線を受け流しつつ後を追うのだった。

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