太陽はたぶん見ていた

ねこつう

第1話

 子どもの頃、私はずいぶんと田舎な場所に住んでいました。当時は、川に小魚がいたり、黒っぽい貝が結構取れので、父に聞いたらシジミだといって、私はびっくりしたのを覚えています。

 それだけ田舎だと交通も不便でした。小学校に通うのに、バスを使っていたのですが、そのバス停に行くまでに毎日1㎞も歩かなくてはならないのです。そのくらい田舎だったのですが、学校近くのバス停の隣に薬屋さんがありました。雨の時などは、雨宿りをさせてもらっていたりしました。

 薬屋のおばさんは、優しくて、ときどき話しかけてきます。その日のバス停には、同じクラスの友達グリーンリバーくん(仮名)と二人きりでした。

 薬屋さんは休みでした。透明なガラスの出入り口には、カーテンが閉まっていて、中は見えません。

 今思うと、なんで、そんなことをと思うのですが、私とグリーンリバーくん(仮名)は……

「どーん! どーん!」と 薬屋さんのガラスの出入り口に向かって、体当たりごっこを始めました。そんなことを続けていたら……変な感触がして、ガラスに亀裂が入り、割れてしまいました。

 みど……グリーンリバーくん(仮名)は、顔色を変え、私もこの世が終わりそうな顔をしていたと思います。しかし、幸か不幸か、周りには、ぼくたち二人しかいません。

 そのとき、ちょうどバスがやってきたのです。ぼくたちは、逃げるようにして、バスに乗りました。ぼくも、グリーンリバーくん(仮名)も一言も口を利きませんでした。学校を卒業しても、ずっと。

 次の日、薬屋さんの窓の出入り口は、テープで補修されていました。

 薬屋さんのおばさんも、何も言いませんでした。もちろん、ほかのバス停を待っている乗客、ほかの小学校の生徒たちも、何か気に留めるわけでもありません。しかし、バス停で待っている時(薬屋さんの割れたガラスの入り口は、ボードのようなもので塞がれていました)、私は、とてもいたたまれない気持ちでいました。

 みんながちらっと、変わり果てた入り口を見るのですが「誰がやったのかしらねえ」というような話題も出てきませんでした。

 何事もなかったように日にちは過ぎていき、しばらく経ってから、薬屋さん出入り口のガラスは元通りになっていました。

 ほんとうに、ほんとうに、薬屋さん……ごめんなさい……






 

 

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